ロシア万華鏡

第15回 Very Happy New Year to You!

2008年1月10日

12月のヨーロッパはクリスマスを飾るイルミネーションがすごいと思う人が多いだろう。私もそう思っていた。そして、モスクワとロンドンのクリスマスムードに浸ることを楽しみの一つに、私は12月の半ばころヨーロッパ方面に出かけた。

しかし、期待というものはよく外れるものだ。今回も改めてそれを認識させられたのである。


妖精達

12月のモスクワは日の短い季節で、午後5時はもう真っ暗である。12月10日にモスクワに着いた私にとって、日本線の飛行機でモスクワのシェレメチェボ空港に着陸するのはこれで最後。12月14日からは、JAL便もアエロフロートの便も、真新しい国際線のターミナルを誇るドモジェドボ空港に移ってしまうことになったのだ。いつも無愛想な感じのするこの空港は、私にとって思い出のトランクルームのような存在である。ソ連時代に初めて海外に行った時のことや、日本から来たお客さんを通訳として迎えにいったことが懐かしい。もっとも私は、冷戦の匂いが消えないこの古びた空港がどうしても好きになれなかった。ところが今回、別れを目前にして空港のロビーに降りた途端、懐かしさを恋しさと間違えて、「さよなら、さびしくなるよ」と言いたい気持ちになった。危ない、危ない。別れる事になると、好きでもなかったものまでが好きであったかのように思える。一瞬この錯覚に騙されたが、「いけない、いけない」と偽りのノスタルジーを振り払う。相変わらず薄暗く不親切な到着ロビーを出ると、すっかり夜と見間違えるほど暗い冬の夕方のモスクワに再会する。


喫茶店が入っているデパート

外の雪は、この時節に特有な静かな吹雪に変わり始めて、私を懐かしく居心地のいい年末のムードに戻してくれた。都心に向かうタクシーの窓から目を離さず、今か今かと豪勢なイルミネーションの登場を待っていた。が、繁華街のトヴェルスカヤ通りに入っても期待していたほどの豪華さが見えなかった。イルミネーションがまったくなかったわけでもないけれど、まあ、日本で言えば、きらびやかさを近所と競い合っている家の程度のものだ。丸の内や六本木ヒルズなどと競争相手になれるような飾りは、モスクワで一つも見つからなかった。4日後のロンドンでも似たような状況であった。

少々がっかりしたが、それは日本の贅沢に慣れたことの裏返しだと思えば納得できた。


第1ステップ

クリスマスのイルミネーションの楽しみはあっけなく期待はずれに終わったが、実はモスクワで思いがけない楽しみに出会えたのは、この旅のうれしい出来事であった。

モスクワ中心地にある外資系ファンドのオフィスでミーティングが終わったころには窓の外はもう暗かった。夕方6時に近い時間だ。この会議はモスクワでの、力が入った最後の仕事であった。仕事で頑張ったご褒美に、そして外の冷たい空気に触れられて少し強ばった顔をほぐすために、洒落たカフェーで熱々のロシアン・ティーを無性に飲みたくなったので、「クレムリンに面した喫茶店に行ってみましょうか」と、ミーティングに同席した同僚を誘ってみた。赤の広場を飾る玩具のように可愛らしい聖ワシーリー寺院の横から回って広場に入った私たちが目にしたのは、場所を考えればかなり大きなスケート場であった。スポット・ライトが当てられ、懐かしいレトロな音楽が流れている。リンクの中には、スイスイと上手に滑る若い女性のインストラクターと彼女に教わる子供たち、放課後にやっとデートの場所を見つけたらしく少しばかり紅に染まったほっぺに「幸せ」の文字が書いてあるハッピーな高校生カップル、2~3人の女子中学生グループ、スケートの技を披露する男子大学生、会社帰りのサラリーマンらしき姿も。皆、とても楽しそうに笑いながら滑っている。

クレムリンの側で、こんなに幸せいっぱいの笑い声に出会えるとは、想像もしなかったので、しばらくリンクの動きに見とれていた。すると、脳裏に小さいころの風景が鮮明に蘇った。小学校のころ、学校が終わると毎日友達とスケート場に通って、文字どおり倒れるまで遊んでいた記憶だ。それが生き返るにつれて、なんともいえない温かい幸福感で満たされていくのを感じた。そして、この瞬間を少しでも自分のなかに止めておくために、あわててカメラを取り出してシャッターを切る。やはり、12月は不思議な出会いの奇跡が起きても不思議でない、特別な季節なのである。

期待したことが外れて、思ってもいなかった遠い昔の面影に出会えて、子供のころの、格別に濃い幸せを再び味わった。人生って本当に謎が多い。

これで新年に向かって一つの抱負ができた。「柔軟性を身に着けて意外性を楽しんで人生のすべてのものをありがたく受け止めよう」、と。

皆様にとっても新2008年は、多幸かつ新鮮さに富んだ不思議なくらい楽しい年になりますように、心から祈っております。

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