人事・健保・退職給付
年金確保支援法成立とマッチング拠出

2011年8月17日

  • 年金・社会保険コンサルティング部 黒丸 智仁
平成23年8月4日、年金確保支援法(正式名称:国民年金及び企業年金等による高齢期における所得の確保を支援するための国民年金法等の一部を改正する法律)がようやく成立した。

本来は、今年の4月1日に一部が施行される予定であったが、尖閣諸島での漁船衝突事件に端を発する仙谷官房長官(当時)らの問責決議などにより審議が滞り、継続審議扱いのままとなっていた。ただ、7月に野党からの打診により議題となり、主婦年金問題を法案から切り離すことを合意できたことなどから法案審議が行われ、可決の運びとなったものである。

この法律の趣旨としては「将来の無年金・低年金の発生を防止し、国民の高齢期における所得の確保をより一層支援する観点から、国民年金保険料の納付可能期間を延長することや、企業型確定拠出年金において加入資格年齢の引上げや加入者の掛金拠出を可能とする等の措置を行う」ということであり、具体的な内容としては主に次のとおりである。

1.国民年金法の一部改正
(1)国民年金保険料の納付可能期間を延長(2年→10年)し、本人の希望により保険料を納付することで、その後の年金受給につなげることができるようにする(3年間の時限措置)。
(2)国民年金の任意加入者(加入期間を増やすために60歳~65歳までの間に任意加入した者)について国民年金基金への加入を可能とし、受給額の充実を図る。

2.確定拠出年金法の一部改正
(1)加入資格年齢を引き上げ(60歳→65歳)、企業の雇用状況に応じた柔軟な制度運営を可能とする。
(2)従業員拠出(マッチング拠出)を可能とし所得控除の対象とする。
(3)事業主による従業員に対する継続的投資教育の実施義務を明文化する。

3.厚生年金保険法の一部改正
(1)厚生年金基金において設立事業所が分割、事業譲渡を行う場合に、不足金の負担を求めることができるようにする(確定給付企業年金も同様)。
(2)厚生年金基金が解散する場合に国に返還する代行部分に要する費用について、金額および納付の期間に特例を設ける。

この中で特に企業およびその従業員にとって影響が大きいと考えられる点は、上記2の(2)にある確定拠出年金(以下DC)のマッチング拠出の創設である。

マッチング拠出を導入する場合でも、労使合わせた掛金額の上限は現行と変わらないため、すでに会社負担額が上限に近い企業の場合は導入が難しい。

ただ現在、掛金額の上限は年額61万2千円(他の企業年金がない場合。ある場合は半額の30万6千円)である一方、実際の掛金額は規約毎の単純平均で約16万6千円となっている(平成23年6月末、厚生労働省調べ)。また、掛金の上限額が拠出限度額に達している規約数は、全規約数3,818件のうち、345件にとどまる(同)。したがって、多くのDC実施企業において、拠出限度額の点ではマッチング拠出の導入余地はあるものと考えられる。

なお、従業員拠出は会社負担額を上回らないこととされているため、現在の掛金額が少ない企業の場合は、マッチング拠出を意味あるものとするためには会社負担額の増額も検討する必要がある。

従業員にとっては、掛金の所得控除、運用益の非課税、一般の金融商品より優遇された手数料、などを享受できるため、手持ち資金で独自に金融商品を購入するよりは財産形成の面で有利となる。

ただし、通常の投資や貯蓄と異なり60歳までは原則として積立金の引き出しはできないため、現役中に必要となる資金(生活費、住宅ローン、教育費など)の見通しを立てた上で、DC掛金に回せる金額を余裕を持って見積もることが大事である。

また、現在の会社負担のみのDCでは、掛金が自分の手元を経由せずに直接DC口座に入っていく(多くの企業は給与明細の記載すらない)こともあり、従業員の運用に対する当事者意識がなかなか向上していかないというのが実態となっている。運用実態を見ても、元本確保型の割合が6割前後(平成22年10月、企業年金連合会調べ)となっており、運用実績も確定給付企業年金などに比べて下回る傾向がある。

この点に関し、マッチング拠出導入の副次的効果として、自ら掛金を拠出することによる運用意識の向上も期待できそうである。

ただ、そのためにはこれまで以上に企業がしっかりと従業員への制度の説明や投資教育を行うことが重要になってくる。

マッチング拠出の導入有無に関わらず上記2の(3)にて継続的投資教育が義務化されることにもなっているが、マッチング拠出の導入とセットで行うことにより、当事者意識の醸成を図りつつ、継続教育をより意味あるものとすることも期待できるのではないだろうか。

現在、公的年金は支給開始年齢の引上げが行われており、将来的にも少子高齢化の進展や物価の下落が起こった場合、マクロ経済スライドにより年金額が減少する恐れもあることから、企業年金および個々の従業員の自助努力が今後益々重要になってくることは確実と言える。マッチング拠出を有効に活用することで、企業負担を過大にすることなく従業員のための年金を充実させられる可能性が高まるものと考えられる。今後の導入状況に注目したい。

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