「假日弁」の解散を機に中国式休暇が転機を迎えられるのか

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中国式休暇といえば、家族連れでゴールデンウィーク(春節(旧正月)を含む1週間の連休と、国慶節(10月1日)を含む1週間の連休の年2回)を利用し旅行を楽しむことがすぐ頭に浮かぶ。大勢の人々がゴールデンウィークに集中して外出するため、列車を初めとする公共交通機関のチケット購入難、観光地行き高速道路の渋滞、観光地に殺到した黒山のような人だかり、などがテレビでもよく報道されている。


こうした中、ゴールデンウィークを含む中国の祝休日関連の業務を担当してきた全国假日旅游部際協調会議弁公室(以下、假日弁)(※1)が、去る9月15日をもって解散し、その業務が、全国の旅行業務全体をカバーする、新設の国務院旅游工作部際聯席会議制度(※2)に移譲された。これをきっかけに、ゴールデンウィーク制度の見直しが取りざたされるようになってきた。


以下では、ゴールデンウィークが今後廃止される可能性、また、有給休暇が実質的に消化される可能性を中心に、中国式休暇がこれを機に転機を迎えられるかについて検討してみたい。


中国の休暇は主に土日、法定祝休日と有給休暇(※3)の3つの部分から構成される。2000年に誕生した「假日弁」は土日との振替を活用して、最短でも7連休、最長で9連休もあるゴールデンウィークを創出してくれた。中国ではこのような大型連休が少ないため、これを利用して国内または海外旅行に出かける人が多く、ゴールデンウィークは、中国の旅行産業に大きく貢献してきた。下図に示すように、ゴールデンウィーク期間の国内旅行における消費金額は、増加の一途をたどり、2014年には3,720億元(約7兆円)に達したと推定される。

中国のゴールデンウィークにおける国内旅行者数及び消費金額の推移

1つのゴールデンウィークが終わると、次のゴールデンウィークの計画を立て始める人も多く、ゴールデンウィークは既に人々の中で根付いているとも言える。政府がゴールデンウィークをやめてしまうと、社会の不満を招くだけでなく、旅行産業も影響を受けてしまう可能性が高い。従って、ゴールデンウィークはこれからも長い間存続すると考えるのが妥当だろう。


一方、中国のゴールデンウィークには次のような問題もある。冒頭に書いたように、ゴールデンウィークに大量の旅行者が集中するため、旅行の質の低下が著しい。加えて、ゴールデンウィークは、土日を出勤日に振り替えることによって、長期の休暇期間を捻出しているため、ゴールデンウィークの前後にある週末に1~2日間出勤しなければならない。2011年の国慶節連休後には、7日間連続で出勤日となる事態が発生した(※4)


昨年10月に「假日弁」が実施した、法定祝休日に関するアンケート調査によると、週末との振替で大型連休にする方法について、80%以上の人が満足していないと回答した。一方、国慶節の7連休を廃止することに賛成するかという質問については、賛成者の割合は50%程度に留まった。大型連休の制度に対して多くの人が不満を持っているものの、連休は維持してほしい、という人も少なくないようだ。


このようなアンケート結果の背景には、有給休暇の消化が進んでいないことがある。人民網の情報によると、半分以上の従業員が、年次有給休暇を享受できていない。当該休暇の権利がそもそも勤務先に無視されている、権利はあるが仕事が忙しく休暇が取れない、解雇されることを恐れて休暇を取らない、などがその主な理由である。


このため、ゴールデンウィークが唯一、家族が揃って旅行できる機会となっており、旅行の質が下がっても、ゴールデンウィーク前後に長期出勤を余儀なくされても、家族揃っての旅行であるから我慢している家庭が多いのだろう。


2013年2月に発表された『国民旅行レジャー綱要(2013-2020)年』(以下、綱要)、及び2014年7月に開催された旅行産業の発展を促進するための国務院常務会議では、有給休暇について再三言及され、有給休暇制度が確実に実施されることを地方政府の重要な役割とした。綱要では、2020年までに有給休暇制度を一般的に定着させる、という具体的な期限目標も設けた。


政府はゴールデンウィークをめぐる社会の不満を理解する一方、ゴールデンウィークだけで中国の旅行産業が持続的に発展するのが難しいことも認識している。祝休日関連業務だけを担当する「假日弁」を解散し、祝休日の旅行問題だけでなく、その他の問題を解決するための機関としての「国務院旅游工作部際聯席会議制度」を新設したのも、旅行産業を戦略的に発展させるためである。


政府の後押しにより、有給休暇の消化が進み、ゴールデンウィークのみならず、法定祝休日と有給休暇を合わせた自主的な大型連休が実現することを期待したい。


(※1)全国祝休日旅行部門間調整管理事務室(日本語訳)
(※2)国務院旅行業務部門間合同会議制度(日本語訳)
(※3)有給休暇は、1995年版の『中華人民共和国労働法』に法定制度として盛りこまれたが、国務院が行政法規である『従業員年次有給休暇条例』(以下、条例)を公布したのは8年後の2007年の12月で、同条例が実施されたのは2008年1月1日のことだった。その後、人力資源・労働保障部が同年9月18日に『条例』を実施するための部門規章である『企業従業員年次有給休暇実施弁法』を公布し、同日を同弁法の実施日とした。勤続年数が満1年以上の従業員は法令により年次有給休暇の権利が与えられている。
(※4)小型連休を含む連休前後の史上最長の出勤週は、2013年元旦連休後の8日間出勤であった。

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