ASEAN・インドの小売業の規制比較

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本年1月掲載のアジアンインサイト「消費市場としての魅力が高まるアジア新興国 ~都市と国平均との消費パターンの違い~」では、①アジア新興国(ASEAN諸国、中国、インド)の所得水準が上昇するに従って、当該地域の「消費市場」としての魅力が高まってきていること、②一方、国平均でみた所得水準と、都市に限定した所得水準とでは1.5~3.0倍程度と大きな格差があること、③所得水準の違いから、各国とも都市部の消費パターンも一国単位のそれとは異なっていること、を紹介した。


伸びゆくアジア新興国の消費市場の中でも、都市部をターゲットとした事業展開が有望であることになるが、実際に小売店を展開しようと思っても、各国毎に規制が異なることから、企業が望む出店戦略を実行することは難しい。そこで、今回はアジア新興国の中から、ASEAN諸国とインドでの小売市場の規制の動向に触れる。


日系の消費財メーカーや小売企業に、新興国市場に共通する消費市場の特徴について伺ってみたところ、1人あたりGDPが1,000ドルを超えると近代的小売市場(モダントレード)が、同3,000ドルから5,000ドルの範囲にくると乗用車の普及が加速期を迎える傾向にあるようである。


IMF統計に拠ると、2014年にはインドネシア(3,534ドル)、フィリピン(2,865ドル)、ベトナム(2,053ドル)、ラオス(1,693ドル)、インド(1,627ドル)、ミャンマー(1,221ドル)、カンボジア(1,081ドル)が、これらに該当している。これらの国々では、スーパーマーケット業態による伝統的な小売市場(トラディショナルトレード)からのシェア奪取や、郊外型ハイパーマーケットの出店による購買頻度や生活スタイルの変化など、消費に係る環境が大きく変わろうとしている。中でも、足下、モダントレード比率が低く、食品小売市場の規模が大きいインド、インドネシア、ベトナムの3ヵ国では、今後の5年間でみた市場成長率も他国に比べて総じて高いと見込まれている(図表1)。

食品小売市場規模とモダントレードの比率・成長率
ASEAN主要国とインドの小売業に係る規制の比較

しかし、一方で、これらの国々では、外国企業に対する出資規制や出店や商品調達に係る規制を設け、既存の国内零細小売店への影響を抑え、保護を図る傾向にある(図表2)。


インドネシアでは、店舗サイズが小さく、零細小売店と競合しやすいコンビニエンスストアでは、外国企業の出資は認められていない。また、直営店舗数は150店までで、それ以上となる場合は地場中小企業によるFC形式で出店が認められること、モダンストアは取扱商品の8割以上を国産品とすること、PB商品は売上全体の15%以下とすること等、外国の小売企業に対する制約は多い。


インドでは、形式上は政府の承認が得られれば、食品小売等のように複数ブランドを取り扱う業態で51%まで外国企業の出資は認められる。しかし、現在の政権下では小売セクターでの国内企業保護を進めているために、外国企業の進出は極めて困難となっている。


ベトナムでは、Economic Needs Test(ENT)と呼ばれる規定がある。これは、小売店を営む外国企業に対し、2番目の店舗から進出する地域の人民委員会の許可が必要とされるものである。


これらの国以外では、タイとフィリピンでは資本金と1店舗あたりの最低投資金額に係る規定があり、特に1店舗あたりの最低投資金額(タイ:約7,000万円、フィリピン:約1億円)が、コンビニエンスストアなどのような小型店の店舗展開を難しくさせている。尚、当該基準をクリアできなかった場合、タイでは外国企業が少数株主として出資することは可能だが、フィリピンでは外国企業による出資自体が認められていない。


ASEAN諸国やインドの小売市場は、今後も高い成長が続くと期待されるが、足下ではシンガポールを除き、外国企業に対する小売市場進出のハードルは高い。傾向としては、所得水準が高い国ほど、規制を緩和する傾向にはあるものの、1人あたりGDPが1,000ドルから5,000ドルの範囲にある国では、政策的に国内企業を保護する姿勢は当面続くものと思われる。このため、企業にとっては、各国(主要都市)の消費者の購買力、特性、規制動向を比較し、進出する市場の優先度を検討することが望ましい。

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