M&A 人事・健保・退職給付
組織再編と労働契約の承継

2011年12月21日

経済環境の変化に伴い、組織再編を選択する企業が増加している。選択するスキームにより労働契約承継の取扱いは異なるため、ここでは主なスキームである合併・事業譲渡・会社分割に係る労働契約の承継について整理する。

合併とは、2つ以上の会社が契約により1つの会社になることをいう。
法的効果としては「包括承継」とされ、個別の権利義務の移転手続は不要となる。
労働契約も承継され、従前の労働条件を引き継ぐ(※1)こととなる。合併を理由として当然に労働条件を統一(変更)できるものではなく、労働条件の変更にあたっては通常の変更手続(労働協約の変更・就業規則の変更等)を別途行うことになる。

会社分割とは、会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を、他の会社に承継させることをいう。法的効果としては「部分的包括承継」とされ、当該事業に係る個別の権利義務の移転手続は不要となる。
当該事業に係る労働契約(※2)も承継され、従前の労働条件を引き継ぐ(※1)こととなる。合併同様、会社分割を理由として当然に労働条件を統一(変更)できるものではない。
また、労働者保護の観点から、分割会社(事業を切り出す会社側)は、労働契約承継法(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律)に則った手続を行う義務がある。この点については後述する。

事業譲渡とは、会社がその事業を取引行為として、他の会社に譲渡することをいう。
法的効果としては「特定承継」とされ、個別の権利義務の移転手続が必要となる。つまり、譲渡会社における個別の権利義務は、契約相手方の同意の下に譲受会社に承継される。
労働契約は、譲渡会社及び譲受会社間の同意に加え、労働者の個別同意を経て、承継されることになる。労働条件は従前のそれを当然に引き継ぐものではなく、両社間の同意内容及び労働者の個別同意により決定することになる。

合併は会社全体に係る組織再編であることから従業員にとってもイメージ・理解がしやすいが、会社分割・事業譲渡は特定事業に係る組織再編であり、転籍(労働契約の承継)が生ずるため、当該特定事業に属する従業員に対する十分な説明・協議が必要であることは言うまでもない。

事業譲渡における特定事業に属する従業員の転籍は、民法625条第1項の原則(個別同意)を求めるものであるが、会社分割における従業員の転籍は、労働契約承継法手続を踏むことで、個別同意を得ずに行われることが特徴的であると言える。従い、会社分割(労働契約の承継)の効果を見る場合に、労働契約承継法手続を適正に行ったかということが論点となる。

会社分割の労働契約承継手続に係る初の最高裁判決としては、日本アイ・ビー・エム事件(最高裁二小・平成22年7月12日判決)があるので、ここで主要なポイントを確認したい。この事件は、Y社のH事業部門に所属する従業員であるXら(上告人)が、会社分割により新設会社C社にXらの労働契約を承継したことに対し、Y社が行った労働契約承継手続には瑕疵があり、本会社分割は不法行為にあたる等と主張し、労働契約上の地位確認・慰謝料の支払を求めたものである。

判決の結びは、「…以上によれば、被上告人の5条協議が不十分であるとはいえず、上告人らのC社への労働契約承継効力が生じないということはできない。また、5条協議等の不十分を理由とする不法行為が成立するともいえない。」となっているが、判決内容から労働契約承継手続に係る主要なポイントを以下の通り抜粋する。

  • 5条協議(商法等改正法附則第5条・個別労働者との協議)が全く行われなかったときには、当該労働者は承継法3条(労働契約承継法第3条)の定める労働契約承継の効力を争うことができるものと解するのが相当である。
  • 5条協議が行われた場合であっても、その際の分割会社からの説明や協議の内容が著しく不十分であるため、法が5条協議を求めた趣旨に反することが明らかな場合には、分割会社に5条協議義務の違反があったと評価してよく、当該労働者は承継法3条の定める労働契約承継の効力を争うことができるというべきである。
  • 7条措置(労働契約承継法第7条・労働者代表等との協議)は分割会社に対して努力義務を課したものと解され、これに違反したこと自体は労働契約承継の効力を左右する事由になるものではない。7条措置において十分な情報提供等がなされなかったがために5条協議がその実質を欠くことになったといった特段の事情がある場合に、5条協議義務違反の有無を判断する一事情として7条措置のいかんが問題になるにとどまるというべきである。

判決内容を鑑みると、会社としては法・指針の趣旨・内容を十分に把握して、これに則った承継手続(特に5条協議)を適正に進めていく必要があるということである。

合併・会社分割・事業譲渡のいずれの組織再編スキームであれ、従業員にとっては大きな環境変化が伴うものであることから、従業員が新たな職場で前向きに仕事を行うためにも、会社としては誠実に説明・協議を行う必要がある。また、合併・吸収分割の場合には、組織再編後に複数社の労働条件が併存することになるため、最終的には(又は同時に)労働条件統一に向けた対応も検討していく必要があろう。

(※1)第三者との契約内容により、そのまま引き継ぐことが困難なものもある。
(※2)一定の条件を満たす必要がある。

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