ロシア万華鏡

第17回 薄れていく危機感—アフタークライシスのロシア経済について—

2009年5月29日

私は今年4月末にロシアにいってきました。これまでにロシア経済へのグローバル金融危機の影響については、マクロ経済データ、政府発表、メディア報道などを活用してフォローしてきました。けれども今回、街の様子を自分の目でみて、スーパーで買い物をして、エコノミストとビジネスマン、友達と家族の話を聞いてからあらためて、「景気はこうです」、「人の生活はこうです」と、ロシア経済の実態を実感することができました。


落ち着きを取り戻している経済

街角でみられる為替相場看板

知り合いのエコノミストは「はっきり言って、ロシアは国際金融危機に巻き込まれた犠牲者だ」という。つまり世の中で流動性が収縮し始めたとき、海外の投資家は手元の資金を確保するのに必死で、業績が悪くないロシア企業の株を売り出して市場を下落させた。流動性の高いエネルギー銘柄が市場の60%以上を占める構造にも問題がある。そしてルーブルは下落した。

海外資金の流入に大きく頼ってきた経済に「待った!」がかかった状態に陥った。政府は1998年の通貨危機のような状態を回避するのに必死となり、銀行や企業に必要な資金を提供し始めた。だが株式市場が下落したぶん、自社株、関連企業株などを担保に資金調達していた大手企業は追加担保に追われる日々を過ごすことになった。オリガルヒと呼ばれる大富豪のリストはだいぶ短くなった。

けれども、石油価格は今年1月に底を打ってから上昇し始め、今は1バレル55ドル付近まで戻った。ロシア経済は助かりそうな気配が広がってきた。そして株式市場が元気を取り戻している。ひとつの理由は国内外投資家に、昨年パニック状態に陥ってロシア株を売りすぎた後悔が広がり始めたことにある。そして株だけではなく人員削減も同様である。懸念されていた失業率の悪化に歯止めがかかった気配が出てきた。4月末から2週連続で登録失業者数は減少したと報じられている。08年10月以降に職を失った人数は37万1985人であったが、そのうち11万7606人がすでに再就職している。しかも、その半分以上は元の会社に戻った形だ。


さて街の様子はどうなっているのでしょうか

ボルシチのビジネスランチ

ハイパーマーケットは、今も意外とにぎわっている。変わった様子といえば、クリスマスあるいは夏の時期ではないのに「セール」の看板をどこでも目にする。それに大勢の買い物客が安売り商品のワゴンを囲む光景も前より目立つようになった。ハイパーマーケットの駐車場に止まった車の数は減っていないように見える。人が抱えている買い物かごとカートも、半年前と変わらず品物でいっぱいだ。

飲食店はどうでしょうか。モスクワのメーンストリートに当たるトベルスカヤ通りはおしゃれなレストランとカフェが多い。仕事の打ち合わせも兼ねて今回行った店は、どちらかというと若者向けのレストランとカフェの間の、2階建ての軽食店である。春のモスクワは空が遅くまで明るい。午後7時くらいに入ったこのお店は、客が徐々に増えて、1時間したら席が空くのを待つ行列もできた。前と変わったことといえば、モスクワに出稼ぎにきている中央アジアの若者の代わりにロシア人の店員が多くなったように見えたことだ。

一番変わったのは建設現場だ。半年前までモスクワが一つの大きな現場に見えるほど無数の工事現場が圧倒的な存在感を持っていたが、今は無人島のように閑散としている。平日の昼間なのに作業員がまったく見当たらない。動物園の客が去った後の、孤独なキリンのように首を下ろして止まった建設機械の姿が、まぶしい春の日に余計に寂しく映った。

けれども今、その不動産市場が元気を取り戻しているという情報もある。

安定傾向が見られ始めた住宅市場

活気が戻ってきてほしい建設現場

ロシアの住宅市場は去年の秋から低空飛行をしている。ドル建ての不動産価格はピーク時と比べて30%落ちたが、これはルーブル安の影響が大きい。ルーブル建の不動産価格の下落幅は10%に留まっている。

今年に入ってから5月まで、不動産市場は未だ値下がり傾向が続いているものの、値下がりのスピードが大分鈍ってきた。そして少しずつではあるが「買い」ムードが入っているとの情報もある(『ロシイスカヤ・ガゼタ』紙、2009年4月21日電子版)。人気上昇のセグメントとは、低価格の住宅(例えば、トイレとバスを共用して、数世帯が共同生活を送っている住宅の一部屋など)と、それと正反対の高級住宅である。

しかしロシアの景気回復が不動産市場から始まるのでは、と喜ぶのは早い。ロシア人の購買力が下がっているなか、当分の間、住宅市場が飛躍的に上昇することは期待できないだろう。建設会社は生き残るために、より低価格、より付加価値のある住宅を提供するしか活路がないだろう。日本の建設事情のように、すでに付加価値の高いものにさらに付加価値をつけるのは難しい。けれども、内装のないまま、「空箱」状態での未完成住宅を人に渡すということが日常化していたロシアの建設業界では、差別化をはかるための付加価値をつけるのはそれほど難しくないと思う。普通の住宅を作ればよい。壁があって、床、天井もあって、バス・トイレが付いている住宅を作ればよい。

「空箱」住宅事情について、詳しくは日経ネットBIZ PLUSご参照ください新しいウィンドウで開きます)。

今の住宅事業の原始的なやり方を変えれば、つまりごく普通のことをすれば、市場に元気がより早く戻って、ロシア経済を活気づけるだろうと私は信じている。

(この原稿の一部は、5月20日に日経ネットBIZ PLUS新しいウィンドウで開きますに掲載されたものです)

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