アジアンインサイト
『一帯一路』:広がる国際的な支持と順調な進展

2017年6月15日

  • アジア事業開発グループ シニアコンサルタント 張 暁光

1.アジア地域 連携発展の礎
先月、北京において中国が主導してアジア、中東、欧州にわたる経済圏の構築を目指す「シルクロード経済圏構想」、いわゆる『一帯一路(The Belt And Road。「B&R」とも呼ぶ)』に関する国際協力サミット・フォーラムが開催された。世界130ヵ国以上、70国際組織の1,500人が参加、そのうち29ヵ国では首脳が出席する盛大なものであった。フォーラム開催中の2日間に約270項目の成果が纏められ、これは『一帯一路』構想が実践段階に入るための総合的な合意とみなされている。
『一帯一路』構想については、国家主席の習近平氏が2013年秋に提唱をはじめ、2015年3月に中国政府が正式な国家戦略構想として行動方針を発表するという経緯を辿る。これまでの間、筆者は同戦略構想の背景、内容、シナリオについて常に注目してきたが、当初想像した以上のスピードで推進されているのが実感だ。
また『一帯一路』構想は提唱段階から実践活動に移りつつあるようだ。実施対象地域も「点」から「面」に広がり、中国を含む少数国による提唱からアジア地域に広がるかなり多くの国々による賛同は着実に拡大しており、さらにアジア中心としつつグローバルへと今や世界中から関心が寄せられるまでになっている。以下では構想が世に出てから直近までの約3年半にわたる経緯やその成果についてレビューしてみる。

2.広範囲にわたる国際的な支持
① 沿線当事国・地域の連携進展
『一帯一路』構想が提唱された当初、直接関係する当事国は中国、カザフスタン、インドネシアなど数ヵ国にすぎなかったが、3年半が経った現在、同構想は沿線国を中心に世界の100ヵ国および国際組織から賛同が得られるまでになっている。実際、これら沿線国や国際組織との間には約50通に及ぶ政府間協力書が、また54ヵ国との間には一帯一路推進のための租税協定が締結されることとなった。特に交通インフラ分野の相互連結推進は注目度が高く、鉄道、陸・海運、航空、郵政などに係る相互連結・交流は従来の関係をベースにさらなる強化が進んでいる(代表例に「中欧班列(中国-欧州間の定期貨物列車)」の拡大がある)。『一帯一路』の沿線関連国家は約65ヵ国を数え、政治情勢や文化など異なる国情にもかかわらず短期間に連携拡大が実現できた背景には、共通のニーズや目標、そして有効な対話メカニズムがあったことが指摘できる。

② 国際組織による賛同の広がり
『一帯一路』構想の進展に伴い、関連する国際組織からの関心も拡大しつつある。国連の関連組織、アジア太平洋経済協力会議(APEC)、アジア欧州会合(ASEM)、大メコンサブリージョン経済協力(GMS)などレベルの異なる種々の連携が形成されている。特に重要と思われるイベントを紹介すると、2016年4月に中国政府と国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)との間で『一帯一路』構想共同推進に関する意向書が締結されたことを嚆矢とし、これを手始めに同年末の国連総会本会議の決議で『一帯一路』イニシアチブが明記された。次いで、本年3月には国連安全保障理事会決議で、『一帯一路』建設に関する地域経済協力強化が呼びかけられ、先月の5月にはタイ・バンコクの「ESCAP年次会議」において中国からの提案でアジア太平洋の持続可能な開発を促進するための総合的な決議案が採択されている。『一帯一路』構想の原理原則と目標は、国連が提唱する経済社会発展の考え方、例えば国連「持続可能な開発のための2030アジェンダ」などと共通点が多いことがこうした流れの背景にある。

