企業経営
グループ経営の第一歩

2013年4月3日

  • 経営コンサルティング部 主任コンサルタント 林 正浩

コンサルタントとして注意しなければならないことに言葉の定義がある。例えばビジネスの現場でよく遭遇する「プロモーション」という言葉。多くの会社では、イベントやキャンペーン、店頭におけるPOP等、狭義のセールスプロモーション(SP)を示す場合が多い。一方、ビジネスの現場ではセールス、即ち、人的販売以外の広い意味での販売促進策を指す用語としても定着している。また、主に販売業者に対するリベートを指して「プロモーション」と表現するケースも少なくない。
合併をはじめとした企業統合の際、法的手続も大事だが、当事者同士が用いる言葉の定義からこうした曖昧さを除去することこそPMI(Post Merger Integration)の入口ともいえよう。

「グループ経営」も同じである。主に連結経営を主眼として語る人もいれば、「持株会社制」「カンパニー制」など組織形態に焦点をあてて理解する人も多い。「経営環境の変化に合わせて、個別事業最適と全体最適のバランスを取りつつ企業グループとしての価値を最大化する」といった模範解答を思い浮かべる読者もいることだろう。いずれも正しい答えだ。ただ実務の現場がすぐ動ける定義とは言い難い。

実務的には『企業グループとしての全体最適の実現に必要不可欠な「機能」を組織や人と一旦切り離したうえで仕分け、分類し、ラベルを貼り、くくって並べること』と定義したい。「機能」を現状の要員から切り離し、部や課などの既存の組織体に引っ張られることなく、再定義することが大切だ。オペレーション機能に特化したある子会社の部長が、基幹ビジネス領域の全体戦略を策定し事実上、その企業グループのハブとして機能していたなどといった類の話はよく耳にする。こうした「ねじれ」を解きほぐし、本来の経営のあり姿に近づけることが「グループ経営」の第一歩である。

では、具体的にどう分類するのか。機能を切り分けるコツは何か。紙面の都合上とても全てを紹介するわけにはいかないが、ここでは便宜上、グループ経営実現のための本社機能を定義する上でよく用いられる5つのラベルについて簡単に解説する。

①グループ戦略立案・実行機能
企業グループにとっての羅針盤であるミッションやビジョンに基づき、全体最適実現のために、いつまでに何を、どの経営資源を用いるかについて検討し、戦略を実行に移す機能にはこのラベルを貼る。グループとして新規事業分野へ進出するか否かや既存事業からの撤退を決める機能も併せ持つ。

②事業支援機能
企業グループ内の各事業におけるPDCAサイクルを回すために必要な支援業務を指す。目標設定や数値計画等の事業計画策定から予算の策定業務なども含まれる。もっとも数値計画を含め事業に係るイシューは事業子会社に大幅に権限を委譲するケースも多い。そうした場合は、全体最適の観点から関連指標のモニタリングや事業間調整に係る機能のみを本社に残すことも考えられよう。

③管理統括機能
企業グループにおける経理・財務、総務、人事、広報IR、CSR等の活動をグループの全体戦略や個別事業の状況に応じ効率的に遂行することを目的とした機能にはこのラベルを貼る。個別事業をサポートする共通基盤としての機能もこの範疇に入る。調達機能や物流機能であっても①や②に分類されない場合は、この管理統括機能のラベルを貼ったうえで外部へのアウトソースを検討することも一考である。

④グループガバナンス機能
グループの全体戦略実現のために、法令遵守やリスクマネジメントの観点を含め各業務が適切に行われているかをウオッチする機能にはこのラベルを貼る。子会社の経営者に対する適切な監視や意思決定の際の集権・分権バランスのとり方をも左右する重要な機能である。

⑤プロフェッショナルサービス機能
グループ戦略や個別事業戦略の遂行に不可欠な高度なスキルやノウハウに係る機能にはこのラベルを貼る。グループ全体のかじ取りを任せることのできる経営人材の育成やM&A、知的財産開発、全社的なTQCの推進などが機能としては想起されよう。

実際には、「機能」を更に厳密に定義し細分化した上でひたすらラベルを貼り、くくって並べる。ホームセンターで購入したカラーボックスにラベルを貼って放り込むイメージだ。人や組織とは切り離された「機能」がカラーボックスにたまる。分類しなおしたりくくりなおしたりを執拗に続ける。バリューチェーンが切れないか、付加価値化が図られているかに気を配りつつ、営業マンが伝票を切る瞬間や各種会議体に供される資料の構成など細部のビジネスシーンに思いを馳せながら「機能」自体にフォーカスした一連の作業を続ける。このこと自体、グループ経営実現の礎となる。間違っても「カンパニー制」「持株会社制」などの組織の躯体(くたい)を入口としてグループ経営を検討するべきではない。血管が目詰まりを起こしていることを認識せずに企業体にメスを入れることにもなりかねないからだ。「仕分け、分類し、ラベルを貼って、くくって並べる」。このことをグループ経営検討の第一歩としたいものである。

さて、言葉の定義がいかに大切かは冒頭に紹介した通りだが、ある国民的歌手の代名詞、「お客様は神様です」の本当の意味をご存じだろうか。
「お客様は絶対的な存在であり、全てはお客様のために」「お金を払ってくれるお客様は何よりも尊い」といった顧客至上主義を表象する言葉と捉えていないだろうか。実はこの言葉、「お客様を神様、即ち神聖な存在と思って舞台に立たなければ本物の芸は成就しないものだ」と理解することが正しい。お客様を“神様”として無条件に持ち上げるというより、真なるプロフェッショナルとしての仕事、手の切れるような仕事を常に心掛けるべしという、いわば「芸人魂」がこの言葉には込められている。コンサルタントにとっても座右の銘にしたいフレーズだ。
読者の皆様も言葉の定義を大切に「仕分け、分類し、ラベルを貼って、くくって並べる」を実践してみてはいかがだろうか。きっと骨太なグループ経営が実現するはずである。

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