ロシア万華鏡

第9回 ロシアの証券市場の発展を唱える会議

2007年6月20日

今年4月末に私はロシア証券業界の年次会合に参加するためにモスクワ出張に出かけた。会議は4月25日~26日、モスクワのワールド・トレードセンターの国際会議会場で行われた。主催者は、証券業界団体 «Национальная ассоциация участников фондового рынка» - (“National Association of Securities Market Participants”)である。団体のロシア語名の頭文字をとって«НАУФОР»になるけれど、どういうわけか、ローマ字で書くときにもロシア語の略名を英字綴りで―“NAUFOR”―と書くのである。ロシアは謎が多い。


発表者の顔ぶれ

今年の会議は、去年に続いて2回目である。まだ歴史が浅いけれど、政府関係者や証券業界の「顔」は勢ぞろいで、ロシア証券市場の堅調な成長とともにこの会合も、近い将来にロシア経済界を代表するものになるという期待が主催者側にあるようだ。

今回の発表者は、ロシア金融庁にあたる金融市場の監督機関長官(当時。5月半ばに辞任)ヴューギン氏を始め、その副長官、ストレルツォフ氏およびグサコフ氏が参加し、中央銀行の副総裁コリシェンコ氏、議会の「金融機関および金融市場の委員会」会長レズニク氏と、堂々たる顔ぶれであった。さらにロシアの2大証券取引所、モスクワ銀行間為替取引所(Moscow Inter-bank Currency Exchange、以下MICEX)社長リブニコフ氏および、ロシア取引システム(Russian Trading System、以下RTS)社長サフォノフ氏もプレゼンテーターとして参加した。

競争関係にあるこの2つの取引所の代表者は、ときおり対立を露にして、ロシアン・ジョークを飛ばし、会場をにぎわせていた。株式市場のほぼ80%を占めているロシア中央銀行系のMICEXは、先物取引に強いが全体の規模が比較的小さいRTSを吸収するのではないかという説が囁かれているなか、近い将来に上場を検討しているRTSに対して、MICEX社長はこうコメントをした。「御社のIPOは、ロシアを代表する証券取引所の当社にお任せください。ベストを尽くします」この皮肉たっぷりのコメントに対して、RTS社長が苦笑いし、会場は爆笑した場面もあった。

政府、取引所の関係者以外には、ロシアと外資系の投資会社、外資系銀行のエコノミストやアナリストが参加して、実力は勿論のこと、マスコミでの知名度においても名高いメンバーであった。全部ではないのだが、代表的な会社名を挙げるならば、トロイカ・ディアログ投資会社、UBSロシア、ドイチエ・バンクなどの国際金融機関のエキスパートが発表の場を持った。

会議で取り上げられた主なテーマは、一日目は「ロシア証券市場の現況およびその発展目標」「市場発展に不可欠なインフラ改善」「マクロ経済状況および国内証券市場の発展」であり、二日目は「企業による証券市場へのアクセス」「投資ファンド」等の、より詳細なトピックが設定されていた。政府関係の発表者は、ロシアにおける金融機関の管理・監督制度の構築が大きな課題であり、またインフラ整備が市場の発展において不可欠であると主張していた。特に、中央預託機関が欠如していることが、取引コストを引き上げさせるなど、証券市場の成長を妨げていると述べた。90年代に「ゼロ」から始まったロシアの証券市場は、この10年間余りに、98年の危機も乗り越え、ロシア経済の好調な成長とともに大きく伸びている。しかし、「成長の病」とも言える法的インフラの未整備、あるいは、天然資源の輸出企業頼りの市場構成などといった、今のロシア経済の歪みを反映して証券市場はまだまだ不完全であり、今後の市場機能を高めるためにはその是正を急がねばならないのは明らかであると、発表者が次々に述べていった。


ロシア株式市場の現況と今後の課題について

2006年のロシア株式市場の時価総額は9,610億ドルであった。2007年4月1日時点の時価総額は10,360億ドルである(RTSおよびMICEXに同時上場している企業を含む)。

株式市場の総取引高は2005年には1,798億ドルであり、2006年は5,976億ドルである。大部分をMICEXおよびRTSグループ取引所が占める。多くの発行体は、双方の取引所で上場している。

取引されている銘柄は、2007年1月1日現在、MICEXの上場リストには普通株48銘柄と優先株の15銘柄、非上場リストには普通株182銘柄と優先株75銘柄が含まれている。

