インドは中国に次ぐ世界第2位の人口(約12億人)を抱え、潜在的な巨大消費市場として大きな期待を集めている。だが、内需獲得を目指す外資小売企業の参入は、厳しい外資規制のため限定的である。今回は、同国小売市場の現状と参入障壁について紹介したい。


まず、同国小売市場の規模は10年前の2004年時点では約8兆ルピー(約15兆円)であったが、年率12.8%のペースで急拡大し2014年には日本の半分程度の約28兆ルピー(約53兆円)に達した(出所:Euromonitor)。これは同国の人口規模を考えるとまだ小さく、今後の経済成長に伴い市場のさらなる拡大が見込まれている。


小売店舗数は全国に1,400万超あるとされるが、このうち大部分を占めるのは家族経営の商店(伝統小売、写真左)である。これらは、日用品などのデリバリーやツケ払いなどのサービスを提供しており、庶民の生活にしっかりと根付いている。一方、首都ニューデリーや商業都市ムンバイなどの都市部においては、数はまだ少ないものの、ショッピングモールやハイパーマーケット等の近代小売店が台頭し(写真右)、富裕層や中間層の生活へ徐々に浸透しつつある。


インドの小売市場全体は拡大傾向にあるものの、都市部においても伝統小売から近代小売への構造的なシフトが進むにはまだ時間がかかると思われる。これには、地域の商店が利便性が高く生活に根付いていることに加え、都市部であってもまだまだ購買力が乏しい者が多いこと、後述する外資規制や未整備なインフラなどが挙げられる。


近代小売事業を手掛けるのは、FutureグループやRelianceグループなどの地場の財閥系企業である。これらの企業は、近代小売においては高いシェアを占めている(※1)。しかし、近代小売の市場規模自体が小さくスケールメリットが享受できず、一方で、高い不動産コストや非効率な運営(過剰な店員数等)などのため、低収益性に苦戦している。近年は、ネット通販市場の拡大を見込み、実店舗型小売大手の同事業への参入や強化の動きが目立っている(※2)


一方、外資小売企業に関しては、自社商品のみを販売する単一ブランド小売では米ナイキなど複数が認可を受け開業しているものの(※3)、スーパーなど総合小売業への参入は、厳しい外資規制のためほとんど事例がない(※4)。現与党のインド人民党(BJP)は地場の零細小売店を保護するため総合小売の外資開放に反対の立場をとっており、現行の外国直接投資(FDI)政策において参入の可能性があるように見えても、実際には認可が下りない可能性がある(※5)。また、仮に政府の認可が下りたとしても、その後進出先の州でも認可が必要となるため、BJPが地方議会で強い影響力を有している州では認可が下りない可能性がある点にも留意が必要である。


インフラ面については、特に流通、物流、税制における課題が挙げられる。例えば、インドは国土が広く、多くの中間業者を介すため流通は非効率であり、未整備な物流インフラにより生鮮品等の多くが流通過程で廃棄されている。また、州を越えて商品を販売する際に州またぎ税(間接税の一種)が課税されるなど、煩雑な税制も課題となっている(※6)


このように、インドは巨大市場としてのポテンシャルは高いものの、外資規制や乏しい購買力、流通インフラの未整備などの課題があり、近代小売の拡大にはまだ一定の時間がかかるものと思われる。

伝統的な個人商店(ムンバイ)と近代的なショッピングモール(ニューデリー)

(※1)近代小売に占める売上高シェア(2014年)は、最大手Futureグループのハイパーマーケット「ビッグバザール」が32.1%、2位のRelianceグループのスーパーマーケット/ハイパーマーケット「リライアンス」が16.1%と高く、2ブランドで5割弱を占める。
(※2)例えばFutureグループは、米アマゾンと提携してインドのネット通販へ参入する模様。
(※3)単一ブランド小売業は、外資100%での出資が可能。外資49%超で政府の個別承認が必要、49%以下は自動認可。外資51%超では、30%の現地調達比率が求められる。
(※4)英国小売大手のテスコが前政権時に承認を得ているものの、店舗開設には至っていない。
(※5)現行の外国直接投資(FDI)政策によると、総合小売業は、中央政府の個別認可(及び州政府の認可)を受ければ外資51%を上限に進出可能。認可条件は、最低投資額1億ドル、3年以内に投資額の50%以上を倉庫などバックエンド関連に投資、商品の30%は国内小規模企業から調達、人口100万人以上の都市等に出店するなど厳しい内容となっている。
(※6)2016年4月より統一的な間接税(GST)が導入される予定。

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