中国のシルバー産業の動きについて

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2013年に高齢者人口が2億人を超えた中国では、2052年には高齢者数が4.87億人と、全人口の34%を占めると予測されている。シルバー産業が各方面から注目されている中、その重要性および緊急性は、2014年3月24日付の『「政府工作報告」における重点業務の分掌部門の明確化に関する国務院の意見』が発表されたことで再度強調された。同意見を見てみると、高齢者向けサービスを、中国経済の内需を動かすメインエンジンの一つとして位置付けることが、2014年の重点業務の1つとして挙げられている。消費主導の内需拡大をめざし、特に、高齢者向けサービスや健康関連サービスの消費を拡大し、関連サービス企業の設立を支援するとしている。


19世紀のフランス人社会学者のオーギュスト・コントは「人口動態は運命である」と論じたが、中国はまさにその通りである。これまで生産年齢人口が多かったことで中国経済が発展してきたが、70年代末に実施された一人っ子政策により、今や少子化と高齢化が進展している。生産年齢人口が減少してきているため、近い将来の経済停滞が懸念されている。つまり、中国は「人口ボーナス」の恩恵を存分に享受し、経済成長を遂げてきたが、今や「人口オーナス」の負債を払わされる時期に接近しているのだ。人口オーナス期に見られる経済成長の鈍化や、高齢者をめぐる医療、介護など社会保障関連コストの増大など諸問題の発生が間近に迫っている。


高齢者の老後生活をめぐって近年、『中華人民共和国高齢者権益保障法』の大幅改正、普遍性養老年金制度の構築、更に国務院による『高齢者向けサービス産業の発展を速めることに関する幾つかの意見』が発表され、政府の今年度重点業務の範囲に盛り込まれるなど、中国共産党および政府が、高齢者の生活保護や支援のために多大な努力を払っていることが伺える。


421型家庭構造(注:祖父母(4人)+夫婦(2人)+子供(1人)の家庭構造を指す)が益々一般化する中、高齢者を養うためには、伝統的な養老院方式、居家養老(注:在宅型福祉サービス)方式、以房養老(注:リバース・モーゲージ)方式などが挙げられる。


伝統的な養老院方式は、主に政府が手掛けているが、費用対効果が高いものの、入居するのに160年も待つ必要があるように、ベッド数が極端に不足しており、空きがめったにない。


在宅型福祉サービス方式は、訪問サービス、ディ・サービスあるいは近隣互助などの形で、在宅高齢者に対し日常生活のケア・サービスを提供するものである。家庭養老院ともいえるが、サービス提供者は主に、失業した工場労働者や地方からの出稼ぎ労働者で、短期的なトレーニングしか受けていないため、実質的には一般的な家事サービスしか提供できない。


また、リバース・モーゲージ方式では、高齢者が自分の財産権付き住宅を、銀行や保険機関に担保として差し出し、第三者評価機関の資産評価を受けた後、担保とした「自分」の住宅に住みながら、定期的に銀行などから一定金額の養老金を受けて生活をするものである。だが、心理的な抵抗があるのか、あるいは制度上の問題なのか、北京の右安門街道(注:街道とは中国の行政区画の1つで、郷レベルの行政区である)が、ある保険会社と手を組んで同方式を数ヶ月間試行してみたが、手続きをしにきた市民は1人もいなかった。


上記の3つの政府主導の養老方式以外に、近年、高齢者向け団地として開発された養老不動産という方式もある。これを主導するのはほとんどが民間の不動産開発企業である。高齢者向けの医療やバリアフリー通路なども備える必要があるため、投資額が大きく、回収する期間も長い。新しい市場であることから、不動産開発企業にとってはリスクが高い。入居する人たちが高齢で、介護などを必要とすることから、物件の運営管理費用も高い。政府による優遇政策は当面、非営利性高齢者向けサービス機関に対するものが中心であるため、営利性高齢者向けサービス機関に対し、今後どんな政策が打ち出されるかが、この市場の発展を大きく左右するだろう。また、不動産開発企業として、採算性を取るために高齢者向け不動産をどう取り扱うのかについても考える必要がある。


ここで興味深い事例として挙げられるのは、中国人寿を筆頭株主とする遠洋地産という会社である。公開情報によると、同社は、遠洋養老運営管理有限公司を設立し、同時に高齢者向けサービスのブランド「椿萱茂」を立ち上げ、セミ介護型の高齢者向けサービス事業の展開を目指している。将来的に高齢者向けサービス産業を、住宅、商業不動産、金融業務と並んで会社の主力業務の1つとする計画である。


2013年、遠洋地産はアメリカの投資会社であるコロンビア・パシフィック・マネジメント会社とアメリカの有力介護サービス機関であるEmeritusと合弁会社を設立し、初の提携プロジェクトである「椿萱茂・凱健(亦荘)高齢者マンション」の開発・経営に取りくんでいる。これは、高齢者および自立生活能力を一部喪失または完全喪失した高齢者をサービス対象としている。改正後の『高齢者権益保障法』が正式に施行されてから、3日目に、高齢者向けサービス機関執務許可証を取得した初めての高齢者向けサービス機関である。同機関が展開するようなセミ介護型高齢者向けマンションの今後の動きに注目したい。

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