M&A
サントリーホールディングスに見る持株会社体制における株式上場のあり方について

2013年4月17日

  • コンサルティング・ソリューション第二部 主任コンサルタント 遠藤 昌秀

サントリーホールディングス株式会社(以下、サントリーHD)の飲料・食品事業における中核子会社であるサントリー食品インターナショナル株式会社(以下、サントリー食品)は、2012年12月に「2013年-2015年中期計画」で東京証券取引所(以下、東証)への株式上場を目指していく方針であることを公表した。2013年2月にはサントリーHDの佐治社長が同社決算発表の記者会見で東証にサントリー食品の上場申請を行うことを正式に表明した。

今回、サントリー食品を株式上場することに決めたことはサントリー食品の中期計画における事業方針の「M&Aの積極的な推進による新規事業の展開」を実現するための一環であると同時に、サントリーHDがプライベートカンパニー(非上場企業)の良さを残すことを目的とした模様である。

サントリーHDは2009年4月にそれまでのカンパニー制から純粋持株会社体制に移行した。そのプレスリリースで成長市場における戦略的M&Aや新規事業への参入などを実行していくことを持株会社化の目的として掲げている。サントリーHDは非上場企業であるため、これまでのM&Aに必要な資金の調達を主に銀行からの借り入れ、もしくは社債の発行によって行ってきており、近年、大型のM&Aを複数行ってきたことから財務構造の悪化を避ける意味でもM&Aを断念した案件も存在すると言われている。そこで、財務基盤の安定を図りながらM&Aを推進していくという課題を解決するためにも、株式上場によって資金調達の手段を多様化させる方向に舵を切ったものと考えられよう。

サントリーホールディングスのグループ概要図
(出所) 会社資料より大和総研作成

一般的には創業者の資産管理会社と位置づけられるものを除けば、非上場の親会社を持つ企業が株式を上場することは非常に稀有なことである(※1)。サントリーHDは持株会社化体制に移行する以前の2000年に外食事業を営む子会社のダイナックを上場させた経験を有するが、今回さらにグループの中核である事業子会社を株式上場する決定に至った。サントリーHDは多岐にわたる事業を傘下に置いており、サントリーHDが株式上場したときの評価はコングロマリット・ディスカウントの状況になりかねず、サントリー食品を株式上場させることが高い評価を受ける可能性があると考えられる。また、サントリーHDがプライベートカンパニーの良さを残すという観点では、仮に同社が上場することになれば、投資家からグループの低収益もしくは不採算の事業(企業)に対して短期間での改善や売却を求められることも考えられ、長期的な視点に立った経営を行うことが難しくなると考えたともいえよう。例えば、ビール事業は長期間にわたって赤字が続いていたものの、近年に黒字化するに至った。

一方で、サントリー食品が上場することで制約となる点にも目を向けておきたい。サントリー食品の上場後の株主構成は現段階において不明であるものの、サントリーHDが上場後も同社の親会社の立場を維持することには変わりがないと考えられる。しかし、上場後のサントリー食品にはサントリーHD以外にも少数株主が存在することになり、親会社と少数株主の利害が一致しない局面もあり得る。そのため、サントリー食品はサントリーHDから一定の経営の独自性が確保される必要があると考えられる。また、サントリー食品は親会社であるサントリーHDに限らず、他のグループ会社との間における重要な取引等が行われる場合にも、少数株主にとって不利益なものでないことに関する意見を支配株主と利害関係のない社外役員や第三者委員会などの「支配株主との間に利害関係を有しない者」から入手し、これを必要かつ十分な適時開示(※2)を行うことが求められる。

サントリーグループが巨大企業であることから、サントリー食品の株式上場に向けた動きは特殊な事例として捉えることもできようが、オーナー系企業には同様の課題を抱える企業は少なくないと考えられる。特に、複数の事業を営む未上場のオーナー系企業は、オーナーが直接保有する企業を上場させるという選択肢以外にも、持株会社体制に移行した後、PPM(※3)において「花形製品(star)」と位置づけられる事業子会社を株式上場させることで今後の成長に繋げていくことも選択肢のひとつとして考えられる。そうした意味からも今回のサントリー食品の株式上場は、持株会社体制にある非上場企業において中核子会社の上場が経営戦略上の選択肢となり得るものかどうかという点で成り行きが注目される。

(※1)日清医療食品(ワタキューセイモアが親会社で2001年10月に株式上場。2010年12月に非上場化)、電通国際情報サービス(電通が親会社で2000年11月に株式上場。電通は2001年11月に株式上場)など
(※2)「東京証券取引所 会社情報適時開示ガイドブック2012年10月版」、「旬刊商事法務 No.1938(2011年7月25日号)」参照
(※3) プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント:複数の事業を持ち、多角化された企業が経営資源の配分や戦略目標の策定などを行う考え方

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。

お気に入りへ登録

この記事を「お気に入りレポート」に登録しておくことができます。

このレポートのURLを転送する

  • @

執筆者紹介

関連サービス

お問い合わせ

PDFファイルの閲覧にはAdobe® Reader®新しいウィンドウで開きますが必要となります。お持ちでない方は、アドビ システムズのウェブサイトから無償ダウンロードができます。
なお、Adobe® Reader®のインストール方法は、アドビ システムズ ウェブサイト新しいウィンドウで開きますをご覧ください。

Get Adobe® Reader®

コンサルティング

コンサルタント

セミナー