アジアンインサイト
中国の高齢者サービス産業のバリューチェーン

2014年6月9日

  • シニアコンサルタント 陳 志偉

世界最大の消費人口を抱える中国の高齢者サービス市場は、従来、当該分野への投資の少なさ、介護人材の不足、介護そのものに対する社会の認識不足、政策支援の不十分さ等を背景に、発展が遅れているのが現状である。巨大な潜在市場があるにも関わらず、ハード・ソフト両面で供給が需要に追いつかず、高齢者や障害者のニーズに対応しきれていない。このような状況下、外国企業による最適な進出形態について様々な議論があるが、進出にあたっては、まず高齢者サービス産業の全体構造を理解することが必要だろう。

すでに日本企業の中では、リエイが北京で日本式老人ホームを運営、ロングライフが青島で訪問介護事業を展開している。また、ニチイ学館のように福祉用品の販売と介護トレーニングを実施したり、日立システムズのように介護システムを販売する例もあるが、何れも事業は小規模で、かつ模索段階にあるようだ。大半の地元企業も苦戦しており、利益をあげている会社はほとんど見当たらない。中国の高齢者サービス産業は、現段階では、公益性と市場性が併存する一新興産業に留まっているとみなすのが妥当だろう。

高齢者サービス産業も他の業界と同様に、川上産業と川下産業に分かれている。川上産業は、主にインフラ施設、技術、資金、人材という四つの要素からなる。まず、不動産業と高齢者用品産業は高齢者産業の発展に必要不可欠なインフラ施設を提供するほか、医学技術、介護技術及び医学研究等の業界は、高齢者サービス産業に重要な技術サポートを与えている。また、PE(プライベート・エクイティ)・VC(ベンチャー・キャピタル)からの投資、政府補助金、福祉関連歳出等は、高齢者サービス産業に必要な資金を提供しており、当該産業発展の原動力になっている。最後に、家政サービス業、介護職、看護師及びボランティア等は、高齢者サービス業にプロフェッショナルな人的資源を提供しており、当該産業発展の基本条件である。

一方で、川下産業は、養老サービス業、養老レジャー業、養老保険業及び老人社会サービス業という四つの産業に分けることができる。養老サービス業には日常介護サービス業、リハビリサービス業及びターミナルケア業がある。日常介護サービス業は高齢者に衣食住等を提供できる日常サービスで、さらに各種老人ホームと家政サービス業に細分化できる。また、リハビリサービス業は高齢者の日常生活サービスを提供できるほか、障害者のリハビリサービスも提供する。一方、ターミナルケア業は終末期の医療及び看護である。サービスの内容が変わることにより、求められる専門性もより高くなる。

養老レジャー業は高齢者旅行業と高齢者娯楽業を含むが、最近では高齢者の旅行・バケーションがとてもホットな産業になってきている。高齢者娯楽業は一般的に書道、釣り、棋牌(マージャンや将棋等)、写真撮影、舞踊、飲茶、戯曲観賞等を含むが、衣食住以外の高齢者の生活水準の向上に重点を置いている。

養老保険業は社会養老保険と商業養老保険に分けることができる。前者は年金のことであり、すべての企業と個人が参加する義務を負う国家の規定社会保険である。一方、後者はここではまだ新興産業であり、主に特殊なニーズを持っている高齢者をターゲットにしているが、勿論、若・中年層向けの商業養老保険商品も多数発売されている。

最後に、養老社会サービス業は中国では高成長産業であり、高齢者の心理諮詢、権益保護、法律援助、社会救助、特殊団体連合(貧困者、障碍者、知的障碍者等)等を含めている。現段階では、当該業種の多くは政府の主導で非営利の形で行われているが、今後民間企業等も徐々に進出してくるに伴い、営利性企業も多く現れるだろう。

このように、中国の高齢者サービス業はまだ萌芽期にあり、川上産業から川下産業にいたるバリューチェーンは、発展と変貌を遂げていくと考えられる。

一方、日本の当該産業は上述した個々の分野において豊富な経験とノウハウを蓄積しているが、冒頭で述べたように、当面は、日本企業単独での中国における事業拡大は決して容易ではない。仮に、日本の高齢者サービス産業の個々のノウハウを集約した上で、中国でフルバリューチェーンを提供できるような企業が現れれば、中国市場における事業開拓と、強い情報発信が可能になり、一気に市場を拡大できる可能性も否定できないだろう。

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