人事・健保・退職給付
健康保険組合の施策が社会・企業・個人に与える効果

2011年3月23日

  • 年金・社会保険コンサルティング部 藤原 朋之
健康保険組合(以下、健保という)の平成21年度の決算は、全体では5,000億円を超える赤字決算であり、赤字の健保数も8割を超えている。これまで各健保では、財政状況の改善の為の支出抑制策として付加給付や保健事業の見直しを行ってきている。しかしそれらの支出抑制策も限界となったためか、多くの健保が、保険料率の引上げを行っているのが現状である。
健保の事務費用等を除く支出項目には、大きく分けて保険給付費、保健事業費、高齢者医療制度に対する支援金の3つがある。これらのうち、保険給付費は組合員の医療に関する支出であり、支出のうちの約50%程度の額を占めている。また保健事業費は、組合員のために健保が独自に実施する人間ドックの受診補助や保養所等の費用、スポーツジムとの契約等に使用されるものであり、その金額は、支出の5%程度と低い。高齢者医療制度に対する支援金は、支出額の約45%程度を占める。これは国の全体の医療費を考慮した結果として、健保に課せられた金額を納付することとされており、健保では支出のコントロールが事実上不可能な項目である。
このように健保の支出項目は、健保でコントロール可能なもの(保険給付費、保健事業費)と健保でコントロール不可能なもの(高齢者医療制度に対する支援金)がある。この中で金額も大きく、健保によりコントロール可能なものは、保険給付費ということになる。
この、保険給付費を抑制するひとつの施策として、保険給付費に関する支出の状況等を分析し、生活習慣病を中心とした対象者への指導により支出抑制を図ることがあげられる。それは医療費と生活習慣病には次のような特徴があるためである。第一に生活習慣病が重症化したためと考えられる医療費が大きいということ、第二に生活習慣病は長期間の生活習慣により生じる疾病であるということである。
医療費の状況をみてみると、人工透析をはじめとした重症者の医療費が大きいことから、重症化を避けることで、保険給付費を抑制できる可能性があると考えられる。また、生活習慣病のうち糖尿病は、心疾患、脳血管疾患等の合併症を引き起こす疾病であり、早期の治療が必要であるものの、痛み等を伴う疾病でないため、受診にまで至らず、放置されてしまうことも多いことが指摘されている。そこで、生活習慣病で通院はしているが、重症化していない者(未重症化者)、および血液検査等で異常値ではあるが生活習慣病ではない者(未発症者)、さらには、既に生活習慣病といえる状況であるが、受診をしていない者(未受診者)に適切な対応をすることで、重症化を回避することができ、結果的に保険給付費の抑制が可能となるだろう。
また、この施策の効果として、保険給付費の抑制だけにのみならず、次のような効果も期待できる。第一に「企業収益の向上」という効果である。「プレゼンティーイズム」という言葉がある。これは「出勤していても体調がすぐれないために、頭や体が働かず、生産性が低下してしまうという状況」と説明されている。この現象による生産性の低下が膨大な金額となるとの試算もある。この例に限らず、社内のまわりで不健康な人がいれば、それだけで同僚の気分も落ち込むようなこともあり、それは心理的な要因がもたらす生産性の低下となる。生産性向上は、各企業が日常的に取り組んでいることであり、ありきたりの生産性向上策では、その効果は限定的なものとなる懸念がある。そこで、健保が実施する健康増進策により、新しい視点で生産性向上施策を出すことができれば、企業収益向上の期待へと繋がる。
第二に「社会的な意義」という効果である。医療費抑制は国が取り組むべき最大の課題のひとつである。したがって健保による保険給付費抑制の実現は、国の医療費抑制につながる重要な効果となり、社会的意義の高い事業といえる。
第三に「個人の幸せの創造」という効果である。健保の施策を直接実施するのは組合員自身である。組合員が不健康な生活や情報不足により発症・重症化してしまうことは、健保の財政上のマイナスだけでなく、組合員の不幸へと繋がる。反対に、適切な施策により重症化・発症が回避できれば、そこから得られるものは組合員の幸福(笑顔)である。施策の実施により得られる保険給付費の抑制金額が予想より小さかったとしても、健保の健康増進の努力は組合員の幸福を創造することになる。
健保の中には、生活習慣病に関する部分は個人のライフスタイルに関与するため指導しづらいことや、支出抑制の効果は長期間後に判明することから、施策実施のモチベーションが働かないという声も聞く。また、保険給付費抑制額は、健保にとっては大きな金額であっても、母体となる企業の人件費の総額からみれば、必ずしも大きな金額とはいえない。そのため、企業の関心も低く、健保の訴えに、母体企業が応えてくれないこともある。
しかし、企業の中において、健保は健康に関する情報に最も近く、最も知見を有する者の一人である。健保が提案できる施策には、企業では気づきにくい上記のような効果があることを考慮し、粘り強く施策を実施すれば、社会・企業・個人に大きな効果として返ってくることが期待できる。

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