第13次五ヶ年計画に係る中国高齢者福祉事業の政策動向

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  • コンサルティング第二部 主任コンサルタント 張 暁光

去る3月17日、「中華人民共和国国民経済と社会発展第13次五ヶ年計画要綱」(以下“計画要綱”とよぶ)が公表された。“計画要綱”は20編の80章で約6万6千字の構成になっており、“経済発展”“創新推進”“民生福祉”“資源環境”という4大テーマをめぐって今後5年間における中国の社会発展のシナリオが提示されている。さらにそのなかで、中国の急速な高齢化社会に備える養老体系の確立に資するグランドデザイン、老齢産業の業態構造、関連保険制度、金融財政支援などの分野において、直接的また間接的な政策の方向も示されている。


過去を遡れば、かつて中国では高齢化社会の到来に向けて、第12次五ヶ年計画期間中(2011~2015年)、特に2013年以降、養老関連分野で多数の政策が中央政府より発表された。かかる政策は1.業界基本規程と参入基準、2.シルバー産業政策、3.施設建設に係る土地利用政策、4.財政金融支援と補助策、5.監督管理政策などの多岐にわたっており、これらの政策によって、中国の養老事業体系整備に係る基本的な土台が形成されたと言っても良いであろう。しかし、これらの政策は既成事実に対する追認パターンが多く、中国の高齢化社会に適切に対応できる政策体系としては中途半端な印象を受ける。最近の中国国内での高齢化社会に関する関心事項をもとに政策のポイントを整理すると、下記のような課題が認識されている。

①中国の国情に適合する高齢者支援のための社会サービス体系のあり方。在宅介護、施設入居介護、コミュニティー介護を包括できるマルチレイヤーの養老介護支援サービス制度の構築。
②高齢者養老事業における政府の役割の範囲。政府による財政補助・金融支援手段と市場原理手段の両立
③高齢者介護のための公的施設、民間施設に対する差別政策の是正と外資業者の導入を含めた統一、開放、公平市場の構築。
④高齢者人数の急速な拡大に対する、年金保険カバー率の低い水準。及び、介護保険制度の未確立。
⑤社会全般的に医療資源が不足するなか、高齢者介護への医療ソリューションの確保-“医養結合”の実現。


近年、中国では上記の課題に対する注目度が次第に高まっており、中央及び地方政府は、今後5年間高齢者福祉事業の推進を避けては通れない命題と捉え、より力を入れて取り組み始めている。国民経済と社会発展の“第13次五ヶ年計画”の確定に伴い、中国養老サービス体系構築“第13次五ヶ年実施計画”も、専管機関である中国民政部の主導のもとで最終検討段階に入っている。


以下は、“第13次五ヶ年計画要綱”に関し最近民政部より一部公開された内容、またその他の関連機関による政策発表動向について整理を試みた。


1.高齢者介護の社会サービス体系構成の充実化
2011年民政部が公表した「社会養老サービス体系構築第12次五ヶ年計画」では、初めて中国の社会介護サービス体系における“9073”という目標が掲げられた。つまり在宅介護サービスを90%と基礎に置き、コミュニティーによる拠り所である社区養老サービスを7%、施設入居介護を3%とすることであった。しかし、実際には施策の重点は施設入居介護に偏重しており、メインである在宅介護サービス及び社区養老サービスには施策による支援が十分に届かなかった。さらに施設への実際の入居者はほとんどが介護を不要とする自立者に占められて、要介護者の入居比率は極めて少ない状況である。この点を反省材料にして、“第13次五ヶ年計画”の対象期間中には、在宅介護サービス及び社区養老サービスに対する政策支援が大幅に拡充される予定である。


2.養老保険ネットワークの拡充
“第13次五ヶ年計画”の対象期間中、高齢者向けの多層的な社会保険体系の構築が目指されている。そのなかでも、少なくとも次の3点について注目されている。一つは約20年間も続いてきた「年金双軌制(ダブルスタンダード)」の廃除(※1)、もう一つは基本年金保険のカバー率の拡大(現在の80%を90%へ)、最後は「長期?理保?(介護保険制度)」の構築検討である。この3点の行方は、中国の高齢者福祉事業に大きな影響を与えると予想される。


3.“医養結合”(※2)の推進と業界地図の変化予想
中国では、医療サービスの供給が不足しているなか、医療事業と養老事業は異なる行政機関によって所管されており、医療サービスと介護サービスが個別に提供されていることから、高齢者の診療行為は常に困難が伴っている。このボトルネックを解消するために、2015年11月国務院をはじめとする九つの行政機関が共同で医療事業と養老事業との融和を促進するために、行政指導意見を公表した。今後、各地方政府は2017年と2020年の2段階目標を設けて、“医養結合”を一層推進する予定である。これにより、関連分野の業界地図が塗り替えられることが予想される。


4.養老金融体系の拡充措置
高齢者福祉及びシルバー産業関連分野について、2015年末頃から2016年3月にかけて、中央政府は複数の政策を発表した。大まかに整理すると、今後主に三つの分野で施策が展開されると予想される。まず、全国社会保障基金と基本養老保険基金に関する管理、運営が地方政府から中央政府に一本化される。これにより、資本市場での投資運用の比率が拡大することが予想される。次に、銀行などの金融機関が例えば高齢者向けに専用の窓口を設置するなど、高齢者向けのサービスの拡充や多様化の推進である。三つ目は、養老債券という特定債券の発行制度が新規に設立され、シルバー産業に関わるインフラ整備プロジェクトに養老債券の発行というファイナンス手法が適用されようとしている点である。


第12次五ヶ年計画(2011年~2015年)は中国の高齢者福祉事業に関する準備期間と例えるとすれば、第13次五ヶ年計画期間(2016年~2020年)は全面的な起動期と言うことができる。世界最大規模の高齢者社会に備えるべく、中国の高齢者社会福祉業界の成長を見守っていきたい。

高齢者向け福祉政策動向

(※1)“年金双軌制”:公務員と非公務員によるダブルスタンダードの公的年金制度である。1995年より施行されているが、不公平という社会批判を受けて、制度の一本化に切替えられている。
(※2)“医養結合”:高齢者介護事業に医療サービス支援を充実するために、医療機関及び医療機能と介護事業を結合するための政策である。2017年と2020年の2段階での推進目標が設けられている。

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