アジアンインサイト
フィリピンの小売事情

2014年9月11日

  • アジア事業開発グループ コンサルタント 依田 宏樹

フィリピンでは近年、旺盛な個人消費が牽引する経済成長が続いている。2014年7月に推計人口が1億人を突破した同国は、その1割強を擁するマニラ首都圏を中心に、消費市場として注目を浴びつつある。本コラムでは、消費の舞台となる小売の現状と課題について紹介したい。

英調査会社Euromonitorによると、2013年時点でフィリピンには約91万店の小売店舗がある。市場規模(小売売上高)は約691億ドル(約7.1兆円)で、直近10年間では年率+8%のペースで増加してきた(※1)。店舗数の大部分を占めるのは、全国各地に約79万店あるサリサリストアなどの伝統的小売店である。サリサリストアは、食料品から日用雑貨まで幅広い商品を取り扱う個人経営の小規模店であり、一種のコンビニエンスストアといえる。商品は量り売りやバラ売りされるのが一般的で、庶民の生活に溶け込んでいる。

一方で、近年成長著しいのが、スーパーマーケットやショッピングモールなどの近代小売である。近代小売の店舗数はまだ約3,000店と少ないものの、売上高は直近10年間で年率+13%と2桁成長をしており、モダントレード比率(食品小売において近代小売の占める比率)は2003年の18%から2013年の27%へと大きく上昇した。

フィリピンにおける近代小売市場のプレイヤーは、地場の財閥系企業が中心となっている。売上高のシェアトップは華僑系のシー財閥企業SM Retail(2013年の売上高43.8億ドル)であり、大衆デパートのSMストアやSMスーパーマーケット等を全国主要都市で展開している。また売上高第3位である華僑系のゴコンウェイ財閥のRobinsons Retailグループは、Robinsons スーパーマーケットやRobinsonsコンビニエンスストア(ミニストップ)等を、第5位のRustanグループは高級デパートRustan’s等を展開している(※2)

日系企業としては、近年では2014年にローソンが売上高第4位のPuregold Price Clubとの合弁で参入、2013年にはファミリーマートが伊藤忠商事とともに地場企業SIAL社(スペイン系財閥AyalaグループとRustanグループとの合弁)との合弁で参入している(図表)。しかし、日系を含めた外資小売業の進出は現状では非常に限定的であり、単独進出の例は見当たらない。参入の最大のボトルネックとしては、地場の零細小売企業を保護するための市場参入規制が挙げられる。

具体的には、2000年に小売自由化法が施行され、払込資本金が250万ドル以上、一店当たり投資額が83万ドル以上など一定の条件を満たせば、外資100%での出資が可能になった。しかし、特に小規模企業にとっては厳しい条件であり、実質的には参入規制ともいえる(※3)。なお、販売品目や営業時間に係る規制等は特に定められていないようである。

規制面以外では、財閥系企業が小売のノウハウと強い影響力を持ち、集客効果が期待できる条件の良い土地を押さえていることが、単独進出で事業を成功させるハードルを高くしている。また参入後の課題としては、役所での手続き関連(許認可手続きが予定通り進まないこと、賄賂の発生など)、インフラ関連(マニラ首都圏における渋滞による配送の遅延、高い電気代や国内輸送費など)、現地特有の習慣(消費行動、食習慣など)の把握などがある。

このようなことから、進出に際しては、地場の有力な財閥系企業との提携が現実的な選択肢となろう。提携することで、①各種許認可取得に必要な規制当局とのやりとりをスムーズに進めやすい、②知名度の高い提携企業との提携で信用力が向上し、取引が円滑に進めやすい、③提携企業の不動産に関する情報を共有でき、条件の良い出店が可能になる、④日本人には馴染みの薄い現地の嗜好や消費行動などの蓄積された知見を共有できる、といったメリットが享受できる。

消費市場としての魅力が徐々に高まる中、有力な地場財閥系企業と提携することで上述のような種々の課題を克服できれば、日本小売企業がフィリピン市場でプレゼンスを高めるチャンスがあるのではないだろうか。

図表 フィリピンへの日系小売企業の参入事例

(※1)ネット販売など非店舗型販売は全体の数%程度であり、ここでは店舗型の小売に限定する。
(※2)売上高第2位は、ドラッグストアチェーンを展開するMercury Drug Corp.(2013年売上高は21.1億ドル)。
(※3)100%外資の参入が認められる条件は、①最低資本金250万ドル以上を出資し、かつ1店舗当たりの投資金額が83万ドル以上、もしくは、②ハイエンドや高級品に特化した業態では、最低資本金が25万ドル以上。さらに①と②に加えて、親会社は、以下の4つの全てを満たす必要がある。(1)親会社の純資産が、①の場合は2億ドル以上、②の場合は5,000万ドル以上、(2)世界で5件以上の店舗展開もしくはフランチャイズ展開し、かつそのうち1店は投資金額が2,500万ドル以上であること、(3)小売業で5年以上の実績があること、(4)フィリピンの小売企業の参入を認めている国の国民もしくは同国で設立された法人であること(出所:小売自由化法/共和国法第8762号)。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。

お気に入りへ登録

この記事を「お気に入りレポート」に登録しておくことができます。

このレポートのURLを転送する

  • @

お問い合わせ

PDFファイルの閲覧にはAdobe® Reader®新しいウィンドウで開きますが必要となります。お持ちでない方は、アドビ システムズのウェブサイトから無償ダウンロードができます。
なお、Adobe® Reader®のインストール方法は、アドビ システムズ ウェブサイト新しいウィンドウで開きますをご覧ください。

Get Adobe® Reader®

コンサルティング

コンサルタント

セミナー