企業経営 人事・健保・退職給付
育児休業の格差問題

~中小企業での「自粛ムード」を払拭するには

2012年3月21日

  • コンサルティング・ソリューション第三部 廣川 明子

右肩上がりだった女性の育児休業取得率は、平成20年度の90.6%をピークに2年連続で前年度を下回り、平成22年度は83.7%まで下落した(グラフ1参照)。100名以上の企業では取得率は変わらないものの、それ以下の企業では大幅に落ち込み、企業規模による格差が生じている(グラフ2参照)。大企業や中堅企業では育児休業の取得が定着してきたものの、中小企業では未だ景気等の影響を受けやすい段階にあると思われる。

グラフ1
グラフ1

グラフ2
グラフ2

企業規模に関係なく会社側は、育児休業の申請を拒否できない(育児介護休業法)。このため、中小企業では育児休業を「自粛」した社員が増加し、産前産後休業(以下、産休)後に退職もしくは復職をしたとみられる(※1)。社員の個人的な理由、例えば「育児休業を取る経済的な余裕がないので復職した」ということであれば、良し悪しを論じるのは差し控えるべきであろう。しかし、企業業績の低迷などにより職場において育児休業取得の「自粛ムード」が蔓延し、諦めざるを得ないケースが少なからずあったのではないか。

仮説が妥当であれば、「自粛ムード」が広がることによる損失は大きいと考える。育児休業は企業の負担に比べ、実益が大きいからだ。むしろ手厚いワーク・ライフ・バランス施策を導入できない企業ほど有用な制度である。育児休業期間中、企業は給与を払う必要がなく社会保険料も免除され(※2)、休業中の社員に対しては雇用保険より給付金(※3)が支給されるからだ。

雇用調整が避けられない状況であっても、1年間あれば雇用環境が好転する可能性がある。東日本大震災直後には、業務が安定するまで育児休業の延長を社員に打診した企業もみられた。目先の危機を回避するための、猶予期間を得られたと考えられないか。

特に人員が限られている中小企業では、育児休業による欠員で業務運営が難しくなるという指摘もあろう。しかし、正社員1人分の人件費があれば契約社員や派遣社員で代替することもできる。業務効率化のための機材を導入したり、職場内で業務を分担する社員に賞与等で報いて不満や負担感を軽減したりすることも可能だ。

また、産休後に復職しても産前と変わらないパフォーマンスを発揮することは難しいだろう。月齢が低い子の世話は夜中に何度も起きなくてはならないなど、育児休業後の復職に比べ身体的な負荷が大きく、仕事と育児を両立する難易度は極めて高い。まじめな社員ほど疲弊して退職するという話も聞く。雇用調整が必要な状況であればともかく、経験豊富な社員が退職する損失は大きくはないか。

このように育児休業は中小企業に実益があり、「自粛ムード」を積極的に払拭する意義はある。また社員にとっては、雇用を維持しつつ雇用保険による一定の所得保障を受けて育児に専念でき、その利益の大きさは言うまでもない。

折よく今年7月1日より改正育児介護休業法(2010年6月30日施行)が、中小企業に対し全面適用となる(※4)。適用が猶予されていた項目は育児休業には直接関係しないが、「自粛ムード」を払拭する契機となろう。企業側の実益を説き、迷う社員に対しては活用するよう背中を押してはどうか。今後、中小企業においても景気の変動に関係なく、育児休業が定着することを期待したい。

(※1)育児休業取得率の母数は「出産した社員」であるため、出産前に退職した数は含まれない。
(※2)以前は社会保険料の免除は休業者本人のみであったが、平成12年度改正より事業主にも認められた。なお、労働保険料は保険年度ごとの賃金総額に課せられるため、無給であれば発生しない。
(※3)休業前の賃金の40%(当面の間は50%)の育児休業給付金が支給される。
(※4)常時雇用する労働者が100人以下の企業では、負担が大きい一部の項目の適用が免除されていた。対象項目は(1)短時間勤務制度の導入、(2)所定外労働の免除、(3)介護休暇の創設である。

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