M&A
のれんの減損とバリュエーション

2012年4月11日

  • コンサルティング・ソリューション第二部 吉村 浩志

M&A、バリュエーション、のれん。この三つは切っても切れない関係にある。M&Aを行なうにあたっては、ターゲットとなる企業あるいは事業のバリュエーションが必要となるが、ターゲットの評価額が時価評価後の純資産価額を上回る場合には「のれん」が生じる。ここまでは前向きな話である。

今回は、後向きの話に見えるが、「のれんの減損」について考えてみたい。

「のれん」とは

まずは基本的な事になるが、「のれん」はどのようなときに発生するものだろうか。

回答は、超過収益力があるときに発生するというものだ(注)。超過収益力があるときとは、資本コスト(期待利回り)以上のリターンを得られるような状況を指すと考えておこう。DCF方式による評価を前提とすれば、将来キャッシュフローを資本コストで割り引いたときに、時価純資産価額を上回るならば、「のれん」が生じることとなる。

したがって、買収時点で見込んでいたような超過収益力が結果的に実現しないということになれば、「のれんの減損」という問題が浮上することになる。

(注)厳密には、貸借対照表上は認識されていない、識別可能な無形資産が超過収益力の源泉である可能性もある。具体的には、知的財産等である。

のれんの減損の開示件数の推移

表1は、直近5年間(2007年4月~2012年3月)に、「のれんの減損」に関連し、「特別損失の発生」等の表題で、適時開示を行なった会社の数である。この5年間で見ると、上位3業種は情報・通信業、サービス業、小売業であり、いずれも活発にM&Aを行なっている業種である。また、2008年度及び2009年度に件数が目立って増加している。2007年度の半ばまではM&Aが活発だったことに加え、2008年度に発生したリーマン・ショックにより景気が急激に悪化したという事情が影響しているものと考えられる。

表1 「のれんの減損」についての開示件数
表1 「のれんの減損」についての開示件数
(開示資料より筆者調べ)

のれんの減損が生じる原因

のれんの減損が生じる場合としてはどのようなものが考えられるだろうか。

第一は、当初の買収価格が結果的に適切でなかったような場合である。将来の事業展開上、高いプレミアムを払ってでも獲得しようとするケースもあるだろう。そうしたケースの中には、結果的に、「高値掴み」となってしまうケースもあろう。

第二は、経済環境・事業環境の変化により、買収時点で想定していたような収益を獲得することが困難になったような場合である。当初段階では、十分に採算性が見込めていたにも関わらず、想定していなかったような事態が生じることもあるだろう。

いずれの場合も、買収時点に想定した事業計画から実績が大きく乖離するような時には、「減損の兆候あり」として、減損判定に進むこととなる。

減損判定とバリュエーション

ようやく本題に入ることができる。「減損判定とバリュエーション」という見出しを付けたが、ここでのバリュエーションは、必ずしも外部の算定機関のバリュエーションを意味するものではなく、減損判定のために行う価値評価全般を指している。決算に与える影響が大きくない場合には、企業が社内で算定を行い、説明資料を準備した上で、会計監査人との間で、のれんの取扱いについて協議を行っているものと思う。

しかしながら、のれんの減損が決算に与える影響が大きい場合はより慎重な対応を行うこともあろう。特に、のれんの超過収益力について経営陣の側に確信がある場合には、会計監査人に状況を説明する上で、より説得力を持たせようとする場面もあるだろう。こうしたときには、外部の算定機関のバリュエーションも、一つの説明材料として意味を持つこととなる。

例えば、経営環境・事業環境の悪化を受けて事業計画を見直すにあたって、その前提となる想定が、合理的な想定となっているか、また、割引率等の算定上の前提条件は適切か、等。第三者の眼を通すことにより、あやふやなところは整理され、より合理的な説明ができるようになる。こうしたプロセスにより、事業の将来性についての検討も進むこととなる。

のれんの減損判定のためにバリュエーションを行なうというと、後向きに聞こえるかもしれないが、経営環境・事業環境が大きく変化している状況において、事業の将来性を見つめ直す大事なプロセスであるとも言えよう。

 

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