ベトナムにおける環境産業発展への期待

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2016年2月23日、ベトナム計画投資庁と世界銀行は、共同でベトナムの長期的な改革と発展の方向性を示した“ベトナム2035年:繁栄、創造、公平、民主主義を目指して(Vietnam 2035: Towards Prosperity, Innovation, Equity, and Democracy)”を公表した。


本報告では、2035年に向けた成長ビジョンのひとつとして、高位中所得国(※1)となることを目標に、年率7%程度の高い経済成長率の実現を掲げている。この高い発展軌道を長期的に支える3つの柱(※2)のうち、第1の柱が“環境の持続性を維持した経済的繁栄”である。これまでの経済成長は、同時に高い環境負荷の犠牲を伴うものであり、すでに都市化と工業廃水による環境汚染が健康被害をもたらしている点を省みている。そして今後も持続可能な経済成長を促進する政策として、国有企業改革、市場経済化の推進や学習・イノベーションの促進、産業集積等と並んで環境の維持・保全が掲げられ各種の政策措置や制度整備の実施が求められている。


このように途上国が都市化・産業化による経済発展の過程で、エネルギーおよび環境が制約を受けることは、隣国である中国の経験が記憶に新しい。中国では急速な規模拡大を重視した産業政策により、2000年頃から環境汚染の問題が顕著になり、効率的な経済成長が重視されるようになった。さらに2006年3月に採択された「第11次五カ年計画(※3)」では、発展の質の変換と持続可能な成長を目指し、経済目標だけでなく、環境分野でも拘束性目標として明確な目標値(※4)を示し、法律や監督の強化、財政支出の拡大により必ず達成することとした。これを受けて、全国で環境保護や汚染防止のための各種プロジェクトが実施され、同分野への公共投資が大幅に拡大しただけでなく、外資系企業の進出にかかる規制緩和や、環境技術の導入・開発など幅広い支援措置を政府が取り組むことで、環境関連の市場は大幅に拡大し、環境産業が発展するきっかけとなったと考える。当初、技術水準の内外格差から外資系企業が市場の大半を占めていたが、需要拡大に応じた中国企業の積極的な市場参入により、環境産業の基盤が形成された時期であった。


2016年のベトナムは、大臣・閣僚が交代し、新たな社会経済発展5か年計画(2016-20年)が公表される1年となる。当然ながら、ベトナムと中国では発展の状況や社会・国民の受容性などが異なるものの、当該5か年計画では環境分野でも具体的な目標が示され、ベトナム政府の取り組み姿勢を示すことで、市場拡大や民間企業の参入を通じて環境産業の発展に弾みがつくことを期待したい。


(※1)高位中所得国(UMICs:Upper Middle Income Countries)は2013年の国民一人当たりのGNIが4,126ドル以上12,745ドル以下の国・地域を指す。OECD Development Assistance Committeeが公表するODA被援助国リスト(List of ODA Recipients)2015年版。
(※2)3つの柱として、“環境の持続性を維持した経済的繁栄”、“公平性と社会的一体性の促進”、“行政能力と説明責任の強化”が挙げられている。
(※3)中华人民共和国国民经济和社会发展第十一个五年规划纲要(2006~2010年)
(※4)具体的には、GDP当たりのエネルギー消費削減量(2005年消費量の20%)、GDP当たりの水使用削減量(2005年使用量の30%)、主要汚染物質の排出削減量(2005年排出量の10%)の3つの目標が示された。

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