アジアンインサイト
インバウンド「爆買い」と越境ECによる中国「越境オムニチャネル戦略」の考察(後編)

2016年3月3日

  • アジア事業開発グループ シニアコンサルタント 芦田 栄一郎

本件後編では、前編(※1)に引き続き、訪日中国人客向けの国内店舗販売と帰国後の越境ECによる「越境オムニチャネル戦略」でリピート購入の連鎖を構築することを成功に導くための方策について考察したい。

本題に入る前に、2015年の中国からの訪日外国人旅行者(総数)の推移について確認したい。日本政府観光局によれば、2015年の訪日外国人全体の数は過去最高の1,973万人に達した。図表1に示すように2015年の訪日中国人客数の存在感が大きく、約499万人にのぼり、2014年の約2.1倍、2013年の約3.8倍の伸びを記録している。

また観光庁によればインバウンド消費額(訪日外国人旅行消費額)は3兆4,700億円を突破。そのうち中国人による消費額は外国人全体の約41%に相当する約1兆4,200億円となった。訪日中国人客向けビジネスは活況を呈している。

中国訪日旅行者(総数)の推移

この「爆買い」と呼ばれるインバウンド消費を、訪日中国人客が帰国後も中国国内からインターネットを通じて、日本の業者から購買する行動に結び付け、商機として活かすにはどのような活動が必要であろうか?

「越境ECにおいてもプロダクトアウトの発想ではなく、マーケットインの発想」が重要であることは本件前編でも述べたが、それ以前に、越境ECに対する抵抗感を持つインターネットユーザーに対し、越境EC事業特有の障害となる「3つの壁(言語・決済・配送)」の課題解決を行い、不安を和らげることが先決である。

まず、言語の壁についての対応は、インターネット・サイト内の言語は中国人ネイティブから見て不自然のない翻訳を完璧にすることである。怪しい文章が並んでいては、信用の置けないサイトと判断され、販売の機会も逃してしまうであろう。機械的な自動翻訳では伝達の限界があるのでECに精通した専門家に翻訳を依頼することがベストである。コストを抑制したい場合には、中国人留学生のアルバイトを雇用することやボランティアで中国語を指導している方を見つけて依頼するなどして、必ずネイティブチェックを行うことをお勧めしたい。中国向け越境ECビジネスが軌道に乗れば、中国人社員を雇用することも一考に値するであろう。

次に決済の壁についての対応であるが、越境EC決済に対する抵抗感を少しでも軽減させたいのであれば中国人が国内ECで日常的に使用している決済手段を備えるべきである。慣れ親しんだプロセスであればストレスも少なく受け入れやすいであろう。具体的には第三者オンライン決済機関である「支付宝(Alipay)」や「銀聯カード(China UnionPay)」が広く使用されているので目安となる。クレジットカード使用率は11.9%(2013年iResearch)であり、日本の事情とは異なる点も注意されたい。

また、売上が人民元で、仕入れは日本円である場合も多く、円滑な経済活動のためには通貨変換サービスの有無や為替手数料の条件を加味して決済業者を選定することが望ましい。

最後に、配送(デリバリー)の壁についての対応であるが、可能であれば複数のオプションを用意したい。「料金は高めであるが、商品が早く確実に配達される手段」や「商品の配達日数はかかるが、料金は格安である手段」など選択肢が多ければ消費者が状況に応じて使い分けることができ利便性や満足度も高まるであろう。留意点としては、返品に伴う返送業務の対策を講じる必要がある。筆者がインタビューを行った複数のEC物流事業者情報によると中国人のECは日本人と比べて返品率が高いとの結果を得ている。その理由は実際に届いた商品を手に取って確認し、気に入らなければ商品を気軽に返送する商習慣によるものである。キャンセルポリシーを綿密に構築し、返品や交換の要請が生じた場合の返送料金負担などについて規定し、消費者に周知徹底し、返送に伴うトラブルを回避することが肝要である。

以上、越境EC特有の障害となる「3つの壁(言語・決済・配送)」の課題解決を行うことが越境ECへの促進につながると考えているが、日々これらの越境EC対応を行うことは企業にとっての負担も大きく、また初期費用およびランニングコストも加味するとリスクの高いビジネスになりかねない。

そこで、中国越境EC市場へのビジネス展開パターンの一案として越境EC支援会社のテストマーケティングパッケージから始めることを提案したい。越境ECビジネスの障害となる3つの壁にワンストップで対応して支援してくれることはもちろんのこと、中国での大手モールサイトへの登録手続き、WEBサイトの構築、物流システムの構築、国際資金決済の対応等のサービスを行っているEC支援事業者も存在する。商品やサービスを中国人向けのモールサイトに掲載することにより、中国人消費者の反応を知ることもできる。もし商品が売れないのであれば、敗因分析を行い、手法を変えることで商機の評価ができる。価格に問題がありそうだという仮説があれば、価格を変えて売上との感応分析をすればよいし、サイト内の滞在時間が短ければ、ボトルネックとなる箇所の改善を行い動画や写真を入れてわかりやすくするなど、読ませる工夫、滞在時間を長くさせる工夫を行えばよい、というように解決の糸口が見つかる。

越境ECになかなか着手できずに商機を逃すよりも越境ECトライアルパッケージを提供しているEC事業者を活用して自社商品をどうアレンジすれば売れるのかという筋道を分析・検証することにエネルギーを注ぐことが得策と考える。

本件前編でも述べたように、訪日中国人客の消費行動の一例として、旅先で目にした商品を、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やブログに、写真・動画を投稿することで情報発信することが知られている。口コミや他人の体験談を重視する中国人には、このSNSを上手く活用する方法がマーケティング上大切である。

越境ECにおける障害(3つの壁)の課題解決やビジネス展開の工夫などを理解した上で、訪日中国人客を越境ECにどうつなげてオムニチャネル化すべきなのか。

訪日中国人客が多い店舗である場合、帰国後の越境ECによって自社商品を購入してもらえるよう越境ECサイトへの案内ビラにQRコードを活用してアクセシビリティを高めたり、一定金額以上の越境ECには日本からの送料を無料とするクーポンを付けたりしてワンチャンス・ワンゲットの訪日中国人客との接点を活かし、ロイヤル・カスタマーに育てる方法など多く存在する。自社製品の特徴や経営戦略との整合性を考慮して試行錯誤を繰り返しながら着地点を見つけることが一見遠回りであるようで成功への近道である。先駆者や専門家にも相談し、成功事例および失敗事例を情報収集しながら、このインバウンド需要を越境ECビジネス成功につなげてほしい。

(※1)インバウンド「爆買い」と越境ECによる中国「越境オムニチャネル戦略」の考察(前編)は、2015年10月1日付け本コラム(芦田栄一郎)を参照。

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