アジアンインサイト
JICAによるODAを活用した中小企業の海外展開支援策

2014年7月24日

  • アジア事業開発グループ シニアコンサルタント 寺谷 宣夫

いろいろある支援策

日本には様々な中小企業支援策が存在する。ざっとみただけでも、経済産業省、中小企業庁、農水省、厚生労働省、国土交通省、外務省、地方自治体などがそれぞれ支援策を用意している。ここでは中小企業の海外展開に関する支援事業を行っている独立行政法人国際協力機構(JICA)に焦点をあてて「ODAを活用した中小企業の海外展開支援事業」を紹介したい。紙面の都合上「案件化調査」と「普及実証事業」の2つに絞って説明する。適用に当たってのハードルは高い制度ではあるものの、自社のビジネス領域がうまく適合するのであれば、経済面での支援を得られるだけでなく、日本国政府のお墨付きを得られるのであるからぜひ活用すべきである。

支援策適用への必要条件

この支援策の適用に当たっての必要条件は①中小企業であること、②海外展開の意欲があること、③ODA化に適合することの3つがある。この3つの必要条件が重なりあう領域に自社の事業活動領域が入っていれば、本制度活用の可能性がある。ちょうど各条件に対応する○を三つ描いて、その三つの○が重なり合う領域である。

3つの条件を見てみよう。第一の条件は「中小企業であること」である。これは中小企業基本法第二条に基づいて、その企業が中小企業かどうかを判断する。業種別に資本金と従業員数で4つに区分されている。(※1)ただし「みなし大企業」は要件の充足外となるので注意が必要である。(※2)

第二の条件は「具体的な海外展開の意欲があること」である。支援事業の対象が中小企業の海外展開であることから、漠然とした海外展開を行う意欲では不十分で、どの国にどのような形で進出したいのか具体性が求められる。

第三の条件は「ODA化に適合すること」である。ODA化に適合するとは、我が国のODAの方針に沿って将来のODAの案件候補になり得ることであり、中小企業の持つ製品や技術を活用して途上国が直面する開発課題の解決に貢献できること、と解される。

これらの3つの条件を同時に満たすような領域に企業が事業展開計画を持っているのであれば、本支援事業の対象になりうるので利用を検討してみては如何だろうか?

3つある留意点

留意点1 補助金ではない
この支援策は単なる補助金ではなく、国から民間企業に対する事業支援である。この支援策の説明書の事業委託金額を見て、この金額が自社に「補助金として払い込まれるもの」と誤信している企業経営者が少なくない。補助金は企業に一定の裁量権が与えられるが、本支援事業においては、採択された中小企業は国への厳格な定期的な報告義務と会計に関する管理義務が課される。多くの中小企業では社長が営業に飛び回っていて事務管理に十分なマンパワーを割けない状態であることからその事務負担は少なくないと思われるが、国から支援を受けるのであるから厳しい義務が課されるのもやむを得ない。

留意点2 ODA化に適合することの解釈
本事業はODA予算から拠出されるので、外務省、JICAが考えるODAの土俵、枠組みに沿っていることが求められる。

ODA化に適合するかどうかの判定にあたっては、対象となる途上国の開発課題を把握したうえで、その課題解決に関する貢献度合いが高いことが求められる。さらに企業の貢献度合いが高いとしても、その解決されるべき開発課題が途上国側からみて優先度が高いものとして位置づけられていることが重要である。これらの点がクリアーされなければODA化に適合すると言うことは難しい。

ここで簡単にODAについて整理しておこう。ODAとは政府開発援助(Official Development Assistance)のことであり政府が開発途上国に行う資金や技術の協力をいう。二国間援助と国際機関への資金拠出を通じて行われる多国間援助の二種類があるが、本件は二国間援助に該当する。二国間援助においては、無償資金協力、技術協力、有償資金協力の3種類があり、これらの実施機関が国際協力機構(JICA)である。

我が国のODA予算(※3)は2014年度では一般会計5502億円、うち外務省のODA予算は4230億円となっている。

2010年にはODAのあり方の見直しが行われ(※4)、ODAの効率化と戦略性の具備、効果的・戦略的な援助の取り組みを実現するための援助の方向性の明確化が求められた。(※5)(※6)

現在、政府は2003年8月に閣議決定された現在のODA大綱を抜本的に見直すこととし、有識者懇談会を設置して議論を行い(※7)、広く国民の声を聞いたうえで2014年中に閣議決定することをめざしている。これは制定後10年間で様々な変化が生じたこと、ODAの更なる積極的、戦略的活用の要請があることによる。

