地域・パブリック 経済・ビジネストピックス
金融の地産地消

2008年11月26日

  • ビジネス開発部 瀬越 雄二

◆政府は、2003年以降、地域密着型金融(リレーションシップ・バンキングの意)の強化を推進している。地域密着型金融の本質は、「金融機関が長期的な取引関係により得られた情報を活用し、対面交渉を含む質の高いコミュニケーションを通じて融資先企業の経営状況等を的確に把握し、これにより中小企業等への金融仲介機能を強化するとともに、金融機関自身の収益向上を図ること」(※1)にある。言うまでもなく、ここに言う地域金融機関とは、全国555の地域銀行、信金、信組を指す。金融庁が本年7月に公表した地域金融機関の取組み実績が示す主な領域は、次の通りである。

地域金融機関による地域密着型金融の主な強化分野

分野 取組内容
(1)ライフサイクルに応じた取引先支援 【1】創業・新事業支援
【2】経営改善支援
【3】事業再生
【4】事業承継
(2)事業価値に適した資金供給 【1】動産担保融資など
(3)持続可能な地域経済への貢献 アグリクラスター構想(県の基幹産業である農業を中心に関連産業の活性化を支援):経営サポート、ビジネスマッチング、資金供給支援
(4)その他 NA

(※)金融庁、平成20年7月1日付け「地域密着型金融の取組み状況(平成19年度)概要」、による。

上記の地域密着型金融の強化は一定の成果が達成されているが、他方において、近年、新たな動きが注目されている。博多を本拠地とする株式会社ドーガン・アドバイザーズ(以下、「同社」または「ドーガン」)(※2)の活躍である。以下、同社の先駆的な事業展開に注目し、かつ、同社の存在意義がどこにあるのかについて概観する。

◆ドーガンは、2004年に設立された地域金融機関であり、自らを「ブティック型インべストメントバンク」という。営業範囲は九州一円。同社の従業員は10名程度の小所帯であるが、全員九州出身であり、また、都銀等の大手金融機関の出身者で構成されている。同社の事業は、地元企業に対するM&A、経営支援、事業再生などの投資銀行業務およびファンド運用業務に大別される。同社が運用委託されているファンドは下記の4つであり、純資産総額は約100億円、運用業務は同社が100%出資する株式会社ドーガン・インべストメンツが実施している:(1)チャレンジ九州・中小企業がんばれファンド(新規事業支援ファンド。ファンド総額は10億円)、(2)九州ブリッジファンド(事業承継支援ファンド。同、49億円)、(3)九州BOLEROファンド(経営支援ファンド。同、30億円)、(4)アグリクラスターファンド(南九州農業支援ファンド。同、7億円)。(※3)

◆実際において、ドーガンの存在意義はどこにあるのか。一見すると、同社の業務内容は、地方銀行などの業務とバッティングし、多くの分野で競合関係が発生しているように思える。また、地域においてメガバンクあるいは大手証券等が提供する間接型市場金融または投資銀行サービスは、同社が提供する金融サービスと競合するように見える。しかし、実際、同社は業務遂行上、伝統的な地域金融機関との友好的な協働関係または補完関係に基づき業務を展開している。換言すると、同社の業務は、地元金融機関に加えて、地元の産官学との友好な連携に基づき実施されている。この情報ネットワークの基点が地方銀行であり、また、地方銀行との友好関係に基づき設定されるのが各種の地元ファンドである。同社の行動原理および事業指針は、地元密着であり、また、地元貢献である。この点において、メガバンクおよび大手証券の業務実施に係る判断基準が地方で事業を展開していても東京スタンダードであり、決してローカルスタンダードではない。具体的に言うと、メガバンクおよび大手証券等にとって、地方案件は低収益ゆえに容易には手が出し難い状況にある。ここに、ドーガンの存在意義がある。更に、同社が九州において顕著な実績を積んでいることには、社員全員が九州出身者であることが地元に信頼感を与えている点が寄与している。つまり、地元出身であることは、地元またはローカルスタンダードへのコミットメントとして受け入れられている訳である。この点もまた、メガバンクまたは大手証券等との大きな違いであろう。

◆ドーガンは、上記のような新しい地域金融のビジネスモデルを武器に、着実に地盤を形成しつつある。同社によると、「これまで地方にはホールセールとリテールの金融が存在していたが、その真ん中のミドルがなかった。当社はそれを埋めている」という。ドーガン・モデルの有効性は、上記の金融庁による地域密着型金融の強化プログラムからすると、想定外の存在であろう。しかし、現実として、既存の地域金融機関が為し得ない金融空白領域で同社が事業展開していることは、実際にニーズが市場にあることを意味している。これは、紛れのない金融の地産地消の実践であろう。今後、他の地域においても、第二、第三のドーガンが誕生することが期待される。

(※1)金融庁、「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム(平成17年~18年度)」。

(※2)同社のHP

(※3)株式会社ドーガン・アドバイザーズ、会社案内(2008年)。

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