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経営者のメンタルヘルスと"レジリエンス"(精神的回復力)の重要性

2014年9月3日

  • コンサルティング・ソリューション第三部 主任コンサルタント 鈴木 紀博

経営者が抱く不安

近年、企業の経営課題としてメンタルヘルスが注目されるようになってきた。企業におけるメンタルヘルス施策は多くの場合従業員を対象としたものであり、経営者自身がその対象となることは(少なくとも公の場では)あまり見受けられない。しかし、企業のトップマネジメントは通常激務であり、メンタルな問題を抱える経営者も少なくないはずである。

企業の経営者、特にファミリービジネス(※1)の経営者は、企業の経営だけでなく、財産の保全や親族との関係の面で悩みが多いとされる。ファミリービジネスの経営者が感じる不安として、例えば以下のようなものが想定される。

  1. 経験豊富な経営者の場合
    • 事業の継続性
    • 後継者の選定
    • 自身の加齢による肉体的・精神的衰え
    • 財産の相続
    • ファミリー間のコミュニケーション
  2. 経験の少ない若年経営者の場合
    • 事業承継に対する不安
    • 前経営者(父親など)の実績との対比
    • 「大番頭」との確執
    • 従業員とのコミュニケーション
    • ファミリーからの期待とプレッシャー

このような経営者達に対する「メンター」(精神的支柱)の役割は、いくつかの属性に分類される人々が担ってきた。例えば、著名な先輩経営者、経営の機密情報を握っている税理士、学識経験者、宗教家、など多彩である。彼らは経営者から精神面で全幅の信頼を置かれ、頼りになる相談相手であり、「先生」と呼ばれる場合も多い。

カウンセリングとコーチングの相違点

個人の心の状態の診断や行動を促すサービスには様々なものがあり、クライアントの心の状態に応じて、対応者が提供するサービスは異なったものとなる(下図)。

クライアントの精神状態と対応サービス

このうち、カウンセリングは古くから心理カウンセラーなどの心理専門職によって実施されてきた。一方、コーチングは近年、企業経営の分野で人材開発の手法として注目を集めるようになった。このため、カウンセリングとコーチングには共通点が多いにもかかわらず、両者の間には溝がある。

カウンセリングとコーチングの区別は一般には明確に認識されていないが、概ね以下のように位置づけられる。

カウンセリング:精神的・心理的にネガティブな状態にある対象者の意識を通常の状態に戻すための診断および指導(マイナスからゼロへ)

コーチング:精神的・心理的に通常の状態にある対象者の意識を、さらにポジティブな状態にするための診断および指導(ゼロからプラスへ)

カウンセリングについては、主に臨床心理学の分野で多くの研究がなされており、心理アセスメントや心理療法の手法として既に確立されているものも多い。一方、コーチングはスポーツの分野で実践的に研究が進められ、経営の分野に明示的に導入されるようになってからまだ歴史が新しく、研究領域として十分に確立しているとはいえない。例えば、中小企業診断士の試験科目の中には10年程前までは「助言理論」という科目が1次試験科目としてあったが、理論科目として確立することが難しかったためか、現在では「中小企業の診断及び助言に関する実務の事例」として応用力を問う2次試験科目の中に包含されている。

日本でも近年、コーチングを専門とするコンサルティング会社が設立され、従業員のみならず経営者を対象とするコーチングも行っている。しかし、これらは多くの場合、どちらかというと経営コンサルティングの延長線上にあり、心理学をベースとするカウンセリングとは一線を画しているようである。日本では企業の経営事情に詳しい心理専門職も、心理療法に詳しい経営コンサルタントも多くはないのが現状である。

“レジリエンス”(精神的回復力)の源泉

不安・ストレスの克服のためには大きく分けて、(a)個人の知識・スキルの習得、(b)心理面や環境面の改善、という2種類のアプローチが必要である。前者は指導・教育、学習・研修等を通じて獲得されるものである。後者については、心理学の分野において様々な研究がなされている。

例えば、鳴門教育大学大学院の阪根健二教授が行った“レジリエンス”(resilience、精神的回復力、逆境から精神的に立ち直る力など)に関する研究(※2)によると、“レジリエンス”がある者の心理的特性として、①「肯定的な未来志向性」、②「感情の調整」、③「興味・関心の多様性」、④「忍耐力」の4要因があり、また精神的回復力を示す尺度は「自尊感情」と正の相関を示す一方で、「ネガティブ・ライフイベント」や「苦痛ライフイベント」の経験数とは無相関であることが確認された。即ち、苦労の経験よりも自信や前向きな気持ちの方が重要であるということである。

さらに、レジリエンスの構成要因として、①安定した家族環境や親子関係、②セルフエスティーム(自分のことを大切に思う気持ち)や共感性、③コンピテンス、スキル、ユーモア、コミュニケーション能力などを挙げている。これが企業経営者にも当てはまるという確証はないが、十分に参考となる研究結果である。

企業経営者の心理に焦点を当て、経営の意思決定に影響を与えるストレッサー(ストレス要因)やレジリエンスの構成要因を知ることによって、「経営の環境が経営者心理に与える影響」や「経営者心理が経営の意思決定に与える影響」に関する理解が深まる。これらはコンサルティングの現場においても活用することができる。

(※1)ファミリービジネスとは、創業者や創業者の親族など、いわゆる創業家が中心となって経営されている企業を指し、同族企業とかオーナー系企業とも呼ばれる。ファミリービジネスの定義として明確なものはないが、一般には、①創業家が議決権を保有し、②創業家が経営の主要メンバーとして関与している企業と解される。
(※2)阪根健二『レジリエンスの重要性 -精神的回復力と危機耐性-

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