設立25周年のモンゴル証券取引所が抱える課題と今後への期待

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モンゴルといえば、かつてアジアのみならずヨーロッパ方面まで席巻した大帝国の血筋を受け継ぐ遊牧民、広い草原を駆け巡る馬、広大な土地に眠る鉱物資源、そして日本の相撲界で活躍する力士達を想像する人が多いのではないだろうか。そんなモンゴルにも実は証券市場があり、その中核を担うモンゴル証券取引所(MSE:Mongolian Stock Exchange)は今年で誕生から25年を迎える。


MSEは1990年代初頭の社会主義から民主国家への移行期に設立された。他の移行経済国でも見られるように、株式会社化された旧国有企業を上場させる目的で取引所としての業務が始まった。当初の上場企業は475社にも達したが、公募、つまり資金調達を実施せずに上場を行ったため、企業の大半はいわゆる「上場メリット」を享受し難く、また上場企業としての責務も果たすつもりがないのが実態である。2005年以降、公募が前提の上場が実施されるようになったが、最大でも年間2~3件にとどまっており、現在でも上場企業全体の9割以上がかつての国有企業である。


MSEの時価総額は2016年7月末で約7億米ドルである。対GDP比で6%にとどまり、これは東・東南アジアで2番目に低い水準である。売買取引も低調で、2015年の売買回転率はわずかに1.5%だった。要するに現状MSEは資本市場として機能していないと言わざるを得ない。


MSEが抱える課題は数多いが、その中核は一言で言うと「投資家の信頼が得られていない」点に尽きる。投資家が信頼を寄せていない理由の第一は、上場企業の質の問題にある。既に指摘した通り、公募を実施せずに上場した企業が多く、浮動株の水準など実際には上場基準を満たしていないケースが少なくない。因みにモンゴルの代表的な企業、つまり優良なブルーチップ企業の多くは未上場のままで、そもそも信頼されるに足る上場企業が大幅に不足している。


第二に情報開示が大きく欠乏している。MSEの上場企業は半期の決算報告が義務付けられているが、公表されるのは極めてシンプルな財務諸表のみであり、財務情報に関する注記の説明もなく、また決算説明会も全く実施されない企業が大半である。投資判断に活用できる内容のプレスリリースもほとんどなく、圧倒的な情報不足により企業の中身がわからないのでは、投資家が取引を敬遠するのも当然だろう。


以上の状況改善に向けて、MSEでは各種の取り組みが開始されている。2015年にMSEは自主規制監督機関(SRO:Self-Regulatory Organization)へと制度的に組織変更し、より市場取引の活性化を意識した上場企業管理や売買の考査を行う体制への転換を図っている。既に本年初めに上場基準の見直し自体は実施されているが、さらに内容の強化・改善を図るとともに既存の上場企業に関して上場廃止の基準を明確に設定する検討を開始している。


併せて、監督官庁の資本市場規制委員会(FRC:Financial Regulatory Commission)においても、モンゴルの資本市場の発展に向けて様々な改革を実行する機運が高まっている。証券会社の規制・監督体制を強化することで、投資家を誘引する際の信頼改善を図ろうとの試みのほか、国内の投資家層の拡大を目的とした金融リテラシーの向上にも積極的に取り組もうとしている。もちろん、MSEやモンゴル証券業協会(MASD:Mongolian Association of Securities Dealers)との連携を深めることで、証券市場の発展を意識した重層的な規制・監督体制を構築する流れも大いに期待できる。


モンゴルでは6月に実施された総選挙の結果、野党だった人民党が圧勝し、政権交代が実現している。選挙前の連立政権と比べ、国会で単独過半数の議席を有する新政権の下では様々な分野で課題解決に向けた強力な取り組みが打ち出されるとの期待が高まっている。なかでも新政権は、今後取り組む経済政策において資本市場の発展を重視する考えを持つとみられている。MSEを中心にモンゴル資本市場の信頼改善に向けた取り組みが加速するかどうか今後の動静に注目したい。

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