高まる中国の高品質工作機械需要

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昨年11月、日本工作機械工業会と東京ビックサイト主催の「JIMTOF2016・第28回日本国際工作機械見本市」が開催された。主催者発表によると、同見本市にはアジアやヨーロッパ、アメリカなど21の国と地域から約970社が出展、来場者は延べ18万人と前回、前々回を超える盛況ぶりであった(参考:前回は16万5千人、前々回は15万5千人)。このように工作機械見本市への関心が年々高まっている理由には、日本の工作機械業界が最新技術の発展において世界をリードする立場にあり、世界最先端の技術をこの目で確かめようとする関係者が多く来場したことが挙げられる。


大手工作機械メーカーは自動車産業の生産ライン工場などに導入されるような汎用機を、中小メーカーは航空・宇宙関連や精密機器といった特殊産業やニッチ産業に必要とされる専用機を得意としている。日本の工作機械メーカーは、高い耐久性(※1)や精度に定評があり、技術開発においては欧州メーカーとともに双璧をなす先端技術レベルを維持している。


もっとも、工作機械市場という観点からは、引き続き日本の内需低迷が見込まれており工作機械需要の回復にはまだ時間がかかるとの見方が一般的だ。無論、老朽設備の更新需要や設備投資の補助金に裏打ちされた需要など一部に明るい見通しも期待できるが、円高や株安など米国次第で増幅するリスク要因も指摘され(※2)、設備投資に対するマインドは今なお不安定な状況を余儀なくされている。


こうした国内市場が覚束ない状況下では、勢い日本メーカーにとって海外市場戦略の重要性が増すのは当然のことといえ、なかでも工作機械の購買需要が世界のトップである中国(※3)からの購買需要が大いに注目されるところだ。上述の見本市でも中国からは、台湾、韓国に次いで3番目に多くの来場者が参加し、こうした期待を高める契機となった模様だ。ここで強調したいのは、中国は既に日本メーカーにとって重要な市場であったが、これまで加工精度の低い工作機械を使用するなど日本メーカーとは必ずしも接点のなかった企業群が、より高品質の機械を求め始めている点だ。これら高品質の機械を必要とする中国企業からは相当規模に達する需要が見込まれ、多くの日本の工作機械メーカーから、新たな顧客、製品需要の獲得に大きな期待が寄せられている。

日本製工作機械の輸出先別市場シェアの状況(2015年)

実際、数ヵ月前に筆者が中国現地の企業にヒアリングを行ったところ、中国において高品質な工作機械の需要が徐々に高まっているとの指摘が目立っていた。関係者曰く「中国製造業において、品質と大量生産の両立が従来以上に重要となりつつある」。要するに、中国の製造業ではかつての「品質より低価格重視」というスタンスから、「品質に応じた対価を支払う」ことへ価値観がシフトし始めているようだ。言うまでもなく、高品質な製品を大量生産するには、安定した精度を維持できる高品質な製造装置導入が不可欠となる。これまで日本企業の顧客ではなかった企業が、より高い性能を求めて日本メーカーの工作機械を求めるケースは、これからますます増加していくものと思われる。


高品質な機械に対する需要が高まるに伴い、日本メーカーが築いてきたブランド力が今後の新規顧客獲得の上で大きなアドバンテージとなるのではないか。日本メーカーと遜色ない水準の技術を有する中国、台湾、韓国の工作機械メーカーもあるが、「日本製=高い技術力、高い信頼性」というイメージが中国企業内でもしっかり確立されており、同じ技術水準なら他国のものより日本製を好む企業が数多く存在するという。また、日本製の工作機械は高い耐久性を有し、償却期間を超えた使用でも安定した精度を維持できる点で顧客からの信頼が厚い。耐久性をも考慮すると、多少値が張っても日本製機械を選ぶ中国顧客が増えてきたとの指摘は多い。


世界的な経済成長を背景とした人々の嗜好や市場の変化に伴い、中国企業は今後、自社製品の品質向上を重視する動きをますます強めるだろう。このような潜在的な工作機械需要の取込み成功は、日本メーカーにとって安定した高い収益をもたらすと期待できよう。


(※1)新興国製の工作機械にも日本メーカーと同等の精度を出せるものはあるが、耐久性に乏しく、高精度を維持できる期間は日本の機械と比べ物にならないほど短い。日本製工作機械の高い品質は「耐久性」と「精度」の2つの要素から成り立っているといえる。
(※2)大和総研レポート、「2017年の日本経済見通し」、2016年12月20日
(※3)日本工作機械工業会、「工作機械産業ビジョン2020」
なお、参考データとして「図表:日本製工作機械の輸出先別市場シェアの状況」を記載する。

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