企業経営
「コーポレート・ストーリー」を中核に、資本市場との能動的な対話を

2012年8月1日

  • コンサルティング・ソリューション第一部 柏崎 雅代

金融機関の政策保有(主に持合い)株式の売却を背景に、日本企業の株主構成は大きく変化した。1990年代後半以降、機関投資家、特に外国人等の存在感が大きくなり、従来のような安定株主が減少している(図表1)。慢性的・世界的な金融緩和を背景としたカネ余り状況が続く中、相対的・歴史的にみて割安水準にある日本企業にとって敵対株主リスクが高まっていると言える。

(図表1)主要投資部門別株式保有比率の推移

(図表1)主要投資部門別株式保有比率の推移 出所:東京証券取引所 株式分布状況調査より大和総研作成

敵対株主リスクへの対応は、投資家(株主)の信任を高めることが第一であり、資本市場との関係の再構築が求められている。具体的には、機関投資家を中心とした幅広い株主構成を前提としたIR(インベスター・リレーションズ)活動が重要になる。その際、資本市場との対話の核となるのが、「コーポレート・ストーリー」である。コーポレート・ストーリーとは、自社の目標とする投資リターンを明示し、それを達成するための戦略を、投資家が理解しやすいシナリオで示すものである。

多くの投資家は、企業と中長期的な経営ビジョンについて対話を充実させたいとの意向をもっている。しかし、企業側から発信される情報と資本市場が知りたい内容との間にはズレが生じがちである。

例えば、中期経営計画(中計)を公表している企業は多いが、「コーポレート・ストーリー」として中計を見た場合、機関投資家が重視する要素であるROEの目標やキャッシュ・フローの配分に関する情報が不足している例が見られる(図表2)。

(図表2)機関投資家が中計で公表を望む経営指標と企業側の公表状況

(図表2)機関投資家が中計で公表を望む経営指標と企業側の公表状況 注:経営指標は、機関投資家が中計で公表を望む上位10項目(複数回答) 囲み枠の経営指標は、投資家の公表要望と企業側の公表状況とのギャップが大きい3指標 出所:平成23年度「株式価値向上に向けた取組みについて」(生命保険協会)より大和総研作成

資本市場と能動的な対話を行うには、社内の経営管理的な視点が強い中計を、資本市場側の視点に即した「コーポレート・ストーリー」として編集・再構築する必要がある。特に、中計期間(3年から5年)における投資リターンの目標が資本市場の期待する水準に達しない企業もみられるが、このような場合こそ、中計期間の先にある企業のビジョンに向かう戦略の方向性を「コーポレート・ストーリー」として再構築すべきである。

「コーポレート・ストーリー」がまとまったところで、初めて会社説明会資料、アニュアルレポート等、各種IRツールへ展開される。「コーポレート・ストーリー」をIR活動の中心におくことで、資本市場に対するメッセージが固まり、魅力的でぶれないコミュニケーションが行えるようになるのである。なお、「コーポレート・ストーリー」は、IR活動による資本市場からのフィードバックを受けることで修正・進化させていくべきものである。

「コーポレート・ストーリー」を核とした資本市場との対話による第1の効果として、友好的な株主作りが挙げられる。経営ビジョンに共感し、企業の戦略を支援しようとする株主の獲得につながろう。第2の効果は、敵対株主リスクへの対応である。「コーポレート・ストーリー」による対話を継続することで、資本市場の信任度を高め、適正な企業評価が形成されれば、いたずらに敵対株主の動向に左右されることなく、持続的な成長に向けた戦略の実行が可能となる。「コーポレート・ストーリー」は、敵対株主の意見に対する経営者側の強力な論拠となり得よう。上場企業にとって、「コーポレート・ストーリー」を通じた資本市場との対話は、企業活動そのものと同等の重みをもつものである。

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