企業経営
「稼ぐ力」とコーポレートガバナンス改革

2015年4月15日

  • コンサルティング・ソリューション第二部 主席コンサルタント 樺澤 敏男

失われた20年とまで揶揄された長い閉塞感を打ち破ったのは安倍政権のアベノミクス効果であるが、このアベノミクスにおける「第3の矢」の政策の土台となっているものが『「日本再興戦略」改訂2014』(※1)である。

その中の重要施策としてコーポレートガバナンス改革を通じて日本の企業の「稼ぐ力」を強化することがうたわれている。

その目的は、日本の企業が「稼ぐ力」を強化して儲けたお金を設備投資やM&Aに振り向け事業の拡大・成長への原資にすることや従業員の賃金アップ、株主への配当等で広くあまねく国民に還元し、持続的な景気の好循環を実現させることにある。

そのために投資家は株主として日本版スチュワードシップ・コード(※2)に則って企業との建設的な対話を通じて長期的視野に立った企業価値創造を行うというインベストメントチェーン構築の重要な役割を担っていくことになった。

企業側もそうした株主の投資環境を整えるために「稼ぐ力」を実現するための最適かつ合理的なコーポレートガバナンス体制を構築し、株主を始めとする企業を取り巻くステークホルダーのための価値創造の実行責任と説明責任を果たすべく「攻めの経営」を具現化していくことが求められている。

これらは車の両輪であり、この両輪が円滑に回転し、企業価値の共創を行い、日本の企業の「稼ぐ力」を強化し、それが日本経済再生の原動力として位置付けられている。

こうしたことを目的としたコーポレートガバナンス改革において、それを後押しするため上記日本版スチュワードシップ・コードに加えて改正会社法(※3)や金融庁と東京証券取引所によるコーポレートガバナンスコード(※4)制定等、環境整備も着々と進んでいる。

こうした中、社外取締役の充足や組織の設計についてなど、見た目に解り易い外形基準整備に注目が集まるが、実際はコーポレートガバナンスコードが企業に求めるものは5つの基本原則、30の原則、38の補充原則と計73の規範があり、非常に広範囲で一つ一つが意味深いものとなっている。

したがって、「社外取締役を2名用意すればいい。」とか、「監査等委員会設置会社になれば社外取締役2名が充足出来るから移行を検討する。」というような安易なレベルの話ではないのである。そもそも「稼ぐ力」という観点から見れば、社外取締役の役割はモニタリングとアドバイスであり、社外取締役を充実させることによって、経営の透明性や、コンプライアンス体制の強化に関しては向上し、取締役会は株主の代理人としてのエージェント機能を発揮しエージェントコストは減少するだろうが、直接的に「稼ぐ力」が強化されるわけではない。

組織形態の選択も同様である。監査等委員会設置会社が従来の監査役会設置会社、指名委員会等設置会社に加わり選択肢が増加したことは経営と執行の明確な分離が奨励される中でオペレーション機能とモニタリング機能を組織においてどのように位置づけるかという観点で企業が自社に相応しい柔軟な組織設計を考える上でプラスとなるが、どのような形態を選んだとしてもその組織自体が企業価値を創造するわけではない。

要するにコーポレートガバナンス改革で求められることの真の意味を理解せず、外形だけ整えても「稼ぐ力」という観点では完全なものとは言えないのである。

言うまでもなく企業価値創造の主体的な担い手は各企業の経営陣と従業員である。そして企業価値を創造するとは、自社の社会的存在意義に立脚した経営ビジョン、それを具現化するための長期的な戦略や中期的な経営計画の策定、自社の主戦場であるマーケットの定義や対象とする顧客の明確化を行い、顧客をどのように増やして営業基盤を拡大していくのか、自社のサービスやプロダクトをどのように競争相手と差別化を図るか、そのために研究開発、設備投資、M&A等、どの分野にヒト・モノ・カネを振り分けていくか、そして価値創造の担い手である経営陣及び従業員の長期的なモチベーションとインセンティブをどうのように構築するのか、また、価値創造のための最適な組織をどのように設計するか、こうした広範囲な経営課題を主体的に立案し実行するという活動を地道に継続的に行うことである。