RTSグループ証券取引所の株式上場リストには、普通株64銘柄、優先株14銘柄が含まれており、非上場のリストには普通株209銘柄と優先株103銘柄が含まれている。


尚、MICEXおよびRTS証券取引所の2006年の総取引高は、MICEXは7,549億ドルであり、前年比で3.3倍伸びている。RTSは前年比で2倍増となり、1,500億ドルであった。


このようにロシア証券市場は順調に成長しているものの、今回の会議でも多くの発表で指摘されたような問題が幾つかあることをわすれてはいけない。

一つは、先ほど記したように、中央預託機関ができていないこと、そして、石油・ガス会社が時価総額で市場の大半を占めている問題である。

集中度合いについては、表1の数字があらわしているように、時価総額上位10社で市場時価総額の3分の2を占める。

表1 時価総額の高い順の企業(2007年4月1日現在)

会社名 時価総額
(億ドル)
市場時価総額に
対するシェア, %
1 Gazprom(天然ガス) 2,494 24.1
2 Rosneft(石油) 882 8.5
3 Sberbank(銀行) 796 7.7
4 LUKOil(石油) 739 7.1
5 RAO UES Russia(電力) 586 5.7
6 Surgutnrftegaz(石油) 517 5.0
7 GMK Norilsk Nickel(金属) 354 3.4
8 MTS(通信) 196 1.9
9 Gazpromneft(石油) 190 1.8
10 Novolipetskii metallurgy
Kombinat(金属)
173 1.7
上位10社合計 6,927 66.8
市場全体の時価総額 10,364 100.0

市場の集中度合いは徐々に下がってはいるが、未だに海外他市場と比べ高レベルにある(※1)。

さらに、市場構成においては、流動性の高い大型株を除くと、多くの上場銘柄の流動性は低い。証券取引所別に見る場合には、特にMICEXの場合には、集中度合いが高く二極化が目立っている。また、2006年には、ガスプロムが加わったため、その集中度合いがより上昇した。MICEXの場合、2004年では上位10社の取引高が全体の94.3%を占めていたが、2006年には96.8%に達した(表2)。

RTSにおける集中度合いはMICEXよりは低いが、全体的には上位10社の取引高は市場全体の9割を占めている(表3)。

表2 MICEXにおける取引高上位10社(2006年)

発行企業 全体に対する割合, %
Gazprom(天然ガス) 30.6
RAO UES Russia(電力) 26.6
LUKOil(石油) 16.1
GMK Norilsk Nickel(金属) 7.1
Sberbank(銀行) 6.5
Surgutnrftegaz(石油) 4.4
Rostelecom(通信) 3.1
Tatneft(石油) 1.0
Uralsvyazinform(通信) 1.0
MTS(通信) 0.5
合計 96.8

(※1)2001年には集中度合いは、85.3%、2004年には77.4%であった。

表3 RTSにおける取引高の上位10社(2006年)

発行企業 全体に対する割合, %
Gazprom(天然ガス) 39.7
RAO UES Russia(電力) 16.8
LUKOil(石油) 13.6
GMK Norilsk Nickel(金属) 5.9
Sberbank(銀行) 5.5
Surgutnrftegaz(石油) 4.0
Transneft(石油) 1.8
Rostelecom(通信) 1.2
Severstal(金属) 1.1
MTS(通信) 1.0
合計 90.6

(上記のデータは、NAUFOR, MICEX,RTSより)


二日目のディスカッションが終わったころに、私はこの会議に参加してよかったと思った。新しい情報を収集し、ロシア証券市場の今後の発展と課題について、専門家の意見を聞くことができた。しかし、それ以上に、「生き物」である証券市場の脈に手を当て、その動きの感覚を捉えることができたと感じた。よかった、よかった。

ロシア語ではあるが、この会議の資料は、NAUFORのサイト(http://naufor.ru/tree.asp?n=5607新しいウィンドウで開きますhttp://naufor.ru/tree.asp?n=5853新しいウィンドウで開きます)に掲載されている。

ロシア語の資料に関心を持たない方は、そのNAUFORの英語版サイトに(今回の会議ではないが)ロシア証券業界関連の情報が載っているので参照されたい(http://naufor.ru/default.eng.asp新しいウィンドウで開きます)。

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