留意点3 中小企業の持つ技術や製品の活用による事業であること
提案される事業が我が国の中小企業の持つ技術、製品の活用によるものかどうかも重要である。そもそも政府の予算を使って中小企業を支援するのが目的の一つであるから、その中小企業の持つ製品や技術が活用されなければ支援するという本来の目的に反するからである。

以上の点を踏まえて、途上国の開発課題の把握と中小企業の製品、技術の活用による開発課題の解決に係る貢献度、また開発課題の途上国における優先順位について十分に分析を行う必要がある。

案件化調査と普及実証事業の2種類ある

案件化調査とは中小企業のもつ技術や製品が途上国の開発へ活用可能か検討することを目的にする調査である。自社の製品や技術が活用されること及び途上国が抱える開発課題が解決されることが条件となる。海外進出計画で比較的初期段階にある企業が当てはまる。予算の上限は3000万円(機材の搬送が必要な場合は5000万円)である。

普及実証事業とは中小企業からの提案に基づき、製品・技術に関する途上国の開発への現地での適合性を高めるための実証活動を通じて、その普及方法を検討することを目的とする事業である。予算の上限は1億円であり、現地へ持ち込む製品や機材はJICAが提案企業から買い取った後に(※8)、事業遂行者である提案企業へ貸与され、事業期間終了後には相手国政府へ贈与される。海外展開計画の内容が煮詰まっている企業にとっては、途上国に製品、機械を持ち込む「普及、実証事業」を試みるのがよいであろう。

案件化調査も普及実証事業も年に二回募集がなされている。公示日以降になるとJICAは問い合わせに対して公平性の観点から個別に回答することが難しくなるので、早めに相談するのが望ましい。

自社の事業計画がODA化に適合する可能性があれば、この制度を上手に活用すべき

本支援制度を活用することで中小企業が得られるメリットはいろいろあるが、その中でも最大のものは、企業の海外展開事業に対する日本政府による後押しである。具体的には途上国での自社製品のデモンストレーション等、広告宣伝活動を日本政府の後押しを受けて実施することができる。広告宣伝活動を行うにあたり日本政府のバックアップを受けることのメリットは計り知れない。

またコンサルタントの活用も国の費用負担で実施することが可能である。資金並びに人的支援を受けることのできる本スキームは、自社の製品を使って途上国の開発課題を解決しようという意欲のある中小企業にとって、利用価値の高いものといえよう。

(※1)製造業では資本金3億円以下または従業員300人以下、卸売業にあっては資本金1億円以下または従業員数100人以下、小売業にあっては資本金5千万円以下又は従業員数50人以下、サービス業にあっては資本金5千万円以下または従業員数100人以下、という基準である。資本金と従業員数についてはどちらか一方が該当すればよいことになっている。
(※2)みなし大企業とは、形式上は中小企業でも意思決定面で大企業の支配下にあるとみなされる企業のことを指し、①発行済株式総数あるいは資本額の過半数を一つの大企業により所有されている企業や、②発行済み株式総数あるいは資本額の三分の二以上を複数の大企業によって所有されている企業、③役員総数の二分の一以上を大企業の役員又は職員が兼ねている企業がみなし大企業に該当し、本支援事業の対象にはならない。
(※3)過去のODA予算のピークは1997年度であり、一般会計で1兆1687億円、うち外務省のODA予算が5851億円であった。
(※4)ODAは開発協力の中核と位置づけられ、重点分野を①貧困削減(MDGs達成への貢献)、②平和への投資、③持続的経済成長の後押しの3点に絞られることになった。
(※5)具体的には援助の選択と集中、戦略的な判断、対象国ごとに援助の方針を明確化した国別援助方針の策定や、プログラムアプローチの強化が行われることになった。
(※6)プログラムアプローチとは、援助対象の決定にあたり、従来は途上国からの要請に基づいて個別の援助実施を検討していたものを見直して、途上国との政策協議に基づいて開発課題解決に向けた開発目標を設定し、具体的援助対象(プロジェクト)を導き出すアプローチ方法のことである。
(※7)2014年6月に外務省有識者懇談会による報告書が外務大臣へ提出された。同報告書では開発協力について①非軍事的手段による平和の希求、②自助努力支援と対話・協働による共創、③人間の安全保障と基本的人権の推進による人間中心のアプローチ、④日本の経験と知見の共有、という4つの基本方針を提言している。
(※8)JICAによる買取は、企業の製造原価或は仕入原価に基づいて行われる。

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