カンボジア:直行便就航の好影響に期待

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2016年1月、日本-カンボジア間の定期直行便の就航が決定したとの報道がなされた。およそ10時間必要であった日本からカンボジアへの移動時間が7時間程度に短縮される見込みである。これまで、訪問するためには乗り換えが必要であった点でカンボジアは「ASEANの遠い国」(※1)の部類にあった。


日本との定期直行便就航の決定は、カンボジアにとって以前からの念願達成と言えよう。というのも、カンボジアを訪れる外国人の内およそ5%が日本人であり、カンボジア政府は日本人観光客のみならず日系企業の誘致にも積極的に取り組んできたためである。


カンボジアへの日本人訪問者数は2009年以降増加を続けていたものの、2015年は6年ぶりに前年比減少する見込みである。また、国別の来訪者数では日本は2008年時点で3番目に多かったが、2015年は7番目となる見込み。カンボジア政府は、定期直行便が就航していないにも拘らず、これまで多くの日本人がカンボジアを訪れていることや、口コミサイトでの人気観光地ランキングで毎年上位にカンボジア(シェムリアップ)がランクイン(※2)していること、カンボジア自体が親日国であることなどから、定期直行便の就航を働きかけてきた。

カンボジアへの日本人訪問者数と構成比の推移

カンボジアの観光産業全体では、2015年のアンコール遺跡群への訪問者数が前年比+2.4%と伸び悩んだことが現地報道機関により報じられた(※3)。同遺跡群の運営・管理を請け負っているアプサラ機構の担当者は、現地報道機関からのインタビューにおいて、訪問者数が伸び悩んだ理由として、欧州からの訪問者が減ったことに加えて、ミャンマーの観光地としての注目度が高まっていることを挙げている。


ミャンマーとの比較という視点は、日系企業がASEANへの進出を検討する際にもよく取り上げられる。人口や教育水準(識字率(※4))などの点で比較的優位性のあるミャンマー、タイ・ベトナムに挟まれた好立地や、外資規制がほとんどなく、事業投資環境が比較的整備されている点で優位なカンボジアと評されることが多い。


日本からこの二ヵ国を比較して異なる点のひとつが定期直行便の有無であった。日本-ミャンマー間の定期直行便は2012年10月に就航し、翌年以降毎日運航している。図2に示すように、直行便就航後のミャンマーへの日本人訪問者数は急増し、高い伸びを維持。さらに、両国の日本商工会の会員数についても、2012年時点ではカンボジアの方が多かったものの、2015年時点ではミャンマーが逆転する状況(※5)となっている。

カンボジアとミャンマーへの日本人訪問者数の推移(2008年=100)

カンボジア政府は、外国人観光客および外資系企業の誘致に注力し、国内産業の振興を図り、経済成長の実現に取り組んでいる。


観光産業については、“Green Gold”のテーマの下、2020年までに外国人来訪者数750万人、同産業への従事者数80万人などの数値目標を掲げ、観光産業の一層の振興に取り組んでいる(※6)。具体的な施策としては、既存の観光資源周辺のインフラ整備や観光産業の人材育成に加え、リピーター獲得のためにアンコール遺跡群以外の観光資源(ケップやシハヌークビルのビーチリゾート(※7))のPRも積極的に実施するとされている。


投資環境面では、道路整備などの国内物流インフラの改善、投資法の改正に加えて、日本カンボジア官民合同会議を通じ、カンボジア政府が進出日系企業の意見を取り入れて投資環境の改善につなげる取組みがなされている。


定期直行便就航により、日本にとって「ASEANの近い国」となるカンボジアへの来訪者が多くなり、カンボジアと日本が観光・ビジネスの双方においてますますWin-Winの関係を築いていくことを期待したい。


(※1)詳細は大和総研 アジアンインサイト「東南アジアの遠い国、近い国」(2014年5月15日)を参照。
(※2)世界最大の旅行口コミサイトTripAdvisor®(日本語版サイト)に投稿された日本語の口コミでの評価をもとに「行ってよかった海外観光スポット」に2013年まで3年連続でアンコールワットを代表とする「アンコール遺跡群」が1位に選出された。
(※3)2015年来訪者数210万人、2014年同205万人(アプサラ機構インタビュー記事より)
(※4)識字率 カンボジア:87.1%(2009年)、ミャンマー:96.1%(2013年)(UNESCO Institute for Statisticsより)
(※5)商工会会員数(カンボジア:2012年91社・2015年162社、ミャンマー:2012年83社・2015年250社)
(※6)“TOURISM DEVELOPMENT STRATEGIC PLAN 2012-2020”
(※7)当地域の海岸の砂浜には“鳴砂”が広がる。

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