企業経営
YouTube成功の理由

2015年8月26日

  • コンサルティング・ソリューション第一部 主任コンサルタント 神谷 孝

いまさらながら、YouTubeはなぜ成功したのか、後付けながら解釈してみたい。

まず、YouTubeが成功したと言えるかどうかは、このサービスの収益性が明らかにされていないことから、単純には言いがたい。とは言え、1分間に300時間分の動画がアップロードされ、ユーザー数が10億人を超える巨大な動画共有サービスである。全世界のインターネットユーザーの半分近くが視聴していると言われる。とりあえず、成功したという前提を置いても差し支えないだろう。動画共有サービスは、今やFacebookの追い上げが激しく、また、日本ではニコニコ動画が20代中心に一定の存在感を示し、Vineやツイキャスも10代で際立って知名度が高い。そうは言っても、YouTubeの圧倒的な地位が揺らぐ状況にはない。

YouTubeの創業は2005年である。まず抑えておきたいのは、当時としても「不特定多数のユーザーが動画を投稿し、それを不特定多数のユーザーが視聴できる」ことが、ことさら斬新であった、というわけでは決してないという事実である。大雑把に言えば、インターネットの世界において、ウェブ上でのコミュニケーション手段は、掲示板、ブログ、SNSと発展し、一方で、コンテンツはテキスト、写真、動画へとよりリッチさを増す流れが進んできた。その中で、「個人が投稿し、みんなが視聴する」というコンセプトは、ずっと前から存在していたし、日本でもいくつかのベンチャー企業が事業化していた。

では、何故、YouTubeのみが飛びぬけた普及を見せたのか、それ以外の多くが何故不発に終わったのか、多くの理由を挙げることはできるが、まずは以下の3つに絞った。

1.常にすばやく安定した再生を提供

なんだか当たり前のような理由だが、YouTube創業の2005年当時、日本のブロードバンド普及率が4割、米国が3割程度の状況で、常に安定して動画を再生するのはまだまだ厳しい環境であった。動画の再生には、ダウンロード型とストリーミング型があり、ダウンロード型であれば、高解像度の動画視聴が可能である。しかし、ダウンロードには時間がかかり、見る価値があるかどうか分からない動画に、そんな時間はかけられない。YouTubeは、すぐに見られるストリーミング型を選択し、その替わり、解像度は思いっきり落とした。日本企業は、とかく解像度志向に走りがちだったと想像するが、結果として、YouTubeの技術課題に対する選択は正しかった。

2.ウェブにおける親和性と投稿の簡便性

YouTubeの創業当時、世の中で普及していた標準の動画配信ツールは、Windows Media、Quick Time といったプログラムであった。それぞれPCのOSに組み込まれているソフトであり、改めてインストールは必要ない。視聴の際は、ウェブサイトのリンクからプログラムを起動するという方法であり、映像とウェブは切り離されている。

その中で、YouTubeが採用したFlash Videoは、動画をウェブ内のコンテンツとして埋め込むことが可能なもの。ウェブとの一体化により使い勝手は格段に向上した。YouTubeは、このメリットをさらに追求し、埋め込み技術の開発に注力したのである。ちなみに、この埋め込み機能は、当時、急速に利用者が拡大していたブログとの相性が抜群であった。ブログユーザーは、簡単にYouTubeの動画を自ブログの記事の一部として構成することができたからである。

一方、動画のアップロードにも大きな工夫がなされた。特別なツールを使わずとも、ウェブ上で、多くのフォーマットに対応した動画のアップロードを可能にし、事前の動画ファイルの専門的な処理を排除した。

3.経済性を最優先としない

この点に関しては、長い目で見たブレの無い戦略とそれを支えたセコイア・キャピタル(※1)の成果と言えよう。早期の収益化を追うことなく、まずは、ユーザーの獲得にまい進した。そして、他社が容易に追随できないほどの相当程度のユーザー数を確保したところで、一気に、広告事業を開始する。これは、YouTubeを買収したGoogleも同様の過程をたどっており、インターネットビジネスにおける成功の方程式を我慢強く実行した結果である。

さて、再度思い起こしたいのは、動画共有サービスのコンセプト自体は、決して新しいものではなかったということである。単純に、動画が投稿できてみんなが見られるという発想やアイデアの勝利ではない。問題は、アイデアではなく、その実現手段であり、それが、その時の動画共有サービスのユーザーにとって本当に最適だったかどうかである。

しかし、何が最適であるのかの判断は難しい。1番目の理由を振り返ると、当時、ブロードバンドの普及が急速に進んでいた環境を思い出せば、ユーザーがより解像度の高い映像を求め、それに対応することを第一に考えたとしても、仕方が無いとも思える。2番目の理由にしても、PCに長くデフォルトとして組み込まれ、ユーザーが使い慣れている標準の動画ソフトを活用するという選択は、十分に理解できる。

しかし、現実は、「十分理解できる」では、不十分であったわけである。ユーザーの視点で考えたようであっても、実は単なる現状の追認に過ぎなかった。動画共有サービスに対して、当時のユーザーは何を期待したのか、そのための使いやすさとはどのようなものか、そこに対する掘り下げた議論がないまま、そのコンセプトにのみ満足してしまった。

YouTubeは、ユーザーは、質の高い映像コンテンツを多く視聴することを期待していると考えたのではないかと思う。ここで、「質の高い」というのは解像度等の映像品質が高いのではなく、映像の意味、表現が、視聴者の感動、共感を呼ぶということである。

これを実現するため、①とにかく投稿動画を多く集めること(ネットでは質の低いコンテンツがいくら多くても邪魔にはならない、という特性がある)、②容易に質の高い動画を選択できること、③その動画をYouTube以外のウェブ空間に簡単に拡散できること、この3つを優先課題にしたと解釈できる。その実現手段が、上に掲げた点となる。そして、収益性を後回しにしても、まずは、その3つを解決する技術開発に注力したことが成功につながったのではないだろうか。

さて、後付けであれば何でも言える。上記の解釈は、結局、「本当の価値は何か」という問いそのものである。新規事業開発の際、まずは、アイデア出しに没頭し、なかなか良いアイデアが浮かばないと苦しむ。アイデアを出した途端、それは既にA社がやっている、と批判され、議論の対象から外される。そして、仮にアイデアらしきものが出た途端、それに満足し、そこに何の工夫もしないで実現しようとする。それが、YouTube以外の多くが、YouTubeになりきれなかった原因ではないだろうか。

良いアイデアとは、まだ誰もやっていないような未開の地を発見することでは決して無い。それもあってもよいが、相当な才能が無い限りかなり難しい。しかし、あきらめる必要は全く無い。たとえば、既にA社がやっている、とは言うものの、A社が提供しているものは、本当に顧客が期待していることなのか、その期待に応える方法で提供されているのか。そんな問いを続ければ、既に開拓されたマーケットが、全く違った景色に見えるに違いない。

(※1)シリコンバレーに拠点を置く米国のベンチャーキャピタル。AppleやGoogle等、名立たるIT企業に投資し、育成した実績を持つ。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。

お気に入りへ登録

この記事を「お気に入りレポート」に登録しておくことができます。

このレポートのURLを転送する

  • @

執筆者紹介

関連サービス

お問い合わせ

PDFファイルの閲覧にはAdobe® Reader®新しいウィンドウで開きますが必要となります。お持ちでない方は、アドビ システムズのウェブサイトから無償ダウンロードができます。
なお、Adobe® Reader®のインストール方法は、アドビ システムズ ウェブサイト新しいウィンドウで開きますをご覧ください。

Get Adobe® Reader®

コンサルティング

コンサルタント

セミナー