アジアンインサイト
東南アジアと南アジアをつなぐBIMSTEC

2015年2月26日

  • アジア事業開発グループ アソシエイト 後藤 圭佑

昨今、2015年末までに発足するとされるASEAN経済共同体(AEC)への注目度が高まっている。他方で、東南アジアと南アジアにまたがる「BIMSTEC」については、まだあまり知られていないようだ。本稿では、経済成長が続く東南アジアと南アジアを結ぶ架け橋として発展し得るBIMSTECの枠組について概要を紹介したい。

BIMSTECの正式名称は、「ベンガル湾多分野技術経済協力イニシアティブ(Bay of Bengal Initiative for Multi-Sectoral Technical and Economic Cooperation)」である。2015年現在の加盟国は、インド・バングラデシュ・スリランカ・ネパール・ブータン・タイ・ミャンマーの7ヵ国である。南アジアの5ヵ国、東南アジアの2ヵ国によって構成され、両地域を横断する主要な枠組となっている。

BIMSTEC構成国

BIMSTECという呼び名は、元々は加盟国の名称に由来している。BIMSTECの前身となったのは、バングラデシュ・インド・スリランカ・タイの4ヵ国によって1997年に設立された経済協力枠組のBIST-EC(Bangladesh, India, Sri Lanka, Thailand – Economic Cooperation)であり、同年12月にミャンマーが加盟したことで、同国の頭文字を加えて BIMST-ECと称されることになった。

その後、2003年にネパールとブータンが新たに加盟し、翌2004年に開催された第1回サミットにおいて、略称の読み方はそのままに「ベンガル湾多分野技術経済協力イニシアティブ」(Bay of Bengal Initiative for Multi-Sectoral Technical and Economic Cooperation:BIMSTEC)へと名称変更が行われた。

BIMSTECでは14分野において協力することになっている。下記図表2に示す通り、分野ごとに協力を主導する国が定められている。

BIMSTEC協力分野

日本でのBIMSTECへの注目度は高いとはいえないのが現状だが、この枠組の経済規模はASEANを上回る水準にある。IMFのデータによれば、2013年時点でASEAN10ヵ国のGDPは合計2兆4,104億ドルであったが、BIMSTECの7ヵ国は合計2兆5,705億ドルであった。特筆すべきは人口大国のインド・バングラデシュを擁していることだ。ASEANの人口が2013年末で6億1,195万人であるのに対し、BIMSTECはその2.5倍を超える15億6,851万人に上っている。

この巨大な地域の経済協力上、重要となるのが自由貿易協定(FTA)の締結である。BIMSTECにおいては、2004年の段階でFTAの枠組協定(Framework Agreement)が署名されており、既にWTOへの届け出も行われている。以来、なかなか交渉が進展してこなかった経緯があるものの、今日改めて注目すべき理由として下記の2点を挙げたい。

第一に、2014年にミャンマーで行われた第3回サミットの開催と、同年9月の常設事務局開設を経て、改めて経済連携への機運が高まっていることだ。サミットでは常設事務局設立に関する基本定款(Memorandum of Association)が署名され、続いて同年9月にはバングラデシュのハシナ首相出席の下、ダッカにて常設事務局開設式が執り行われた。事務局長に就任したスリランカ出身のSumith Nakandala氏は南アジア地域協力連合(SAARC)に関する知見も深く、BIMSTECにおいては実務・結果志向で統合促進を図る人物と目されている。

貿易・投資分野連携の主導国であるバングラデシュ政府も積極的な姿勢を示している。2015年1月には、BIMSTEC事務局長出席の下で“Bangladesh and BIMSTEC:Way Forward”と題する初のセミナーが開催された。このセミナーでは、同国外務大臣より2015年央に第6回BIMSTEC商務大臣会合を主催する旨と、同年中にFTAの最終化を目指したい旨が伝えられた。希望通りの進展となるかは予断を許さないものの、交渉の機運が高まっていることは確かといえよう。

第二に、南アジアにおける経済連携が印パの政治的緊張を中心に停滞気味であることから、インド政府がBIMSTECに対する関心を強めつつあるという観測が出ている点だ。南アジアではSAARCという枠組の下で以前から経済連携が図られてきた。3年ぶりの開催となった2014年11月のSAARCサミットでは、会期中にカシミール地方で銃撃戦が発生した影響もあって議論が難航し、署名が予測されていた道路・鉄道・電力の連結性強化に係る3つの協定文書のうち、2つがパキスタン政府の署名を得られないままに終わった。このような状況下、インドのモディ首相から「連帯はSAARCを通じて、もしくはそれ以外の形で、全部の国あるいは一部の国の間で深まっていくだろう。」という発言があった。これは、SAARC以外の枠組による地域連携深化の可能性も示唆した表現として受け止められている(※1)

今後、BIMSTEC枠組の連携強化においては、日本政府が一定の役割を果たす可能性も考えられる。BIMSTEC設立を主導してきた元駐タイ・インド大使のGupta氏は、現地シンクタンクによるインタビューの中で、インド・タイ・ミャンマーなどと緊密な二国間関係を有する日本政府をBIMSTECの全面対話パートナー(Full Dialogue Partner)として招請し、経済連携やインフラプロジェクトにおける協力を図っていくことを提唱している(※2)

ベンガル湾地域は、中国政府による「真珠の首飾り(※3)」戦略に基づく海洋進出も目立つ中、日本政府にとっても政策上の重点地域となることが予測されている。昨年にはバングラデシュに対する総額6,000億円の円借款供与が合意されたが、今後もこの地域に対して更なる働きかけが行われる可能性はあるだろう。

BIMSTECにおけるFTAは依然として交渉段階にあり、今後合意に至った場合でも、条約締結から発効、一般品目の関税撤廃が達成されるまでには10年単位の時間を要する可能性が高い。バングラデシュでのヒアリングにおいても、同枠組から事業上のメリットを享受できるようになるには10~20年を要するのではとの見方が大勢であった。

一方で、長年かけて進んできたASEAN統合が日系企業の事業展開に影響を与えているように、BIMSTECの枠組も東南アジアと南アジアの大市場をつなぐ架け橋として重要になる潜在性を秘めている。ASEAN統合ほど世間の注目を浴びていない現在だからこそ、継続的に動向を確認していくことは有意義と考える。

(※1)関連記事:BIMSTEC a better regional cooperation option than SAARC?
India News and Features Alliance (INFA) - Regional Integration: BIMSTEC IS THE WAY, By Ashok B Sharma, 7 JAN, 2015
Pakistan blocks Saarc deals; PM Modi says things will still get doneなど
(※2)SR163-Interview-BIMSTEC
(※3)中国政府による、インド洋における海上交通路戦略のこと。交通路上の要所要所に設けている拠点の様子から名づけられている。

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