バングラデシュのPPP(2)

進捗の遅い展開

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  • アジア事業開発グループ 吉田 仁

筆者は2015年1月にバングラデシュのPPPについて期待感を持ったコラムを執筆した(※1)。期待する理由として2点、①大規模インフラ開発への期待、②PPP法制度の充実ぶり、を挙げ、これらは引き続き継続されていると考える。しかし、約1年半のPPPプロジェクトの進捗を見返すと、その遅さが目に付く。


バングラデシュのPPP監督機関の一つPPP Authority(首相府の機関)のWebサイト(※2)によると、2016年5月時点でPPPプロジェクトの候補案件は44件(2015年1月時点は42件)。図表1は各案件を実施フェーズごとに(企画、CCEA(※3)による承認、F/S、入札、契約、建設)集計したものだ。上流のフェーズから順に追ってみると、2015年1月にCCEAの承認段階であった8件のうち、次のフェーズに進めたのはわずか2件で残り6件は同一フェーズに停滞している。同じく2015年1月にF/S段階であった24件のうち、次のフェーズに進めたのは5件に過ぎない。入札段階からは1件も次のフェーズに進めなかった。唯一、契約段階まで進んでいた4件については、3件が建設段階に進むことができた。

PPPプロジェクトの案件化フローとフェーズ別プロジェクト件数

図表2によれば、各フェーズに必要な期間は最長でも約半年である。約1年半の期間を通じて多くのプロジェクトが同一フェーズに留まっている状況は、(政府想定よりも)進捗が停滞していると言わざるを得ない。


プロジェクトの進捗停滞の一因として、2015年9月に公布されたPPP法の整備や法施工に合わせた対応が考えられる。PPP法の英語版詳細は2016年5月時点で公開されておらず、PPP Authorityウェブサイトのリリースに要約が記載されているのみである(※4)。従来のPPP OfficeがPPP Authorityに組織替えされ、その権限も強化された模様であるが、制度が大きく変更されたわけではないようだ。


プロジェクトを促進する責務を負うPPP Officeで組織変更が実施されたことを割り引いても、進捗の停滞感は否めない。

バングラデシュ政府が想定する各フェーズでの所要期間

図表1に話を戻すと、5件のプロジェクトがPPPプロジェクトとして廃案になったものと思われる(※5)。そのうち入札段階から廃案となった1件のプロジェクトの理由は、入札により投資家を集めることができず、規模を縮小して中国政府の支援で実施することが報道されている(※6)。その他4件はF/S段階からの廃案であるため、F/Sの結果、不適格となったものと考えられる。


一方で、新規に7件のプロジェクトがCCEAに承認された。ただし、5件の廃案を加味すれば、プロジェクトの総数はほとんど増えていないのが実態である。PPP AuthorityやPPP関連機関の実務能力・規模の制約から40件強のプロジェクト総数が上限となっていることが示唆される。


バングラデシュ政府のPPPに対する関心は強く、外資に対してもオープンな姿勢をとっている。実際、PPP法改正にはADBの協力を仰いでおり、PPP法の目的のひとつは海外投資家の関心を惹きつけることである。バングラデシュにおけるPPPの発展を願うものの、まずは各候補プロジェクトの迅速な進捗、すなわちトラックレコード作りが求められよう。


(※1)「バングラデシュのPPP いよいよスロースタートか」(2015年1月15日)
(※2)http://www.pppo.gov.bd/
(※3)Cabinet Committee on Economic Affairs (CCEA)とは首相直轄の閣僚級の委員会の一つ。PPPに関するガイドラインやプロシージャの承認や、PPP関連の政策・法制度の制定、VGF (Viability Gap Funding)案件の最終承認などの役割を負う。
(※4)PPP Authorityウェブサイト
(※5)2015年1月時点にはリストに掲載されていたが、2016年5月時点でリストから外れたプロジェクトが5件存在する。
(※6)2015/7/23付Dahka Tribune紙

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