人事・健保・退職給付
同一労働同一賃金の実現への第一歩~企業側の視点~

2017年2月22日

  • コンサルティング・ソリューション第一部 コンサルタント 宮﨑 美琴

2016年12月20日に同一労働同一賃金ガイドライン案(以下、「当ガイドライン案」とする。)が公表された。同一労働同一賃金とは、職務内容が同一または同等の労働者には、同一の賃金が払われるべきだという考え方(※1)である。2016年2月の総理の発言等(※2)に基づき、同年3月23日、厚生労働省に「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」が設置された。当検討会にて、同一労働同一賃金の実現に向けた具体的方策について検討を重ね、正規雇用労働者(※3)(以下、「正社員」とする。)と非正規雇用労働者(※4)(以下、「非正規社員」とする。)の不合理な格差を解消することを目的とし、当ガイドライン案が作成され、今回の公表に至った。日本における両者の待遇格差は、同一労働同一賃金の考え方が広く普及しているといわれる欧州各国のそれと比較して大きい。具体的には、フルタイム労働者に対するパートタイム労働者の賃金水準が、欧州各国では7-8割であるのに対し、日本は6割弱という実態(※5)がある。企業としては、これらの待遇格差が何によるものなのかを改めて確認していく必要がある。

当ガイドライン案の主なポイントは下表の通りである。基本給が職務・職業能力・勤続等の様々な趣旨・性格に応じて支払われる現実を認めつつ、それぞれの趣旨・性格に照らして、実態に違いがなければ同一の支給を、違いがあれば違いに応じた支給を求めている(※6)

同一労働同一賃金ガイドライン案の主なポイント

これは単純に非正規社員の処遇を上げることを意味するのではなく、「違い」を明確にし、その「違い」に基づいた合理的な処遇がなされることを目指しているのである。当ガイドライン案は、今後関係者の意見や改正法案についての国会審議を踏まえて最終的に確定する流れとなっている。関連法(労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法等)は、早ければ2017年秋の臨時国会にて改正される見込みであり、これらが施行されれば上表の内容は法的拘束力を持つことになる。そのため、企業にとって非正規社員の処遇を見直すことは急務といえよう。ここでは、非正規社員の処遇のあり方を検討するにあたり、企業として最初に取り組むべき視点について、以下に3点を挙げる。

1.正社員および非正規社員の現状把握
まずは、自社の正社員および非正規社員の働き方と処遇の「違い」について現状を把握することが必要である。両者の「違い」は職務によるものなのか、時間数によるものなのか、役割によるものなのか、それとも単に雇用形態によるものなのか。また、雇用形態にかかわらず、人によって職務の範囲が異なるということはないだろうか。企業の人事担当者と接している中で、役割や等級によって職務が明確になっている企業は少ないと感じる。そもそも職務給という概念が日本ではあまり浸透しておらず、日本の労働慣行的にも職務を限定しにくい背景があると考えられる。もし、正社員および非正規社員が同じ役割・能力・職務を担っているのであれば、処遇は同一とすることが望ましい。自社における両者の「違い」がどのような要素で構成されているのか、実態を整理する必要がある。

2.非正規社員の処遇のあり方
次に、非正規社員を適正に処遇するためには、正社員および非正規社員の賃金・評価のルールを明確にし、より透明性の高い運用をすることが重要である。そのためには、会社の方針および重要な価値観に基づく賃金水準・評価基準等を作成していくことや、公正な評価を行うための評価者教育や評価者の目線合わせを行うことが求められる。適正な処遇は、非正規社員のモチベーションアップに繋がり、結果として生産性が向上することが期待される。また、評価者による定期的な面談を実施することも重視したい。適切な方法で評価やコメントをフィードバックすることにより、非正規社員とのコミュニケーションが深まり、一体感が醸成される上、非正規社員としても認められたと感じ、さらなる成長を目指すきっかけとなる。ライフステージの関係で時間に制約があった非正規社員が、環境の変化により成長を目指したい場合に備えて、選考や試験等を経て正社員への登用ルートを整備しておくことも有効である。評価者に対しては、非正規社員の戦力化の重要性とともに、公正な評価を行うことによる現場および企業への効果を理解するための意識づけも欠かせないだろう。

3.正社員の働き方および評価方針の見直し
そして、人件費には限りがある。人件費を適正に配分するためには、正社員の働き方を見直すことも必要となる。企業の人事担当者からは、効率的に仕事をこなして定時に帰る社員は、必要以上に時間をかけて残業をする社員に対して、「自身より賃金が高い」という不満を持っていると聞く。成果を処遇に反映することは行っていても、業務効率の視点を重視する企業はあまり多くないようである。効率的に仕事を行う能力の高い社員がモチベーションを維持しつつ、さらに企業に対して高い効果を発揮していくためには、評価に工夫が必要となるだろう。従って、前述1も含めて、正社員の評価方針および評価基準を改めて見直すことが望ましい。さらに、全社的には業務フローや業務内容を見直し、管理職は部下の適正な業務配分を常に意識していくこと等により、効率的な労働の管理を行うことができれば、これらにより生まれた原資を企業価値向上に貢献した社員に配分することができるようになる。

最後に、人口が減少している今、今後の企業の課題は労働力をいかに確保し、それを維持していくかだといえる。日本の労働者の4割を占める非正規社員の活躍は、企業の継続的な成長を大きく左右するものとなる。正社員および非正規社員が区分を意識することなく、緩やかな一体感を形成し、各自の役割を最大限に発揮するためには、全社員が公正かつ納得感をもって働くことができる環境を整備することが企業にとって重要となるだろう。

(※1)2016年4月22日開催 第3回「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」資料2-1より
(※2)2016年2月23日開催 第5回「一億総活躍国民会議(議長:安部総理)」における「我が国の雇用慣行には十分に留意しつつ、同時に躊躇なく法改正の準備を進め」る旨および「どのような賃金差が正当でないと認められるかについては、政府としても、早期にガイドラインを制定し」ていく旨の発言(2016年3月23日開催 第1回「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」資料 開催要項より)
(※3)正規雇用労働者とはフルタイム無期雇用労働者を指す
(※4)非正規雇用労働者とは有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者を指す
(※5)2016年3月23日開催 第1回「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」厚生労働省提出資料より
(※6)2016年12月20日開催 第5回「働き方改革実現会議」議事録より

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