中国新エネ車の夜明け

2015年、充電インフラは付加サービス型へ

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2014年は中国にとって新エネ車(EV・PHEV)元年といえる年であった(※1)。その後も中国の新エネ車に関する販売動向には目を見張るものがある。2015年における中国の新車販売台数は、7年連続で世界一となり、そのなかでも新エネ車の販売台数では、2014年比でEVが5.5倍の247,482台、PHEVが2.8倍の83,610台となっている(図表1)。中央政府が発表した2016年の見通しでは、購入補助金や新エネ車の購入税を免税するなどの国策的な追い風が継続することもあり、新エネ車生産は前年比で2倍以上に拡大するとしている。


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新エネ車市場が急拡大している一方で、課題点もあるという。2016年3月13日に開かれた第12期全国人民代表大会(日本の国会に相当)では、工業和信息化部(※2)の苗圩大臣のスピーチで、中国の新エネ車産業は現在成長期である旨の発言があると共に、2つの課題点についても語られた。


第一の課題は、EV本体にあるとしている。例えばEVの走行距離や電池寿命などの性能や信頼性の向上である。二点目は充電インフラの整備であるという。充電施設建設のさらなる必要性について言及されており、中国政府はこの二点の課題解決に積極的に取り組む政策を実施中であるという。本稿では特に二点目の充電インフラに関して、2015年に実施された2つの政策について取り上げる。

  1. 「電動自動車の充電インフラ建設の加速に関する指導意見」

国務院弁公庁(日本の内閣に相当)が2015年9月29日に発表した「電動自動車の充電インフラ建設の加速に関する指導意見」では、新エネ車普及の障害となっていた充電インフラの整備が、中央政府により全面的に打ち出された。この指導意見では、企業がビジネスモデルを創造し、互いに協働することにより、民間資本が充電インフラ施設の建設及び運営に参画することを奨励している。現状の充電インフラの課題点として、各地方及び各部門における充電インフラに関する認識の不統一、関連政策の不足、関連部門における協調推進の困難性、標準化に関する不完全性等を挙げている。加えて、2020年までに充電インフラ体制を整備し、500万台超に及ぶ新エネ車の充電需要を賄うことを目標としている。

電動自動車の充電インフラ建設の加速に関する指導意見
  1. 「EVの充電インフラ発展ガイドライン」

国家発展改革委員会、国家能源局、工業和信息化部、住宅・都市農村建設部の四部委は、新エネ車の充電インフラ建設を科学的に誘導し、新エネ車産業の健全で速やかな発展を促進するため、「EVの充電インフラ発展ガイドライン」を2015年10月9日に発布している。この発展目標では、2020年までに集中型充電・交換ステーション1.2万ヵ所、分散型充電ポール480万本を設置し、中国における500万台の電気自動車の充電需要を満たすことを目標としている。

EVの充電インフラ発展ガイドライン

上記2つの政策に沿った形で、民間企業においても様々な充電インフラ事業の展開が加速している。筆者の私見においては、中国の充電インフラ事業は、「従来型」と「付加サービス型」の2つに大別されると考えるが、これまでの「従来型」は、政府支援策のもと、電力価格に充電サービス料を上乗せした事業モデルが主流であった。しかし、2015年以降は、インターネットを駆使した「付加サービス型」が登場したことが特徴だといえる。「付加サービス型」は、「従来型」のモデルに加えて、充電インフラを入り口とし、EV車両から車両の状態などのデータ収集を行い、車両から吸い上げたビッグデータを分析したうえで、各種周辺ビジネスへと参入している事業モデルである。


例えば常州市にある自動車販売企業A社では、クラウドファンディングの手法で充電インフラ建設用の土地や資材を投資家から調達している。中国ではクラウドファンディングは「広く大衆から調達する」という意味であり、対象物は資金とは限らない。同社は充電設備及び充電プラットフォームの場を提供し、投資家と消費者を結ぶビジネスモデルを構築している。当該充電インフラに投資した投資家は、充電施設の利用状況や売上履歴等を、充電設備を利用する消費者は充電状況や料金支払いの確認を、スマートフォンアプリで可能としている点が特徴的である。


他には青島市の電気設備企業B社もユニークなビジネスモデルを構築している。B社は充電インフラに関してほぼ全てを自社投資としており、充電プラットフォームを用いて、多くの参入者をプラットフォームに集め、データを収集し、集めたビッグデータを分析したうえで、EVの販売や修理などを手掛ける仕組みを構築している。同社は将来的に、その充電インフラを用いて電力の売買を想定している点が特徴的である。


このように、中国では「付加サービス型」のビジネスモデルをもって、新しい事業者がユーザー獲得に向けてしのぎを削り、「従来型」にはない工夫を重ねている。2016年3月現在、中国全土において高速道路を除き、統一的といえる充電インフラはまだ不足している。中央政府・各民間企業においても手探り状態であることは否めないが、上述した政府の政策もあり、現在は各事業者が様々なアイデアを使って事業進出をしている段階にある。充電インフラビジネスの採算をとるためには規模の経済が必要であることから、将来的にはM&Aや淘汰が進み、市場に認められた数社のみが存続することとなるだろう。引き続き今後の動向に注視していきたい。


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(※1)「中国次世代自動車の夜明け-2014年は新エネ車元年-」(2015年5月14日 アジアンインサイト)
(※2)日本の経済産業省と総務省にあたる。英語表記はMinistry of Industry and Information Technology

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