ロシア万華鏡

第14回 国内製造業の現代化と投資家の高収益を結びつけるPEファンド

2007年12月26日

この数年間のロシア証券市場の活況、個人投資家層の誕生などを背景にファンド投資が急速なスピードで普及している。しかし純資産総額ベースで見た場合、一般投資家向けのオープン・エンド型ファンドとセミ・オープン・エンド型ファンド(公募の投資信託等)の合計は、ファンドの総資産の26.2%を占めているに過ぎず、大半は機関投資家および富裕層向けのクローズド・エンド型ファンド(長期保有の私募ファンド等)となっている。一方、先進諸国ではクローズド・エンド型ファンドへの投資家は、通常、民間の生命保険会社や年金基金等の機関投資家一般的だ。しかしロシア国内市場の機関投資家は、登場してから間も無く、規模も小さいため有力な投資家とまではなっていない。現段階での主なクローズド・エンド型ファンドの投資家は、政府および富裕層に偏っているのが実状だ。

こうした事実を踏まえ、以下ではロシア市場のクローズド・エンド型ファンドの中で、特に海外機関投資家からの関心を集めているベンチャー・キャピタル・ファンド、プライベート・エクイティ・ファンドの動きについて触れてみたい。


ロシアのベンチャー・キャピタル・ファンド、プライベート・エクイティ・ファンドの変化

当初のロシア市場では、スタートアップ企業へ資金供給を行うベンチャー・キャピタル・ファンドが主流であり、既に1993年頃から存在していた。しかし1998年の通貨危機の際に多くのファンドが市場から撤退し、その後、残ったファンドのほとんどは、“ベンチャー・キャピタル・ファンド”という性質よりも、企業買収や提携を手掛ける“買収ファンド(バイアウトファンド)”と呼ぶに相応しい姿に変貌した。

ロシアの「プライベート・エクイティーおよびベンチャー・キャピタル協会(“Russian Private Equity and Venture Capital Association”以下RVCA)」のデータによれば、黎明期(1994~1998年)の国内VC・PE投資家は、事業会社38%、商業銀行34%、政府17%、機関投資家11%、個人投資家0%という構成となっていた。これに対して、同期間における国外VC・PE投資家の構造は、機関投資家38%、国際金融機関26%、政府関連機関19%、個人投資家9%、事業会社7%、商業銀行は1%、と機関投資家および政府関連機関の割合が高い。

一方、通貨危機後の1999~2004年には、国内VC・PE投資家の構造は、事業会社34%、商業銀行30%、機関投資家26%、個人投資家9%、政府1%と、政府の割合が大幅に低下し、代わって機関投資家および個人の割合が高まっている。国外投資家に関しても1999~2004年は、機関投資家47%、事業会社27%、国際金融機関10%、個人投資家8%、商業銀行4%で、機関投資家と事業会社のシェアが大きくなっていることがわかる。

2005年以降、ロシア政府は経済発展をイノベーション・ベースで進める政策の一貫として、政府系のベンチャー・イノベーションファンドや、ベンチャーカンパニーなどを設立して、官民のパートナーシップをもって積極的に投資を進めている。そのような“中小企業応援ベンチャー・ファンド”の特徴としては、投資先がイノベーションプロジェクトや初期段階発展の企業であること。平均投資額は50万ドルから150万ドルまでであることなどである。また投資家の内訳としては、連邦予算、地方行政府予算からそれぞれ25%づつ、民間投資家から5割のシェアとなっている。またその数は、2007年の夏現在、20のファンドが存在している。


産業別の投資状況

2006年には、ロシア企業への投資額は6億5千3百万ドルであり、2005年と比べれば2.5倍増加している。産業別の投資状況は、消費市場関連分野は26%、テレビ通信は21%、金融業は16%、運送業は13%、建設は4%、バイオテクノロジー2%、化学製品2%、産業設備1%、電子機器1%、コンピューターは1%、エネルギー関連1%,「その他」は12%である。2006年の投資傾向は、金融セクターへの投資が積極的に行われるようになったことである。2005年には金融セクターへの投資額は1千6百万ドルであったのに対して、2006年にはこの金額が1億7百万ドルまで跳ね上がった。


イグジット(投資企業の売却)について

投資イグジットについての公開情報は不足しているが、RVCAのアンケート調査によると、「対象企業の経営者が株式を買い取った:28件(42%)」、「戦略投資家への転売:27件(41%)」、「投資案件の消却:6件(9%)」、「他の投資ファンドへの売却:3件(5%)」、「IPO株式公開:2件(3%)」となっている(1996~2004年の合計66件ベース)。

