企業経営 人事・健保・退職給付
対応が急がれる「パート活用型」企業の人事戦略

2012年6月29日

  • ビジネスサポート室 中野 充弘

今国会に提出されていた、短時間労働者(パートなど)に対する厚生年金・健康保険の加入適用対象拡大法案(「公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律案」)が衆議院で可決された。2016年10月から「週20時間以上30時間未満、月収8.8万円以上(年収106万円以上)、勤務期間1年以上、学生は除外、従業員501人以上」の25万人(厚労省の試算)が、新規に厚生年金・健康保険に組み込まれることになる。これらの費用は原則労使折半となることから、企業側の新規負担分は数百億円程度(負担が)増える見通し。(当初案では月収7.8万円以上で45万人対象のケースで800億円と試算されていた)

短時間労働者の現状と課題
2010年現在、短時間労働者(週に35時間未満)は1414万人で雇用者総数の26.6%に達する。男女別構成比は男性31.7%、女性68.3%で、男性は高齢者が多いのに対し、女性は30~40代が多い。短時間労働者の推移をみると、1985年471万人(雇用者に占める割合11.1%)、1995年896万人(17.4%)、2005年1266万人(24.0%)と90年頃から増加傾向が強まった。このようにパート社員が増えてきたことについては労働者・経営側の両方に理由がある。就業動機としては、「家計の足しにする」や「生活維持のため」が多く、90年代以降の雇用環境の悪化とともにパートで働く人が増えた。一方で企業としても、「労務コストの削減」や「1日の忙しい時間帯に対処するため」など、厳しい経済環境の中でコスト削減に向けて積極的にパート社員や派遣社員を活用した。

この結果、短時間労働者が雇用者の四分の一を占めるようになったが、ここにきて(1)不況期に解雇など雇用調整の対象とされやすい、(2)賃金が低く、有配偶率も低い(未婚者が多い)、(3)企業内で職業訓練を受けるなど能力を高める機会が乏しい、などの問題が指摘されている。さらに学生の就職難や生活保護者の増加、あるいは少子化問題への対応策として雇用問題が大きく取り上げられるようになった。

2012年3月に厚労省がまとめた「望ましい働き方ビジョン」では、個々の労働者の働き方の多様性を尊重しつつ、なるべく非正規雇用労働者の正規雇用を促す(特に若者に対して)という方向性が打ち出されている。今回の短時間労働者の社会保険適用拡大にはこうした背景も見逃せない。

スーパーや飲食業の影響大
企業に及ぼす具体的な影響は短時間労働者への依存度によって変わる。雇用者に占めるパート比率の大きい業種は「宿泊業、飲食サービス業」(51.7%)、「生活関連サービス業、娯楽業」(34.6%)、「卸売・小売業」(32.7%)、「医療・福祉」(32.7%)、「不動産業」(29.5%)、「教育、学習支援業」(28.3%)などである。個別企業の事情によってパート依存度も大きく変わるが、スーパーや飲食サービス業などが大きな影響を受けるとみられている。いずれにしても各企業は一度影響度を試算しておく必要があろう。

今回の適用拡大の施行まで4年弱の期間がある。またこの間に消費税の引き上げ(2014年4月5→8%、2015年10月8→10%)が予定されており、その影響も考慮しなければならないことから、短時間労働者問題に対する対応策を急いで出す必要はないと考える経営者も多いかもしれない。

しかし先に述べたように、中期的には「非正規雇用者の正規化を促す」方向であり、パート・アルバイト労働者を多く雇っている企業にとっては、なるべく早く人事・雇用戦略の抜本的見直しに着手した方が良いと思われる。

最近業績を伸ばしている小売業などの人事政策をみると、正社員とパート社員との区分をなくす、資格制度を導入しそれに応じて処遇を決める、パート社員へ権限譲渡する、年収130万円超による社会保険負担分を会社が補助するなど多様な動きがある。パート社員の戦力強化策で各社が工夫し、全体の生産性を高めている例が多い。パート主婦の場合、これまでは年収103万円(被扶養者の非課税限度額)、130万円(被扶養配偶者認定基準)などの範囲内で就業を選択するケースが目立っていたが、今後は働く側にも様々な動きが出てくるだろう。

足元では医療・福祉分野での人材不足が続いているが、中長期的には我が国全体で労働者不足が懸念される。優秀なパート社員を取り込み、戦力化する工夫が今こそ重要ではないだろうか。

(大和総研のサービス)
短時間労働者対策に向けて、お客様のニーズにあったコンサルティングを提供いたします。

<第一ステップ>・・・現状の把握

  • 影響度の試算
    影響度の試算
  • 健康保険組合の財政シミュレーション
    今回の対象変更で健保組合がどの程度の負担増となるか試算し、保険料率引き上げ見通しやその他の選択肢(解散し協会けんぽに移るなど)の検討。

<第二ステップ>・・・対応策の検討(例)

  • 正規雇用者に転換
    社会保険費用が増加。ただし優秀な人材が確保できる可能性高まる。労働時間面で制約がある人のために、短時間正規労働者など新しい雇用形態もあわせて検討。人事制度の見直し。
  • パートのままで、生産性をあげる。
    社会保険費用は増加。資格制度の導入などパート社員のやる気を高める。
  • 現状維持のまま時間調整で対応する
    上記短時間労働者の条件に外れるような労働時間調整(雇用者の希望に沿う形で)。人材確保や時間割り当て調整などが新たな課題に。

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