ロシア万華鏡

第5回 Thank you, Mr.Valentine Morozoff

2007年2月22日

クリスマスの思い出が遠ざかり、お正月に少し食べすぎたという反省もだいぶ薄らいだころ、日本列島にハッピー・バレンタインがやってくる。

もちろん日本だけにではない。世界中に親しまれているこの「恋の日」は、厳しい冬でも暖かい気持ちにさせてくれる。中世ヨーロッパにもあったといわれている2月14日のSt.Valentine’s Dayには、好きな人に愛の告白をしたり、恋人同士でプレゼントを交換したりして、世界が恋を祝う。プレゼントは様々だが、ヨーロッパとアメリカでは昔から、お花やハート型の小物、ジュエリーの人気が高い。男性から女性への贈り物にはお花が多く、特に、情熱のシンボルである赤いバラに人気があるという。

そうしたなかで、女性から男性へチョコレートを贈るという日本のバレンタイン・デーは少々特別だが、個人的には日本のバレンタインが一番好きだ。なぜなら、それは世界一豪華なチョコレートのフィエスタだからだ。仕事の都合があったとしても、2月14日の前の一週間は、日本を離れることを最大限に避けてきたほど大事な時期なのである。今年も例外ではない。デパートのチョコレート売り場がだんだん元気になっていくにつれて、私の心の中のチョコ愛好家の虫がうずうずし始める。四季を横切る、甘い「五番目の季節」の到来を知らせているのだ。


「ロシアにもバレンタイン・デーがあるの?」。先日、行き付けの美容院で若い女性美容師にこう聞かれて、これは少し面倒なことになったなと思った。正直いって、ロシアをテーマにする話のほとんどは、状況がだいぶ込み入っているため、簡易に説明できないことが多い。そして、まさにバレンタイン・デーもその一つなのだ。「最近はあるはあるけれど、どちらかというとヨーロッパに近いかな」と答えると、彼女は「お花をもらえるの?」とまた聞いてきた。「うん、もらえる」と言った後で、また少し戸惑う。だって、ロシアには、2月14日のバレンタイン・デー以外にも、2月23日と3月8日という、バレンタインもどきの日があるのだ。

2月23日は、ソ連時代から受け継がれている「祖国の防衛戦士の日」だ。ロシア革命(1917年)で創設された赤軍(第2次世界戦後に陸軍に改称)が1918年2月23日にドイツ軍に勝利したことを記念したもので、広く「男性を祝う日」とされている。実際その日には、小学生からお爺ちゃんまでの幅広い男性層に、女性からプレゼントが贈られる。贈り物は、チョコレートや手作りのケーキから小物やワインなど様々である。また、日本のような「義理」という言葉こそついてないけれど、学校だったらクラスの男の子の全員に、職場だったら部署の男性全員に贈るのが一般的である。

そしてもちろん、特別な人には愛の気持ちを込めてプレゼントする。そこには、日本のチョコのように、恋心を伝えるメッセージのようなプレゼントを考える楽しさが秘められている。


その約2週間後の3月8日にやってくるのが「国際婦人デー」だ。1910年に国際社会主義運動の一環として創設されたもので、1917年のペトログラード(現サンクトペテルブルク)の国際婦人デーでは、集まった女性たちのデモがロシア革命(2月革命)のきっかけを作ったことで知られ、ソ連時代から国の祝日となっている。こちらは「女性を祝う日」であり、日本のホワイトデーと同じように、今度は男性から女性へプレゼントが贈られる。春一番の時期でもあることから、プレゼントはお花が定番。なかでも、早春のミモザがシンボル的な存在となっている。このほか、香水や化粧品も人気が高い。

そして、バレンタイン・デーはソ連時代には存在すらしなかったのだが、ロシアに変わってから、西側の文化とともに急速にロシア社会に浸透しつつある。今年のバレンタイン・デーの直前に行われた世論調査によれば40%のロシア人はバレンタイン・デーを祭りだと思って祝う予定があるという。また、バレンタイン・デーを知っているが、祝う予定がないのは18%で、総じて社会の半分以上はバレンタインを意識していることになる。特に若者の間での人気は絶大で、25歳未満の若者の72%は恋人とバレンタイン・デーを祝うつもりでいるという。


1月14日の旧暦のお正月が過ぎたころから、ロシアのインターネット空間はバレンタイン・デー、祖国の防衛戦士の日、国際婦人デーに向かってギフト宣伝で混雑し始めた。驚くのはそのプレゼントの中身だ。一本5万円以上するPhilipponnat Clos des Goisses のシャンパンから、ダイアモンドが散りばめられた4GBのフラッシュメモリ(なんと約2百万円)といったIT時代の産物まで、つい最近までは想像も出来なかったモノが堂々と「恋人へのプレゼント」としてまかり通っているのだ。しかも、電話番号と間違えてもおかしくないお値段をつけたブランド品のオンパレード。手作りケーキ、父へのネクタイ、素朴なミモザは一体どこへ行ってしまったのやら。

ロシア市場向け、ロシア語のサイトなのに、キリル文字よりも、外国の高級ブランド品を表わしているアルファベットのほうが多いなんて….。あまりの「バブル」ぶりに現実感が薄れ、慌ててパソコンの電源を切った。周りを見回し、ここは日本だ、東京だという現実を確認して、ほっとする。そして再認識した。「やはり、日本のバレンタインは世界一だ」。


街のチョコレート売り場はどこも選択に悩む女性で混み合っていた。たっぷり一時間かけて、美味しそうな、そして、アートのようなチョコレートの売り場を回った挙句、結局、期間限定のモロゾフのトリュフに決めた。

日本のハッピーなチョコ・フィエスタは、亡命ロシア人のモロゾフ氏が神戸で開いた洋菓子店が「バレンタインチョコレート」として仕掛けたのが、そもそもの始まりという。モロゾフ氏に「ありがとう」の気持ちを込めて、チョコレートと相性ぴったりの赤ワインで乾杯しよう。

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