これらのうち「戦略投資家に転売」あるいは「経営者による買戻し」のケースでは、大規模の取引が行われたことが少なからず報じられている。例えば、2004年にDelta Private Equityはサンクトペテルブルグのケーブルテレビ会社(”National cable network”社)に5百万ドルを投資し、その1年後に同シェアを2千万ドルでナフタ・モスクワ(“Nafta-Moscow”)社に転売している。また、ロシアの大手投資会社トロイカ・ディアログ社は、3年前の2004年に1億ドルで小売チェーンのプレステージ・アルバート社の株式40%を購入したが、2007年に同シェアをプレステージ・アルバート社のオーナーに4億ドルで売却している(ロシア経済紙『ベドモスチ』2007.08.23)。

なお、ファンドの規模に関する興味深いトピックとして、2007年3月にBaring Vostok Capital Partners社がロシアにおける最大規模の10億ドルのファンドとしてBaring Vostok Private Equity Fundを立ち上げたことが伝えられている。同ファンドの投資先分野には、金融、通信・マスメディア、石油・ガス産業および消費財産業などのセクターが挙げられている。投資する地域は、ロシアやカザフスタン、ウクライナなどの旧ソ連邦の共和国である。ファンドへの投資家としては、アメリカ、ヨーロッパおよびアジアの機関投資家(年金ファンド、ファンド・オブ・ファンズ)などとなっている。

また、2006年8月に国営の「ロシア・ベンチャー・カンパニー」が設立されたことによって、今後はベンチャー市場がより活発化すると言われている。現在、ロシア・ベンチャー・カンパニーの資本は150億ルーブル(約700億円)であり、その内50億ルーブル(約235億円)が2007年上半期に民間投資ファンドへ投下される予定である。

2006年末には、ロシア国内のベンチャー・ファンドおよびプライベート・エクイティ・ファンドの運用資金額が62.8億ドルであり、運用会社の数は98社まで上昇してきたのである。

一番多く用いられるイグジットは、戦略投資家への転売であり、2006年にはイグジット全体の88%にまで達している。


ロシアプライベート・エクイティ・ファンドについて期待すること

日本では“ハゲタカ”といったダーティーなイメージが拭えないプライベート・エクイティ・ファンドではあるが、ことロシア市場経済の発展に関しては多くの役割を期待されている。まずひとつはロシア市場で脆弱な銀行機能(間接金融)の代替である。ロシアの公定歩合は10%、インフレ率も2桁台と未だ長期資金の調達が困難な状況だ。社会主義体制崩壊後、国内銀行の一連の破綻劇により未だロシア国民が安心して銀行へ預金を預けるまでには至っていない。潤沢な資金供給を受けられない(預金が集まらない)銀行の多くは、リスクマネーの供給能力を著しく低下させることとなった(※ちょうど日本の不良債権問題時の日本の銀行の状況に似ているとも思える)。ロシア国内の銀行は、未だリスクが高い中小企業まで十分な資金供給を行えていない格好だ。実際にロシアのプライベート・エクイティ・ファンドの保有企業の殆どが3千万ドル~5千万ドルの中小型の企業への資金提供が殆どであり、資源関連の大型銘柄の保有が皆無といった状態もその姿を鮮明に表しているだろう。

またもうひとつ重要な役割として、ロシア市場経済で課題となっている、脆弱な製造業(第2次産業)の発展に欠かせないことだ。取り立てて技術力が高い訳でない(※ロシア人技術者に弁解するつもりはないが、物が無い時代が長く続いていたので修理技術は中々なものであるが。)、ロシア国内の機械メーカーを投資ファンドの企業価値向上技術(多くは西側諸国の経営コンサルタントを利用)を用いてバリューアップを図る姿は、未来のロシア国内製造業の現代化に多いに貢献していると考えられる。資源高で蓄えた潤沢な資金を国家の基盤である製造業への投資へ振り分けることは、未来の継続的な成長に欠かせない要素と考えられるからだ。

私は現在この2つの視点から、ロシアのプライベート・エクイティ・ファンドの調査を進めている。現在は日本の機関投資家からの資金提供は皆無に近いが(調査を進める中、私が始めて会った日本人!といったコメントも多く聞かれた)、継続的なロシア経済の発展のために、オルタナティブ投資を積極化している日本の機関投資家からのロシアプライベート・エクイティ・ファンドへの資金供給も期待している。日本とロシア、両国の架け橋となる役割をいつか担うことに期待を膨らませ、日本の投資家とロシアプライベート・エクイティ・ファンドを精力的に回る日々を今日も続けている。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。

お問い合わせ

コンサルティングに関するお問い合わせは大和総研が承ります。

お問い合わせ

コンサルティング

コンサルタント

セミナー