人事・健保・退職給付
「女性活躍」は、転勤制度を滅ぼすのか?

2014年6月11日

  • コンサルティング・ソリューション第二部 主任コンサルタント 廣川 明子

改正男女雇用機会均等法施行規則が7月1日に施行される。主な改正内容は、募集、採用、昇進、職種の変更の要件に、合理的な理由なく「転勤」を含めることが間接差別(※1)として禁止されるというものだ。「転勤」が、キャリア志向の女性(以下、キャリア女性)の活躍の壁として受け止められていることが背景にある。翻って、キャリア女性が増加することで「転勤」制度が機能しにくくなることが危惧されているが、果たしてそうであろうか。

ここ数年、企業の人事部の方より転勤に関する相談をお寄せいただく機会が非常に増えている。コンサルティングの“現場感覚”であるが、転勤制度の運用の課題は、「女性活躍」よりも大きな「組織と人事の価値観の変化」に起因すると感じる。理由を以下に述べたい。

1.「転勤したがらない男性」が増えている

業種や人員構成により背景や詳細は異なるが、企業における目下の課題は「転勤したがらなくなった“男性社員”をいかに転勤させるか」である。

「ワーク・ライフ・バランス」という言葉が浸透する前から、転勤対象者を選定する際、男性であっても家族の介護や子供の進学、持ち家の状況に対し一定の配慮をしてきた企業は意外に多い。事前に本人の内諾を得るだけではなく、内々示は社員側が拒否できる運用例もある。その結果、転勤しないことが既得権益化し、男性でも転勤したがらない社員が増えているのだ。

さらに今後、団塊ジュニア世代(1971年から74年生まれ)の男性が50歳代に差し掛かる頃には「介護と仕事の両立問題(※2)」が転勤運用における大きな課題になることも予想される。

2.「転勤させたがらない現場」の意見が尊重される

業務や取扱商品が複雑化する中で、人事ローテーションに対する事業部門からの反発が強まる傾向にある。全体最適や育成の観点で人事部が転勤者リストを作成しても、「顧客から信頼されているAさんを転勤させたら、売上が下がる」「この支社でBさんしかX業務ができる人がいない」という理由で、事業部門が却下してしまうのである。人事ローテーションの中でも転勤への抵抗感は強く、運営が困難となるケースが増えている。事業部門や営業部門の発言権が強い企業にこの傾向が強く、このタイプの企業は増加していると感じる。

3.「女性は転勤できない」は思い込みに過ぎないことも

現時点では、転勤の可能性が高いキャリア女性の絶対数が少ないため、女性と転勤の問題は、印象論が先行している感が否めない。確かに、「育児期にある女性」にとって転勤のハードルが高いのは事実だ。しかし、全ての女性が育児期にあるのではない。

キャリア女性のうち独身者や子供のいない既婚者は、想像以上に自らの転勤に対して「覚悟」をしていると感じる。先日、複数の企業のキャリア女性の方にインタビューをする機会があったが、「給与できっちり報いてくれるなら、転勤に応じる」「在籍している地方支店から本社企画部門に異動できるならば、転勤も厭わない」「自分の知見を広げるためならば、単身赴任でも応じる」という話をお聞きした。転勤に「意義」を感じられるのであれば、前向きに受け止める女性は確実に存在する。

まとめ

現在、企業の人事部では、「一方的」に「思い通り」に転勤を命ずることができなくなったことに苦慮している。性別にかかわらず、「ワーク・ライフ・バランス」に代表されるような「新たな価値観」が広まったことに加え、実質的な人事権が人事部から事業部門に移行しつつあることも、転勤制度の運用の難しさに拍車をかけている。

それでは、どうすれば転勤制度をうまく機能させられるだろうか。付け焼刃の対応や女性活躍のせいにしていては、改善は望めない。転勤のない「地域限定正社員制度」を導入している企業も多いが、運用に悩む声は多く聞く。万能で即効性のある解はなく、組織運営や人事制度や運用、育成やローテーションの在り方など幅広く検討することが求められる。

最後に、「女性活躍」が話題になると、本事例のようにネガティブな先入観が先行し、メリットよりもデメリットに焦点が当たる傾向がある。そして、「女性は転勤できない」という固定観念が、企業と女性双方の可能性を狭めていると危惧する。これら先入観や固定観念を乗り越えることが「女性活躍」を進める一歩となろう。

(※1)性別以外の事由を要件とする措置であって、他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるものとして省令で定めている措置を、合理的な理由なく講じることをいう。
(※2)団塊ジュニア世代は、上の世代に比して兄弟姉妹の数が少ないため親の介護を「姉や妹に任せる」ことが難しく、また「夫の親の介護は、妻の仕事」という価値観も薄れてきている世代とされる。このため、働き盛りの男性社員であっても親の介護に対峙せざるを得ない状況になると考えられる。

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