企業経営
クラウド時代のIT部門の役割

2012年7月11日

  • コンサルティング・ソリューション第二部 栗田 学

民間、公共を問わずクラウドへの関心は引き続き高く、利用企業の割合も増えてきている。クラウドの評価や適用業務選定のための情報収集に多くの時間を費やしてきたIT部門も多いことだろう。クラウドの導入は、迅速なシステム構築の実現、システム維持管理コストの削減、業務フロー標準化の促進、など多くのメリットが指摘されている。一方、クラウドが組織の役割変化に及ぼす影響を考えると、IT部門ほど大きく影響を受ける部門はない。

従前、IT部門の役割は、企業における情報システムの位置付けとともに変化してきた。情報システムは、単なる計算機から業務効率化のツール、さらには企業経営に不可欠の情報提供ツールと、その位置付けを変えてきた。これに伴い、IT部門の役割もかつての情報システムの開発・運用主体から、経営戦略に沿った情報戦略策定のウェイトが相対的に高まってきた。一方、情報システムにはこれまでにないビジネスモデルを実現する「イノベーション創出ツール」としての期待が高まってきている。したがって、これからのIT部門にはイノベーションの創出を通じて経営戦略を実現する役割が求められてこよう。この動きを後押しするのがクラウドの普及である。クラウドの利用により情報システムの開発・運用はアウトソーシングされていく。すなわち、IT部門は、社内の情報システムのRASIS※を意識する必要性は小さくなり、代わって情報システムを駆使した革新的なビジネスの構築が本質的な役割としてクローズアップされてくるということだ。

IT部門の役割のイメージ

すでに、経営層からみたIT部門への期待もこのトレンドに沿っている。社団法人日本情報システム・ユーザー協会が実施した「企業IT動向調査2010」によれば、「将来大きくなるIT部門の役割」として「企業改革のエンジンとして、企業のイノベーションに貢献すること」がインタビューの結果として挙がっている。すなわち、現状を打破し、新たなビジネスモデルの構築や既存事業の抜本的な改革を主導する役割が期待されているのである。しかしながら、同調査によると経営層から見たIT部門が「ビジネスモデルの変革に応えられている」と評価されているのは調査対象の3割に満たず、また既存の「ビジネスプロセスの変革に応えられている」も5割に満たない。

新事業の立ち上げに関わる相談を受けることが多くなってきた。景気浮揚がなかなか覚束ない中、新たな収益機会の獲得は多くの企業にとって共通の課題といえる。しかしながら多くの場合、新事業の検討に主体的に関わるのは企画部門である。大企業においては事業部門に属する企画部門、中堅企業においては経営企画部門であることがしばしばある。新事業を実現するツールとしてITが関わる場合でも、IT部門が関わる例はあまり見られない。新事業として何をやるかは、自らの強みや課題を理解しスコープを決めた上で、顧客基盤、ニーズ、リソース、顧客を取り巻くトレンドなど広範な分析の末、絞り込まれる。その途中には必ず新事業の候補を発案するプロセスが存在するが、その際ITの進歩によりできることが日々変わっていく以上、ITの将来を見据えた視点が必要である。IT部門が新事業創出に主体的に関わる意義は大きい。

新事業を考える際、現状分析からの出発が常套手段である。だが、その結果どうしても「現状」が過度に頭から離れず、往々にしてイノベーションを起こす発想が乏しくなることが多い。自らの企業のITを知り尽くし、ITの長足の進歩を追っているIT部門が、イノベーションを起こす原動力となることを期待したい。

※ RASISとは、情報システムを評価する際の基準として一般的に採用されている5つの項目「信頼性」「可用性」「 保守性」「保全性」「安全性」の英語の頭文字をとったものである。

  • 信頼性(Reliability):故障しにくいこと
  • 可用性(Availability):いつでも稼働していること
  • 保守性(Serviceability):すぐに復旧できること
  • 保全性(Integrity):データに矛盾がないこと
  • 安全性(Security):不正を受けにくいこと

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