経済・ビジネストピックス
自国通貨高に脆弱な日本を考える

2008年11月5日

  • 企業財務戦略部長 柏崎 重人

今年に入ってから円ドル為替レートの変動が激しい。円は昨年末に110円/ドルを超えていたものが3月にかけて10%以上急騰、90円台の半ばを付けた。その後8月にかけて110円間近にまで下落したが、9月の世界金融危機の顕在化も手伝って足元では再び90円台の半ばにまで上昇している。報道等でも喧しいが急速な円高が実体経済や株価を翻弄する日々が続いている。輸出企業にとってはともかく、自国通貨高である円高は交易条件の改善や消費面での効果を考えれば、経済にとってプラスの面が少なくない。フロー面を中心に今後の日本経済を考える上で過度に悲観する必要はないとも言える。しかし、ストック面での問題に目を転じると、日本経済は全体として由々しき問題を抱えていることが明らかで、市場はこの状況を悲観していると見ることが可能だ。

というのも、およそ日本の対外資産は600兆円、対外負債が350兆円、純資産は250兆円である。資産は大半が外貨建て(特に米ドル建て)であるのに対して、負債は多くが円建てという内容で、日本が全体として為替レートに対して非常に脆弱な様を映し出している。実際、財務省の推計によれば2007年末に610兆円だった対外資産は、2008年3月末には582兆円と30兆円近く減少している(因みに対外負債も日本の株価下落等で減少したため、対外純資産は約5兆円の減少に留まっている)。仮に円が20~30%も急騰した場合、単純計算すると数十兆円単位の損失が生じる。金融危機による米ドル等の通貨不安は輸出企業の業績だけでなく、大幅な資産価格下落という形で日本経済への打撃となる。


外貨健資産のセクター別保有状況:2007年度末

外貨建資産のセクター別保有状況:2007年度末

注)家計には投資信託の外貨建て証券投資分が全額含まれ、若干過大な数値になっている点に留意。
(出所)日本銀行・財務省等データより大和総研推定


対外資産の保有主体構成を考えると、預金取扱金融機関(主に銀行)が約4分の1の154兆円を保有していると推定される。次いで外貨準備(政府)が約17%の101兆円、続いて年金16%(93兆円)、家計11%(65兆円)、保険8%(48兆円)が挙げられる。かつて、外貨は外貨準備(政府)並びに銀行(預金取扱金融機関)に偏在する状況であった。これが保険会社の外債投資へ拡大、さらに年金資産運用の規制緩和による外貨建証券投資拡大、外為法改正・外債ファンド拡充等による家計部門の保有へと、保有主体の裾野を広げてきた経緯を辿る。


数年前には当局の巨額な為替介入によって外貨準備のシェアが再び拡大したこともあるが、概して言えば、全ての金融資産保有主体を総動員して外貨建資産の保有(=外貨の買支え)を進めてきたという見方が出来る。もちろん、このことは30年以上の長期に亘り継続的な経常黒字を続けてきた日本経済にとって、ある意味で必然と言えなくもない。ただ、このまま米ドル偏重の外貨建資産保有を無定見に進めることは、日本経済が抱えるリスクを一層高めるだけの結果になりかねない。日本が対外投資の内容を今一度吟味する時期に差し掛かっていることは間違いなかろう。


円の実質実効為替レート(推移)
円の実質実効為替レート(推移)
(出所)日本銀行

適切な為替レートを特定することは難しいが、そもそも足元の円は実質実効為替レートで見て変動為替相場制が開始された1973年初頭と同じ水準だ。仮にプラザ合意後の急速な円高とルーブル合意を経て為替相場が安定を取り戻した20年前の水準を適正とし、その後のインフレ格差を調整する(購買力平価)ためには、円は足元から20%程度増価することが必要となる。また、長らく外貨の金利水準を数%程度下回ってきた状況を考えても、つまり金利平価で考えても円の10%以上の増価は何ら不思議な現象ではない。急激な円高に賛意を示す訳ではないし、政策的に敢えて円安・金融緩和の方向性を目指すことも短期的には十分理解できる。しかし、米国一国の大量消費、莫大な経常赤字を前提とした世界経済の枠組みに翳りが見えていることも事実だ。今回の金融危機からの脱出過程で、こうした世界経済の枠組みに変化が生じ、更なる円高が生じる可能性が否定できない。円高が長期化する可能性を視野に入れた政策の立案と実行が切望されよう。

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