3.インフラ投資の実行と金融支援体制の整備
2015年以来、中国では中央政府を中心としながら地方政府を含む全国規模での『一帯一路』協力体制が敷かれており、そこに加えて沿線国家での投資が実際に活発化し始めている。典型的な投資プロジェクトは中国資本を中心にして沿線国家の交通、港湾、エネルギー、産業パークといった産業インフラを中心に展開される。中国商務省の発表によると、中国企業は2016年までに『一帯一路』沿線20ヵ国において、当事国と協力して50を超える経済貿易合作区を構築、合計約185億㌦の投資を実施している。そのほか現時点で実施フェーズに入ったビックプロジェクトは10件に上り、そのうち鉄道関連は5件、港湾総合開発は2件、道路開発、産業パーク開発、大型水力発電所がそれぞれ1件となっている。鉄道分野の中核プロジェクトは「中国―欧州定期貨物鉄道便」(CR Express)であり、これは3ルートを通じてユーラシア大陸を横断する鉄道物流体系を構築するものである。いずれにせよ、これらプロジェクトの実施により、沿線国家間の相互インフラの強化や産業連関性が高められ、当該地域における経済の一体化の進展や活性化が期待されている。
以上の投資拡大は、アジアインフラ開発に関わる金融支援体制の構築によりバックアップされている点も見逃せない。『一帯一路』開発事業の資金調達ルートは、主として次のような3つから構成されている。第一は、「シルクロード基金」(SRF)、中国国家開発銀行、中国輸出入銀行のような中国政府が係る政府系金融機関からの調達である。第二は、アジアインフラ投資銀行(AIIB)、アジア開発銀行(ADB)、世界銀行、IMFなど国際機関たる金融機関による開発支援である。第三は、プロジェクト対象国や関係する事業会社など民間資金によるファイナンスである。このうち特に注目されるものとして、アジアインフラ投資銀行(AIIB)が挙げられる。AIIBは2016年初に57ヵ国・地域の創設メンバーで開業したが、約一年半経過した現在、加盟国・地域は77に達しており、本年末には85まで増加することが見込まれている。

4.結びにかえて
『一帯一路』戦略構想は、いかんせんその対象地域が広範囲に及ぶため、それぞれの国情が異なり地域の複雑性等を考えると、従前の経験則からは実現は困難と見られがちだ。しかし、実際の活動状況から考えると、同構想は現時点で当初の想定を上回る進捗を見せており、実際に広範囲の国・地域から支持を得ているのもその証左と捉えられる。
筆者はうまくいっている理由を次の4点によるものと考えている。ひとつは、同構想が保護主義、孤立主義、国粋主義的なものではなく、開放政策的で自由参加を原則とした運命共同体、利益共同体、責任共同体という発想をベースにしている点。第二に、制度や理念先行というスタンダード優先ではなく、実際のインフラ整備先行というニーズを優先した開発手法を採用している点。第三は、既存のものを排除して新規に基準を確立するものではなく、各国の実情を尊重しながら連結や連携を重視する方針を採用していること。第四に、実行性と即効性を追求するために、先行して金融支援体制を構築してファイナンス面での障害を最小化するような努力が払われている点、である。
最後に先月の北京『一帯一路』サミット・フォーラム関連マスメディアにて多数引用された中国の慣用語を引用して、取りあえずの結びの言葉としたい。

-「欲速、則独走;致遠、必偕行」(訳語:早く行きたければ、ひとり歩けばよい;遠くに行きたければ、皆で一緒に行かなければならない。)すなわち、グローバリゼーションのメリットを享受した中国は、決して「独り勝ち」を狙っているわけではなく、関係各国・地域と手を携えて繁栄を目指している。実際、中国の21世紀におけるアジアとの共生共進は目に見える形で進んでいる。

「一帯一路」に係る基本フレームワーク

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。

お気に入りへ登録

この記事を「お気に入りレポート」に登録しておくことができます。

このレポートのURLを転送する

  • @

執筆者紹介

お問い合わせ

PDFファイルの閲覧にはAdobe® Reader®新しいウィンドウで開きますが必要となります。お持ちでない方は、アドビ システムズのウェブサイトから無償ダウンロードができます。
なお、Adobe® Reader®のインストール方法は、アドビ システムズ ウェブサイト新しいウィンドウで開きますをご覧ください。

Get Adobe® Reader®

コンサルティング

コンサルタント

セミナー