経済・ビジネストピックス
世界金融危機後のSWF(政府系ファンド) ~最近の動向

2010年6月23日

  • ビジネス開発部 中西 昭文

米国発の世界同時金融危機の発生から3年が経過しようとしている。この間、国際金融の話題の中心は、グローバル金融・資本市場の安定化やそれを目的とした各国による財政出動、さらにはその結果として膨張した債務問題(典型例はEU内債務国におけるソブリンリスク懸念の発生とその救済策の問題)へと変遷してきた。他方、金融危機発生前後の時期に連日のように報道されたSWF(※1)に係るニュースはすっかりなりを潜めた感がある。当時は先進国首脳会合G7のみならず主要な新興市場国を加えたG20(金融サミット)においても何かと話題に上ったことは記憶に新しい。

SWFがそれほど注目されなくなった背景としては、第一に金融危機発生以降は積極的な投資活動が減退したことが挙げられる。クロスボーダーの金融再編の奔りとして注目された欧米の投資銀行等への救済出資は、大幅な市場下落から損失を計上する結果となった。同時に、かつて投資に積極的だったプライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンドなどオルタナティブ投資も08年末~09年央の損失増幅で投資意欲が急速に低下した模様だ。第二は、IMFの協力のもとで主要なSWFが協調して行動規範(※2)を策定・公表し、一方で投資受入国側としてもOECDガイドライン(※3)を策定して投資受入れの環境整備を進めたことも無視できない。規範/ガイドライン自体には強制力はないものの、SWFによる自主的な投資目的や投資実態に関する情報開示を通じ、投資国の投資規律やガバナンス問題に対して投資受入国がいたずらに懸念を煽る状況が解消されたようだ。

以上の状況を裏付けるように、1999年以降急速に伸びてきたSWFの運用残高は、2007年末をピークに以降は減速傾向が明らかだ(図1参照)。資源価格の下落や貿易取引高の減少で外貨準備の増加が一服し、また新規設立のSWFも減少したなどによる。ただし、将来的には新興国需要の増大による資源価格の再上昇や中国など輸出型成長国による外貨準備の増加も見込まれており、2009年末時点で3兆8,000億ドルのSWF運用残高は、2012年には6兆ドルを超える規模にまで成長すると試算する向きもある(IFSL試算、図1参照)。

最近のSWFの投資行動にも若干の変化がうかがえる。金融危機を境に一般に大型投資案件数は縮小したものの、投資対象が従来の欧米先進国からアジア・中東などの新興国へ、業種も従来の金融中心から製造業や不動産業へウエイトを分散する傾向が見られる。また、少なからぬSWFが従来のクロスボーダー投資に慎重を期す中で、自国ないしは近隣諸国など身近な地域への投資を指向する動きもあり、自国の経済発展を強く意識した戦略的な投資機会を探っているようにも思える。外部機関に運用委託する傾向は大きく変化したわけではないが、資産運用を自前で行う自家運用の体制整備を目指すSWFがより増えてきたのも最近の特徴として言えよう(想定する投資対象地域・国における出先機関の設立や現地パートナーの模索などの動きが散見される)。以上のように、先の世界金融危機勃発は、全体としてSWFが本来的な投資のあり方など具体的な行動を見直す良い機会となったのではなかろうか。

今月末にカナダでG20金融サミットが開催される予定である。議論の中心は引続き世界景気の行方と各国の財政健全化を巡る動きに集中すると思われる。大胆な財政政策という手段が取れない政府に変わり、よりスマートになったSWFによる積極的な投資は、世界経済の成長と安定に大きく貢献するとの期待が大きい。SWFがスマートなグローバル機関投資家としてその動向が再び注目を集める日はそれほど遠くなさそうだ。

図1 SWF運用残高の推移

図1 SWF運用残高の推移

(出所)“SWF 2010”, IFSL Research, 2010年3月

(※1)国富ファンドとも呼ばれるSWFは、大きく2タイプに分類できる。一つは原油・天然ガスや鉱物など天然資源からの売却収入を原資とする産油国等に多い資源型と、中国やシンガポールで見られるような輸出主導型の経済成長を背景として累積する外貨準備を原資とする非資源型。
(※2)IWG(International Working Group on SWF)によってGAPP(Generally Accepted Principles and Practices、「行動規範・慣行に関する一般的な原則」)、別名サンティアゴ規範が策定された。
(※3)ガイドラインでは、投資享受国の投資政策に係る最良慣行(best practices)を策定している。

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