企業経営
コーポレートガバナンスとリスクテイクを支えるしくみ

2015年4月8日

  • コンサルティング・ソリューション第一部 主任コンサルタント 元秋 京子

2015年3月5日にコーポレートガバナンス・コード原案(以下、「本コード」)が最終決定され、現在、東京証券取引所において上場規則が整備されているところであるが、企業担当者においては目下、開示に向けて対応を検討されているところであろう。

本コードは、企業活動を制約するものではなく、合理的な意思決定を確保することで、経営判断を後押しすることを目的とする。企業が成長を持続、さらには非連続な成長を志向するならば、何らかのリスクをとった意思決定が必要となる場面が出てくるが、このような経営判断を行った場合でも、合理的な意思決定プロセスを経ていれば、取締役個人の責任を問わないという考え方である。リスクテイクを支える環境整備が出来れば、企業は平時においても変革や成長を意識した前向きなリスクをとりやすくなるということである。

ところで、機関投資家や本コード関係者等のコメントを見聞きしていると、本コードで特に重視する項目として、多くが〔原則3-1(情報開示の充実)〕を挙げる。対象とする企業の経営方針がどのようなもので、これを実現するためのコーポレートガバナンスに係るガイドラインがどのように定められ、これを支えるガバナンス体制がどのように作られているかを注目しているのである。

確かに、コード対応にあたっては、企業としての大方針が明確にあることが前提であり、これらを拠り所として各施策に検討・展開していくべきものと思われる。各コードが、企業の方針と整合・連動せずに個別に対応されてしまうと、企業としての意志・メッセージ性が弱まり、株主に対する説明力が確保できないおそれもある。

本稿では、〔原則3-1〕におけるガバナンス体制を形作る、取締役等の選任・報酬決定に係るプロセスの考え方について、TOPIX100の企業事例を参考に考えてみることとする。

役員の選任・報酬を検討・決定する場合には、前述の通り、企業としての経営方針・ガバナンス方針等の考え方・ルールがあり、これに沿って判断・評価をしていくことになる。この判断の過程で、より客観性・透明性を確保するしくみとして、任意の諮問機関を活用することは効果的であるといえる。監査役会設置会社でも、重要課題に係る任意の委員会を設置し、取締役会の諮問機関として位置付ける(いわゆるハイブリッド型)企業があり、今後コード対応の中でさらに増加していくことが予想される。

TOPIX100の2014年3月末時点の各社の有価証券報告書を見ると、100社のうち約9割弱が監査役会設置会社であるが、そのうち約30社弱が任意の指名委員会を、半数となる約40社が任意の報酬委員会を設置し、取締役会等の諮問機関として位置付けている。

任意の指名委員会・報酬委員会における主な審議内容は各社により幅があるため、参考までに各社の有価証券報告書から抜粋したものを以下に記載する。

〔指名委員会(任意)の審議事例〕
役員の選任だけでなく、後継者計画や子会社の重要な人事に関わるケースもある。

  • 取締役、執行役員、監査役候補者の選任案(食料品A社)
  • 取締役、執行役員、監査役の選任、解任(医薬品B社)
  • 社内取締役人事(選任、再選の基準とプロセスの妥当性、後継者計画、運用状況の適否に関する事項)(医薬品C社)
  • 役員候補の選抜、昇降格(化学D社)
  • HDの取締役候補の選任、HDおよび子会社の重要な人事(銀行E社)、等

〔報酬委員会(任意)の審議事例〕
報酬方針だけではなく、報酬水準や制度、業績目標の妥当性におよぶケースもある。

  • 取締役、執行役員の報酬制度・報酬案(食料品F社)
  • 取締役、執行役員の報酬方針、制度、算定方法等(食料品G社)
  • 取締役報酬水準の妥当性、取締役賞与制度における業績目標の妥当性、業績結果に基づいた賞与額の適否に関する事項(医薬品H社)
  • 取締役、執行役員の報酬制度・基準の設定、役位毎の報酬水準の検証と見直し、業績連動報酬結果、SO付与(医薬品I社)
  • 役員報酬の決定方針、報酬水準の妥当性等、役員報酬制度の在り方。その運用のモニタリング(卸売業J社)
  • 当社と主な子会社の役員報酬体系、取締役・執行役員の報酬額の水準、業績評価等(保険K社)

両者の委員会の構成としては、多くの企業が一部の社外取締役を委員としている。さらに、委員長を社外取締役とするケースや委員の過半数を社外役員とするケース等もあり、「社外の眼」を加えることで、より客観性・透明性を高めることを企図している。また、指名・報酬以外の任意の委員会を設置する企業も見受けられた。

〔委員会構成(任意)事例〕
社内取締役でも非執行取締役として客観性を保つケースがある。

  • 3名:非執行取締役2名、社外監査役1名(電気機器L社)
  • 3名:委員長は社外取締役1名、社外監査役1名、社内取締役1名(医薬品M社)
  • 5名程度:原則、過半数を社外委員とし、委員長は社外委員から選出(保険N社)

〔その他の委員会(任意)事例〕
経営に係る諮問機関として、経営諮問委員会やアドバイザリーコミッティを設置し、外部の有識者からの助言を受けるケースがある。

  • 経営諮問委員会:当社グループの経営全般に関し、各界有識者7名より率直かつ自由な意見・アドバイスを受け、経営に反映(空運O社)

前述のしくみは決定プロセスの合理性を確保できるだけでなく、ルールや基準が明示されることで、実は社員にとっても企業の方針や取締役・執行役員等に求められる役割と責務に対する理解が深まり、経営と社員の距離を近づける効果も期待できるため、企業としては積極的に開示を行うことが望ましい。対外的に「見える化」することで企業の姿勢・方針を示すことができ、企業を取り巻くステークホルダーへの理解も深まることになる。

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