介護関連サービス提供企業の海外進出の可能性

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-介護サービス事業者による海外進出の状況
ここ数年、介護施設、通所介護、訪問介護といった介護サービス事業者が海外に進出するケースが見られるようになった。その中でもとりわけ高齢化社会が急速に進む中国に商機を見出し進出するケースが目立つ。中国における65歳以上の人口は2013年に総人口の9.7%にあたる1億3,000万人を突破し、既に日本の総人口よりも中国の65歳以上の人口が多い(※1)。更にその数は今後も増加の一途を辿ると予想されている。日本よりも巨大な介護市場が広がっているため、介護サービス事業者による中国への進出は自然な展開と言えよう。中国以外では、タイやインドネシア、そして介護保険制度の導入を目指す台湾へ進出した介護サービス事業者もいる。また、日本がインドネシア、ベトナム、フィリピン各国との間で締結するEPA(経済連携協定)には、当該国からの介護福祉士候補者の受け入れが含まれている。このような人的交流を広い視野で捉えれば、当該国に向けた日本の介護サービス品質の伝播につながり、介護サービス事業者による当該国への進出にプラスに作用することも期待できる。


これから経済発展を迎えようとする新興国の場合、その発展速度と高齢化社会の進行速度が同等、若しくは後者が速い場合、当該国で介護産業が十分に育成されないまま高齢化社会を迎え、介護福祉が大きな社会問題になる可能性が予想される。介護先進国である日本の介護産業が、そのような国の高齢化社会を多面的に支援できれば、双方の国にとって有益であると思われる。


-国内における介護関連サービスの存在
ところで、我が国の2014年度の介護給付費用、つまり介護保険から給付される介護サービス利用に対する費用の総額は9兆7,624億円に達している(※2)。この額は年々増加の一途を辿っており、2025年には20兆円にまで膨らむという予想もある(※3)。ただし、これは介護保険が適用される介護サービスに関する給付費用である。具体的には、1)訪問介護、通所介護等の居宅サービス、2)認知症対応型共同生活介護等の地域密着型サービス、3)介護福祉施設、介護老人保健施設といった施設サービスがそれに相当する。


一方で、我が国の介護業界ではこのような介護サービスを取り巻くように、介護保険の適用対象ではない様々なサービス(本稿では「介護関連サービス」とする)が存在している(図1参照)。例えば、要介護者の住居に栄養バランスを考慮した食事を届ける給食サービスや家事を代行するサービス、ICTを駆使した要介護者の見守り・通報サービス、また介護用に住宅をリフォームするサービスもある。その他、近隣への外出の支援や、旅行支援の他、介護予防を目的としたプログラムを提供する会員制スポーツクラブ等もある。金融分野では、公的な介護保険の内容を補完する目的で民間の生命保険会社等が介護保険商品を提供している。介護人材育成に目を向ければ、ケアマネージャーやホームヘルパー、福祉用具専門相談員等多様な職種の介護人材の育成に向けて、専門的なカリキュラムで教育ビジネスを展開する機関が日本には多く存在している。


このように、我が国の介護業界は、コアとなる介護保険給付対象の介護サービスに、幅広い分野の介護関連サービスが組み合わさった重厚な産業構成となっている。筆者による大まかな推計では、介護関連サービスの市場規模は約1兆円である。市場規模はまだ介護給付費用総額の1割程度ではあるが、高齢化社会の更なる進行と共に介護関連サービスの市場も拡大し、介護給付費用総額に対する比率も高まる可能性がある。


-介護関連サービス提供企業による海外進出への期待
上述の通り、海外へ進出する日本国内の介護サービス事業者は、今のところ介護施設、通所介護、訪問介護といった分野の企業がメインである。他方で介護関連サービス分野においても、日本国内同様、海外での潜在ニーズは少なからずあるのではないかと考えられる。介護を必要とする方々およびその家族の立場で考えれば、例えば自宅への食事の配給や家事代行、外出時の支援等は便利で有難いサービスではないだろうか。要介護者が快適な日常生活を送ることができるための支援や、介護する側の負担軽減は、日本だけでなく各国共通のニーズであるように思われる。介護サービスの高いホスピタリティとバリエーションの豊富さは、介護先進国である日本ならではの特徴であるため、介護関連サービス提供企業による諸外国への進出を期待したいところである。


-課題は何か?
ただし、介護関連サービス企業の海外進出には次に挙げる5つの課題が考えられる。
【①:介護関連サービスの位置付け】
介護関連サービスは付加的サービスの側面があるため、介護施設、通所介護、訪問介護といったコアとなる介護産業拡大の次ステップとして検討されることが想定される。よって認知度の向上とニーズの高まりには時間を要するのではないだろうか。
【②:ターゲットが当面富裕層に限定される可能性】
上述の通り介護関連サービスは付加的サービスの側面があるため、新興国を対象とすれば、たとえサービスの認知度が向上しても経済的に裕福な顧客層が自ずとメインターゲットとなろう。
【③:ビジネスが成立するための条件の見極め】
介護がまだ大きな社会問題となっていない国では介護に関する諸制度が整備されていないことが多く、介護関連サービスの展開上何らかの課題が発生する可能性がある。また制度以外でも、例えば交通渋滞が激しい地域ではデリバリーのコストが課題となる等、収支面での課題も想定されよう。
【④:現地企業との提携】
そもそも日本の介護関連サービスは他業界からの新規参入のケースが多く見られる。海外進出においても相手国における介護に関連する産業の状況とプレーヤーの現状を把握したうえで、適切な提携相手の選定が必要であろう。
【⑤:人材育成】
介護関連サービスに限らず介護サービス全般において、人材の品質がサービス品質に直結しやすい。海外で有能な介護人材を確保することは容易ではないため、サービス品質を維持できる人材育成は重要なポイントである。

介護業界を取り巻く幅広い介護関連サービス

(※1)中国人口情報センター発表の情報による。
(※2)公益社団法人 国民健康保険中央会発表の「介護費等の動向(平成26年度年間分)」による。
(※3)厚生労働省 第100回社会保障審議会介護給付費分科会(平成26年4月28日) 資料2「介護保険制度を取り巻く状況」による。

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