このプロセスと結果の可視化と説明責任を、株主を始めとするステークホルダーに建設的な対話を通じて持続的に果たしていくことがこの度のコーポレートガバナンス改革の狙いであり、これまで日本の企業の「稼ぐ力」が諸外国のそれに比べて低いのは日本のコーポレートガバナンス体制の脆弱性にその一因があると指摘されてきたことへの解決策となるのである。

今や日本の企業の株主構成も大きく変わった。バブル崩壊の影響や会計制度の変更から安易な相互持合いは崩れ、その結果モノ言わぬ法人株主比率が下がり、国内外の機関投資家、とりわけ外国人持株比率が上昇した(※5)。彼らには日本人の内輪の論理や日本企業の特異性を理解することは難しい。こうした状況においてはコーポレートガバナンス体制をグローバルスタンダードに平仄を合わせないと国内外のリスクマネーを日本に呼び込むことは困難であるという認識が今回のコーポレートガバナンス改革の背景にある。

導入されるコーポレートガバナンスコードは法的拘束力を有する規範ではなくソフトローとして原則主義を採用し「コンプライ オア エクスプレイン」の手法が取られているものの、資金の出し手である投資家が求めるコーポレートガバナンス体制に対してコンプライせず、しかも納得性の高いエクスプレインを行わない場合、投資家はその企業への投資は消極的にならざるをえない。そうなればその企業の株価は割安に放置されることになるだろう。

株式を公開している本来的な意義は、直接市場を利用した資金調達である。成長のための前向きな資金を市場から調達したくても現在の株価が潜在的な企業価値を下回る状態では、資金を調達することも難易度の高いものとなる。

一方で潜在的な価値が顕在化されず割安に放置された企業が現金等の換金性の高い資産を持っているとリーマンショック以前に問題となったような短期的視野のアクティビストによる買収リスクもある。また、資本コストを上回るROEを実現できないならば、海外のファンドや機関投資家等、長期的な視野でモノ言う株主から経営者の交代や資産の有効活用の提案が出される可能性もある。

昨今の世界的なカネ余りで過剰流動性の市場環境においては既にそうした動きも見られ始めている。

一時、敵対的買収に対する防衛策が流行したが、結局のところ企業価値を最大化させ、それに見合った株価水準にすることが、最大の防衛策と日本の企業も気が付いた。

コーポレートガバナンス体制を充実させるとは企業価値最大化のための仕組みづくりと位置付けるべきである。

こうした観点から今回のコーポレートガバナンス改革の機会を前向きにとらえ外形を整えるとともに、実質も備えるべきである。

実質を備えるとは、コーポレートガバナンス改革が求めることを理解した上で、「稼ぐ力」強化という目的において、自社のあるべき姿を明確にし、それに照らし合わせて現状の自社のビジョン・中期経営計画・事業戦略・M&A戦略・組織設計・役職員の評価制度や報酬制度・IR体制・資本政策等を見直して、やるべきことを洗い出し足らないところや修正が必要なところを整備していくことである。実質を伴った外形を整えることで、始めて「稼ぐ力」を具現化するための体制整備は完成する。

大和総研(※6)は金融・資本市場に立脚した証券系シンクタンクとして、グループ経営と組織運営にフォーカスし、経営戦略の策定から実行支援までワンストップで提供することに競争優位性を有していると自負している。

コーポレートガバナンス改革を通じた貴社の企業価値創造に関するサポートの機会を賜れば幸甚である。

(※1)日本経済再生本部HP参照
(※2)金融庁HP参照
(※3)法務省HP参照
(※4)日本取引所グループHP参照
(※5)日本取引所グループHP「株主分布状況調査」参照
(※6)弊社HP参照

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