ロシア万華鏡

第13回 労働市場のグローバル化実感

2007年11月13日

外資系銀行の窓にロシア教会が。
今のロシア金融業界象徴に見える

モスクワやサンクトペテルブルグにある金融機関の専門家に会いにいくたびに、外国人が数多くいることに驚く。そうした金融機関は必ずしも外資系のものではなく、ロシアの銀行、投資会社やアセット・マネジメント会社、投資ファンドなど、一言でまとめれば、ロシアの民間金融機関である。ロシアの企業なのに欧米人が多い。単に多いというだけでなく、アセット・マネジメント会社であれば、社長や取締役、銀行だったらセールスマネージャー、リサーチ部門のヘッドなどなど、つまりその金融機関の運営に携わる人間の多くが欧米人である。

ミーティングにはたまにロシア人に出会うことができても、彼もしくは彼女をロシア人とすぐに見分けることが非常に難しい。身なりは欧米人と変わらず、流暢な英語で話しているからである。会議が終始、英語で進められているパターンは、どこに行っても変わらない。

ついこの間、ある銀行のリサーチ部門のアナリストに取材をしたときの出来事。名刺交換したら全員がロシア人と分って、挨拶から本題に入ろうとするとき英語からロシア語に変えた。数分間、ロシア人同士のロシア語の会話が続いたが、先方は「できれば英語にしてほしい」と言い出した。少々驚いたけれど、「かまいません」と答えた。すると、相手が申し訳なさそうな表情で言うには「うちはワーキング・ランゲージが英語でして、今の話はロシア語であまりしたことがないので、少しやりづらいんです…」。

なるほどと思った。ソ連時代は、一応「銀行」という名のついた機関があったものの、私たちが慣れている銀行業務とはほど遠いことをしていたのである。企業にローンを貸すという表現が用いられた行為があったが、そのローンは返済する必要がなかった。最初からである。

ロシアの金融市場の歴史は高々15年である。外国人のエキスパートの力を借りないと、今どきの高度な金融技術に追いつくことができない。用語も必然的に外来語になるだけではなく、ロシア語ができない(できる人もいるが全員ではない)経営者の下で仕事しているのなら、ワーキング・ランゲージが英語であることもうなずける。


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ロシア企業なので、永遠にワーキング・ランゲージが英語であり続けるとは思えない。欧米人に負けないようなロシア人の人材で金融機関のニーズを十分に満たすことができたら、言葉もロシア語に変わるに違いない。それはいつ起きるだろうか。ロシアの大学の講義の内容は、西側の教科書を参考にしてだいぶ現代的なものになったし、海外留学の経験を持つ優秀な若者も少なくない。金融工学だって先端的な学問を身に着けたロシア人の専門家が労働市場に出始めている。しかしそれで「めでたし」と喜ぶのは、まだ時期が尚早である。金融ビジネスを成功させるのは、知識と能力だけではできない。経験が必要である。だから優秀な若いロシア人の銀行マンや証券マンの欠点は一つ。つまり「若さ」なのである。しかしこの欠点のいいところは、自然に治ることである。まあ10年も経てばロシアの銀行マンとロシア語でコミュニケーションを取れるだろうという結論に至った私は、ほっとした気分になった。

ロシア側の事情がクリアーになったので、こんどは、はるばる外国から来た欧米人の立場にたってみようという気になった。

ちょうど、今回筆者が会って来たアセット・マネジメント会社の最高責任者、ファンドマネージャーとセールス部門の責任者は、ソ連が崩壊した劇的な90年代からロシアを生活や仕事の拠点にした外国人だ。私は「ロシアはどこがいい?」と聞いてみた。誰の答えも一緒であった。「成長している国は面白い」、「ニューヨークに戻る度に退屈な気分になる」。これが全員の意見のまとめである。ロシアはビジネス・チャンスもあり、自分の能力を発揮させるのにはよい機会であるということなのだ。好景気に賑わっている今のロシアはそうだろうが、10年も前にロシアに来て、苦しい経済状況を経験したにもかかわらずロシアへの信頼と希望を失うことなく頑張ってきたその人達は偉いと思う。企業に派遣されたのではなく個人で来て、ロシアに腰を据えた欧米人のチャレンジ精神に脱帽してしまう。

マクドナルドのモスクワ進出からほぼ20年。
人気が劣らない

とはいえども、モスクワの街風景の写真を撮っても、これはモスクワだという証拠になりそうなものはどこにも映っていない。デジカメの画面には、ヨーロッパのどこにでもありそうな建物や、ロンドンやベルリンあたりにいそうな服装の歩行者、それに外車ばかりが写っている。それと同じように、ロシアの銀行グループのミーティングルームも、丸の内の日本のアセット・マネジメント会社や投資ファンドの現代的なミーティングルームにそっくり。そこの壁には英語しか響かないのだと考えると、少し悲しい気分になる。

ロシアから帰って向こうで会った人との会話を振り返ってみる。すると、労働市場のグローバル化が進んでいるという印象が強くなるともに、それもどうも一方通行のようなものだという気がしてならない。

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