中国深圳市での自動車の台数制限、新車の年間登録台数を前年の五分の一に

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2014年12月29日(月)午後、中国深圳市で小型車(関係法令によりさまざまな定義があるが、ここでは「7人乗り以下」と解釈するのが適当)の購入制限条例が発表され同日午後6時から発効した。内容は2015年から深圳市において小型車の登録を前年の年間55万台から一気に10万台に制限するというものであり、具体的には新規登録における自動車のナンバープレートの発給を年間10万枚に制限するというものだ。年間10万枚の発給枚数のうち2万枚は新エネルギー車(※1)(純電動車、プラグインハイブリッド車及び燃料電池車)に割り当てられ事実上無抽選で交付(※2)、残りの8万枚は従来型自動車(燃料燃焼型エンジン車)に割り当てられ半分は抽選、半分は入札により交付される。同日午後6時以降、小型車の登録、移転変更業務は暫定的に停止され停止期間は25日間を超えないものとする、というものである。


現地の新聞報道によれば、当局による車両購入制限条例の発表後、午後6時の発効までの間に多くの客が自動車ディーラーへ殺到し、購入制限の発効前になんとかナンバーを確保しようとしたとのことである。また、午後6時以降には警察の厳重な警備の下、市内の多くの自動車ディーラーは税務当局により契約書類の発行が禁止された。しかし一夜明けた後は、多くの自動車販売会社の店舗が営業休止となり、内部で今後の対応を協議していたとのこと。購入制限が発効したとはいうものの、自動車購入契約書の日付を少し前に遡及させ、かつ公証してもらうことで在庫車に関してならナンバープレートの確保が可能となる、といった抜け穴の存在も紹介されている。


深圳市の地元民からは、この自動車購入制限条例の発表はあまりにも唐突であり、事前に告知しなかったのは行政の怠慢ではないのか、という意見が出されたが、これに対する公安当局の公式コメントは以下のものであった。


交通インフラの整備促進に努力してきたが小型自動車の急速な台数増加には対応しきれず、深刻な交通渋滞が引き起こされてきた。経済的手段で対応すべく苦心したものの解決できなかったので、やむを得ず増加台数の制限を実施するに至った。この問題は非常に敏感でその影響の範囲や程度も大きく、事前に発表していたならば集中的な車両購入や車両台数の増加により一層の交通渋滞や社会的不安をもたらし台数抑制効果も台無しになっていた可能性がある。この措置を事前告知なしに発効させたのは、増加台数の抑制と交通渋滞の悪化を防ぐために他の都市の経験と知恵を借りながら利害得失を慎重に考慮した結果であり、負の影響を最小限に抑えたものである。


当局発表は交通渋滞緩和のみだが、本政策は新エネルギー車へのナンバープレート優先割り当てを行うことによって、新エネルギー車普及を図る産業政策の側面もある。中国は産業政策、省エネ推進、環境汚染対策の3つの観点から、新エネルギー車の普及を推進している。普及推進モデル都市として現在88都市(※3)が指定され、関連政策としては「省エネルギー新エネルギー車産業発展計画」(※4)や「新エネルギー車の普及実用促進に関する指導意見」(※5)が中央政府から発表されている。


中国の自動車増加の抑制策として新規車両の登録に伴うナンバープレートの交付を制限する方法が採用されている。交付制限を行っている都市は、北京、上海、広州、貴陽、天津、杭州であるがこれに今回新たに深圳が加わった(※6)。交付制限のやり方には、抽選制、入札制、両者の併用制と3種類ある。北京では抽選制、上海では入札制、天津では抽選と入札の併用制である。深圳は抽選と入札の併用制をとることになった。


一方で新エネルギー車の購入に関しては、国や地方が補助金や優遇策を提供している。国からは、国の認定リストに登録されている車種であれば一定の補助金(※7)が出される。国の補助金に加えて地方としての補助金も出すとしている地方が多い(※8)。また車両購入税は2014年9月1日から2017年末までは免除される。今売れ筋のBYD社製のプラグインハイブリッド車「秦」を例にとると、深圳では希望販売価格21万元に対して、国と地方政府から合わせて6.65万元の補助金を受け取れるので、補助金受取後の実際価格は14.3万元である。補助金の割合は約3割で、一元は約20円であるから補助金の金額は130万円程度である。


中国政府の新エネルギー自動車の普及促進に関する意気込みには強烈なものがあると感じる。素早い意思決定と有無を言わさぬ政策動員力は中国の開発独裁の特徴を活かしたものだ。技術面で必ずしもナンバーワンではないにしても、膨大な国内市場で新エネルギー自動車を大量販売して使用すれば、環境負荷の低減効果も大きい。中国の汚染物質は風に乗って日本に到来する。中国の新エネルギー車の普及による環境汚染対策がしっかりと機能することを望みたい。


(※1)中国の新エネルギー車の定義は純電動車、プラグインハイブリッド車(レンジエクステンダー型を含む)、燃料電池車である。単なるハイブリッド車は省エネルギー車として定義される。
(※2)文面では抽選となっているが、現状では普及台数が少ないので事実上無抽選である。
(※3)2009年、2013年に選定。
(※4)2012年発表。
(※5)2014年7月発表。
(※6)制限方法は都市によりそれぞれ異なる。何らかの制限を附している都市を挙げた。
(※7)2013年9月発表の財政部、科学技術部、工業信息部、発展改革委員会による連名の「新エネルギー車の普及応用活動を継続展開することに関する通知」
(※8)国と同額の補助金を出す地方政府は北京、天津、広州、深圳等である。上海は車種により固定額支給。

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