経済・ビジネストピックス
メイカームーブメントともの作り

2012年11月14日

  • コンサルティング・ソリューション第二部 吉村 浩志

クリス・アンダーソンの『Makers - 21世紀の産業革命が始まる』(以下、『Makers』)がじわじわと話題になっている。クリス・アンダーソンと言えば、日本でも『ロングテール』、『フリー』という言葉が流行になった。その著者が、今回は、もの作りについて書いている。そのこともあってか、日本語版が出版されて3週間足らずの間に、日本経済新聞の「春秋」でも取り上げられるに至った(※1)。ここでは、この本の背景にある「メイカームーブメント」と「もの作り」について、少し考えてみたい。


メイカームーブメントとは?
メイカームーブメントという言葉は比較的新しい。この原稿を書いている時点(2012年11月11日時点)では、日本語版Wikipediaには記載がない。筆者なりに理解すると、メイカームーブメントとは、デジタル時代のDIY (Do It Yourself) によるもの作りであると言える。前述のクリス・アンダーソンは、2005年に創刊したオライリーの『Make』誌と2006年に第一回が開催されたメイカーフェアを、メイカームーブメントの始まりとしている。その意味では、今まさに進行中の動きである。

メイカームーブメントが、ここに来て大きな注目を集めつつある(※2)のは、もの作りのために必要な手段に誰でもアクセスできるようになってきたことによる。オープンソースの2D、3DのCADソフトを始めとしたソフトウェアにより、PCさえあればデジタルデータを作れるようになったこと、SNSを通じてアイディアやデザインを共有し発展させることができるようになったことが大きい。そして、デジタルデータさえ準備できれば、オンラインによる製造委託サービスを利用して、個人でも一定量の生産を行なうことができるような環境が整ってきた。加えて、1,000ドルを切る3Dプリンターの登場により、個人で実際に製品のプロトタイプや少量のフィギュア等を作ることも現実的な選択肢となりつつある。

注目したいのは、消費者自身が作り手になる、作り手にSNSでつながった人々の意見や実際の作業でより良いものができる、そこからユーザーベースが広がっていくという好循環が予想されることである。まさに、iPhoneのAppStoreで起こった出来事が、もの作りの場面で再現する可能性がそこにはある。メイカームーブメントは、3Dプリンターだけではないのである。


もの作りの原点への回帰となるか
『Makers』には、「もの作りのワクワク感」があふれている。著者が、趣味で始めたDIYドローンズ(無人小型飛行機)の製造を事業にしてしまうエピソードには、「もの作りのワクワク感」とともに、SNSによって集団の知恵を結集し、ニッチな商品で最初からグローバルマーケットを相手にするという、ビジネス上のヒントが詰まっている。試行錯誤しながらうまく行くまでやってみること、自ら手を動かすところには、Facebookのマーク・ザッカーバーグが言う「ハッカーウェー」に通じるところがある。

メイカームーブメントは一面から見ると、個人やネットを通じてつながったコミュニティによるムーブメントだが、他面ではコンシューマー向けの商品を作る、もの作り企業がいかにして活性化を図るかについても、視座を与えていると思う。

例えば、『Makers』でも紹介されているキックスターターのページを見ると、諸々の事業案が出ている。ガジェット好きの人間にとっては、「これならお金を出してもいいな」と思うものも中にはある。それは、日本の大企業の事業部門にとっては商売にならないロットかも知れない。しかしながら、小規模の組織をうまく作ることができれば、十分ペイする可能性もある。そして、一見小さいと見えているロットでも、それがグローバル市場を相手にしたニッチ商品ならば、大化けする可能性もあるのである。

「眼の肥えた消費者のために数千個単位で作られるニッチな商品」は「集合として工業経済を根本から変える」(『メイカーズ』)。著者が欧米の読者に向けたメッセージは、日本の我々へのメッセージとして受け取りたい。

(※1)2012年11月9日付日本経済新聞一面
(※2)例えば、“Things Ain't What They Used To Be …” (Financial Times, October 26, 2012)、“More than just digital quilting” (Economist, December 3, 2011)、では、メイカームーブメントや3Dプリンターをめぐる状況を取り上げている。

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