ロシア万華鏡

第12回 モスクワの休日

2007年10月3日

ちょっぴり観光気分

私はこのごろ、インベストメント・バンキングの勉強に必死になっている。理由はいくつかある。昔から憧れていた分野であるし、大和総研という環境がとても恵まれているので、一所懸命に勉強しないのは罪深いと思うほどになっているということもある。それに今、ロシア最大取引所MICEXと東証との提携の話が浮上しているほどに、ロシア証券市場が飛躍的に成長しているので、ロシア専門家にとってはこの分野の知識が必須であることも間違いない。

今までの勉強もそうだったように、証券の勉強も本集めから始めていた。

今月、モスクワに向かう飛行機で読んだ “BIGWIG BRIEFS:Become an Investment Banker”は、10時間の飛行時間にすぐに読めてしまうくらい薄い本だが、役に立つアイディアやアドバイスがぎっしりつまった宝箱のような本で、お気に入りの一冊だ。

この本には、専門的な知識以外にも、インベストメント・バンカーはよく働き、よく休むことが重要であるなどの常識が書かれている。“Relax and have fun” つまりリラックスして、楽しく過ごすことを忘れるなということである。時間が空くといつも原稿を書いている私だが、今回はこのアドバイスを念頭に置き、週末に突入した際にはホテルに引き篭もらず街に出かけることに決めた。ロシア人の休日の風景を紹介したいという気持ちもあった。


新しい名所―ツァリツィノ宮殿

すっかり観光スポットになった
ツァリツィノ

ロシア人はどういうふうに週末を過ごすかと聞かれる度に、私は少し戸惑う。なぜならモスクワの周りには海がないのでマリン・スポーツはできないし、山もないのでハイキングもできない。残るのは、ダーチャ(郊外にある別荘)で過ごすか、公園で季節の移り変わりを楽しむという選択のみである。

9月に、モスクワ市が設立されてから860周年を迎えた。大道芸と野外コンサートから花火の打ち上げまで、モスクワの秋空が祭り一色であった。市民は「モスクワの日」を祝っていた。この時期に合わせて、2年がかりの大工事を経てモスクワ南東地域には豪華な宮殿が建てられた。その地区の名は、ツァリツィノである。この宮殿はどことなくパリのルーブル美術館のたたずまいを思わせる構造物である。同名の地下鉄駅に隣接している200ヘクタール近くある広さをもつ複合建築物は、モスクワの新しい名所として人気を集めている。


花嫁の記念写真

今年の秋は、モスクワでは不思議な天気が続いている。夕方から夜にかけて雲が重くなり、雨が降りそうな雰囲気の中に街は沈む。真夜中には、雨の単調な音で何度も目を覚ます。朝はアスファルト色の低い空で、天気に期待することなどとうていできないような気分にさせられる。

しかし、この鬱々とした天候が、午前10時を過ぎると雨も上がり、日差しが恐る恐る出て来て、やがて輝くような天気に変貌する。こんな調子の天候が毎日続く。日中は気持ちよく晴れていても気温が10度を超えることはなく、長袖のカーディガンを羽織っても肌寒く感じる。懐かしいモスクワの秋だ。週末にツァリツィノに出かけてみることにした。

ロシアは土日に結婚式が多い。モスクワのみならずサンクトペテルブルグでも、去年行ったエカテリンブルグでも、全国あちらこちらで、新婚カップルと彼らの友人達のグループが、その土地の名所にきて結婚を祝う。モスクワの新名所になったツァリツィノの宮殿も土曜日は新婚カップルだらけ。永久の愛を誓う二人と、シャンパンの栓抜きの鮮やかな音、そして「ゴーリコォ(苦い)!」と新婚のキッスを求める客の掛け声でツァリツィノが賑わっている。その「ゴーリコォ!」という掛け声は昔からあったようで、苦い酒を飲んでいる客は、苦さを和らげる新郎と新婦の甘~いキスを求めるのである。

しかし、今年の秋のツァリツィノは、ほやほやの新婚さんのキスがなくても結構甘い場所である。なぜならばここには巨大な蜂蜜市場が開かれているのである。


巨大な蜂蜜市場

どれにするか、迷う客

ロシア人の紅茶好きは有名である。実は蜂蜜が紅茶にとても合うのだ。そのためなのかロシア人は蜂蜜も大好きである。ロシアの全地域から集まった蜂蜜の生産者は、数え切れない種類の蜂蜜をモスクワに持ち込み、毎年9月から10月にかけて壮大な市場を開いている。蜂蜜の色は、透明で薄く黄色がかかった、さらりとした液体から、濃い茶色や黒色の固体に近いものまである。蜂蜜のワインもあちらこちらで奨められている。蜂蜜とプロポリス、蝋(ろう)混じり蜂蜜などなど、品ぞろいも、生産地域も、もちろん味もバラエティーに富んでいる。

売り手の表情は、買ってほしいというより、食べてほしい、味を楽しんで、そして、ほめてほしいと言っている。ほんのちょっとずつ試食をしていくと、蜂蜜の味に相当くわしくなったような気がしてくるが、蜂蜜のワインに酔っているだけかもしれない。蜂蜜の市場は楽しい。


夕方にはロシア人の休日の過ごし方の観察を終え、蜂蜜ワインで少しばかりほろ酔いしてホテルに戻ってきた。そして、とてもリフレッシュした気分で翌日のアポイントメントの準備に入った。

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