菅野沙織クリック!アジア

第9回 ロシアのモダニゼーション(現代化)の太陽は、東から昇るか、それとも西?

2011年6月13日

テレビ報道番組:
『ロシアのイノベーション・センターで警察官ロボットが開発された。そのロボットが勤務開始から三日目で賄賂を取り始めたことに開発者も驚きを隠せない。』

ロシア政府は国のモダニゼーション政策に非常に力を入れている。石油依存から脱却し、今度こそ、現代国家に生まれ変わろうとする試みは成功するか。

ウラジオストクはロシアの首都になる?!

2012年9月のAPECサミット開催に向けての工事は、50万人の都市、ウラジオストクを一つの大きな建設現場に変えてしまった。アスファルト張替え工事で車酔いするほどでこぼこになった空港から市内に向かう道路、建設進行中のホテル群や、市内のあちらこちらで見かける下水道工事現場は、APECサミットが行なわれる機に生まれ変わろうとしているウラジオストクのシンボル諸君である。APECサミット開催の準備予算は、2010年12月時点では、6,630億ルーブル(日本円に換算して2兆円弱)、実に印象的である。その資金調達先は、30%が連邦予算、10%は沿海州とウラジオストク市の予算、そして60%は「その他の財源」、つまりガスプロムなどのロシア大手の企業の資金なのである。

APECサミットに向けて
ウラジオストクは建設ラッシュ

この膨大な予算で作るのは、サミット会場だけではない。サミットと縁遠い造船やサハリン・ハバロフスク・ウラジオストクのガスパイプラインまでも入っている。一つの祭りを活用して、街全体をつくろうという大胆な計画である。咽から手が出るほど、インフラのリノベーションを実施してほしいウラジオストクの市民や、投資家にとってはこのAPECサミットは絶好のチャンスだ。なぜなら、このサミット開催向けの開発プログラムに自分のプロジェクトを組み入れてもらうことが出来たら、ファイナンスや行政手続きが優先的に進む確証があるからである。APECサミットと直接関係がなく動機が不純であっても、ロシア極東の開発に役立つのであればこの膨大な投資プログラムはいいことだと思う。もちろん、「いいことだ」と肯定するためにはこの予算が目的通りに活用され、ウラジオストクが本当に生まれ変わることが前提である。

市内の下水道工事から国際空港のリノベーション、高級ホテルの建設までの基礎インフラの整備に加え、APECサミットの会場になるルースキー島を次世代のサイエンスパークに仕立てる計画がある。その理由は、サミットが開催される期間はたった三日間だが、会場となる施設をその後も積極的に活用せよとの、サミット開催提案者のプーチン首相のリクエストがあったからである。

首相に言われれば、「できないことはないに決まっている。」というわけで、サミット会場の活用策として、ルースキー島を次世代の国際学園都市にする計画が登場した。これまでに名高い極東国立大学を始めとする4つの極東大学の合併が進められ、2010年4月に極東連邦大学が誕生した。新しい大学のキャンパスは、案の定、ルースキー島である。新キャンパスは、ロシア人と外国人の留学生を合わせて5万人の学生が勉強できる23棟からなり、面積は80ヘクタールである。そして、極東ではいままでになかった総合大学病院とバイオ医療の複合体が、計画のひとつの目玉となっている。全体の費用は、550億ルーブルで、約1,150億円相当である。教育施設に加え、先端技術を生み出すベンチャー企業を育てるイノベーション団地を設ける計画も浮上している。

そうなると、今後1年半でロシアの端っこにあるウラジオストクは、以前の閉鎖的な街から最新の国際センターにシンデレラ的な変貌を遂げ、生まれ変わる。この大計画の成功に期待しているロシア人の政治経済専門家は、このまま行けばウラジオストクはロシアの非公式な首都にまでなるのではないかと予言している。ロシアにとってアジア地域の重要性が増していることを考えれば、少し誇大に聞こえるこの予言は意外と理にかなっているかもしれない。

西にも次世代の学術都市を創り上げる、もう一つの大プロジェクト

そのプロジェクトは、ロシアのモダニゼーションの突破口になるはずの「未来都市」スコルコボ・プロジェクトである。2010年に開始されたこのプロジェクトは、メドベージェフ大統領が直接指揮をしており、モスクワ近辺にロシアを代表する最先端の教育・学術・イノベーション・センターを設立することを目的としている。政治生命をかける熱意を込め、「モダニゼーション」を旗に掲げているメドベージェフ大統領にとって、このプロジェクトは、彼の分身のようなシンボリックな存在である。

今年5月18日にメドベージェフ大統領は始めて、約900人の記者を集めた大規模の記者会見を行なった。この会見には、プーチン前大統領時代になかった、新しい特徴がある。それは、会見の会場がクレムリンではなく、スコルコボで行なわれたことである。このためスコルコボは、大統領が熱意を込める大事なプロジェクトであると改めて国民の認識を得た。

スコルコボの開発への投資予算は、1,700億ルーブル(5,000億円相当)である。そのうち、政府資金は30%で、残りは民間から集める予定である。最先端の技術開発センターであると同時にそのシーズを製品化するベンチャー企業を次々と輩出するロシア版のシリコンバレーとなることも期待されている。このように多大な期待を集めた大規模な計画となっているが、シニック(皮肉屋)なモスクワっ子は、スコルコボを絵に描いたもちのような扱いをしており、国の予算が無駄使いにならないかと、その評判は、絶賛とはほど遠いものである。そして、この心配を現すジョークが次々と出来上がってくる。例えば、

『モダニゼーションは上手くいくかどうかは定かではないが、スコルコボ市長夫人は、そのうちフォーブスの億万長者リストに載ることは間違いない』

といった感じである。

スコルコボと比べて、ウラジオストクの急ピッチな開発についてはジョークが少ない分、来年9月まで起きるはずの大きな変革に期待したい。そして、東と西、両端からロシアは更にモダナイズされて、現代国家に生まれ変わることにも期待したい。

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