ロシア万華鏡

第18回 ロシアの不思議な不動産市場について

2009年10月16日

数十年前に出来たアパートは
今も元気

2008年のリーマンショックとその後のグローバル金融危機の冷たい風が吹き出すまでは、ロシア経済は好調であり、消費ブームがおきていた。消費ブームのなかでも「マイホーム」フィーバーが目立っていた。
モスクワの不動産価格が、10年間に数倍も上昇して、年によって60%も80%も、「バブル」的な値上がりを見せていた。ソ連時代の遺産ともいえる狭いアパートに住んでいる人たちは、景気の上昇ともに懐が暖かくなり住まいを買い換えることを積極的に考え始めたのだ。

勢いづいた不動産の値上がりをみると、この異常なほどの市場の熱気は「バブル」としか名づけようがないのに気づく。そこで、景気が冷え込むと不動産市場が真っ先に下落すると思っていた専門家が多かった。しかし、その根底には先進国には見られない現象があったことを忘れがちである。ほとんどのロシア人は住宅ローンを抱えていないことが、この数年間のロシア経済の好調な成長の一つの特徴であった。


小学校のときから変わらない
郵便受け

先進国では、40代~50代の働き盛りの人たちの生活の大部分は住宅ローンの返済に与えられていることは周知の通りだ。しかしロシアは違う。ソ連時代には人々は国営アパートに住んでいた。そのアパートは、「狭い」ことと、数十年経って今は「古い」こと以外は、建築の質など、特に大きな問題がなかった。私が日本に来る前に両親と一緒に暮らしたアパートは、東京のあちらこちらで見かける古い都営住宅に非常に似ている。私は昨年の夏、10数年ぶりにモスクワ郊外にあるこのアパートを見に行った。入り口から階段まで、すべてを懐かしく感じるこの5階建てアパートでは、私の家族が暮らした4階の部屋に、昔父の部下であった人とその家族が今住んでいることがわかった。チャイムを鳴らすと本人がでて、20年ぶりの再会に驚いたものの、私と弟の幼いころの、懐かしい話題で話が盛り上がった。あのアパートとその新しい主が今も元気で頑張っていることをみて心が躍るように嬉しくなったことを覚えている。


では、本題に戻りましょう。ソ連当時のアパートは国のものであった。そしてソ連が崩壊してから、住民の所有権が認められ、民営化の手続きをすれば住んでいるアパートが自分のものになることが可能になった。ある不動産関係のリサーチ会社の調査によれば、ソ連崩壊から20年近く経った現在、86%のロシア人は、アパート、一軒家あるいは一軒家の一部(家族の場合は、そこに住んでいる人たちそれぞれ家の一部のオーナーである)を所有している。ちなみに、10%の人は賃貸国営アパートに暮らしており、4%が民間セクターのアパートを賃借している。

石油価格高騰が追い風になってから2000年から2008年までの期間は、ロシア経済にとっては「肥えた」年となった。人々の生活は日に日に豊かになっていき、狭くて古い家をよりいい住まいに替えたい欲が高まってきた。それに地方から主要都市にくる人が増えたため、住宅の需要も年々増していった。民営化されて自分のものになった古い住宅を売却し、得た資金を新しい家の頭金と代金の一部に当てて、足りない分を貯蓄から加えるか、銀行から借りてマイホームを買うパターンが広がってきた。新築も中古のアパートも値上がりしていた。そして政府は市場経済のインフラ整備に力を入れて、ソ連時代にはなかった住宅ローン制度を作ったのである。住宅ローンは少しずつではあるが普及しはじめた。しかし経済全体の規模でみる住宅ローンはまだ小規模であり、先進国の住宅ローンの普及度合いと大きな差がある。そして今もほとんどの人は住宅ローンをかかえることなく、なんらかの住まいを持っているのである。


昨年秋からロシアの景気が冷え込んで、銀行の貸し渋りは建設業を直撃した。資金繰りが厳しくなったなかで、新規計画が棚上げになった分、中古市場は値上がり傾向が強まっていく。それは、住宅需要が衰えていないことを裏付けている。そして新築住宅市場は、2年前の相場(それでも高い!)まで多少下がったものの、下げ止まりの気配が強い。

こうして、グローバル金融危機と国内経済の大幅な失速の影響を受けて、暴落するはずだったロシア不動産市場の不死身さをみると、面白いことに気づく。ロシアは、市場経済になっても、過去の影が強く、好況も不況も先進国と大きく異なる部分を持っているとのこと。それは、将来のビジネスチャンスが秘められている部分であると私は信じている。

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