アジアンインサイト
インドネシア金融サービス庁(OJK)誕生と金融監督一元化の動き

2014年3月27日

  • アジア事業開発本部 シニアコンサルタント 中西 昭文

東南アジアの大国インドネシアにおいて、近年安定したユドヨノ政権の下で豊富な天然資源輸出によってもたらされた経済発展の結果、中間所得層が拡大し、その旺盛な消費活動が今や同国経済成長の源泉となっている。世界第4位の人口を抱えるイスラム最大国でありながらも、最近はイースターやハロウィンなど、我が国同様、宗教色の薄い季節ごとのイベントを通じ、ショッピングモールでは消費者の財布が緩む。2013年末もまた、年々熱くなるクリスマス商戦で盛り上がったようだ。

そんな中、インドネシアの金融当局者も例年にない多忙な年末年始を過ごしたと思われる。資本市場やノンバンク金融機関の所管官庁である資本市場監督庁(BAPEPAM-LK)が、金融セクター全般の監督を一手に担う金融サービス庁(OJK:Otoritas Jasa Keuangan)として2014年から新たに始動したからだ。もともとインドネシアでは1990年代後半のアジア通貨危機で金融危機対応の弱さを露呈した反省から、財務省、インドネシア中央銀行(BI:Bank Indonesia)を中心に金融規制監督の改革が進展してきた。2013年末には前身のBAPEPAM-LKにBI傘下の銀行監督局が移管されたことで、一連の金融行政監督機構改革の節目を迎えた。

OJK設立を巡っては金融当局間の温度差に加え、政治的な駆け引きの材料にも使われるなど紆余曲折があり、当初予定から10年近くも経過し、ようやく実現した訳だが、船出も一筋縄ではいかなそうだ。そもそも金融監督機能を一元化する体制を採用する国はアジアのみならず世界的に見渡しても少数派(※1)であり、実際の効果は未知数と言える。一元化に伴い、規制監督の効率性や監督される側の負担軽減上のメリット等が期待される反面、財務省や当初消極的だったとされる中央銀行など他の金融当局との情報共有や連携が不十分な場合、監督機構としての機能は不完全となる。同じく改革の一環で2007年に発足した金融システム安定化フォーラム(※2)(FKSSK:Forum Koordinasi Stabilitas Sistem Keuangan)を通じた金融セクターの安定化や危機対応などの枠組みが効果的に機能するためにも、当局間のより一層の緊密な連携が不可欠といえよう。

さらにOJK固有の特徴として、金融セクターの構成員「各々が責任と自覚をもってセクター発展に寄与する」という理念の下、OJKの運営費は将来、全金融機関からの納付金で賄うという前例のない試みが計画されている。金融機関側からしてみれば税金とは別途新しい負担が課されるため、昨年は納付金の是非や個別機関の負担割合を巡り、様々な議論が行われたようである。納付金の差額に加え、それに上乗せした上納金などで規制や享受するサービスに差が開くなど、インドネシア固有の不透明な官民癒着や不正行為(※3)を防ぐ意味でも、そのような懸念を払拭するための防止策や取り組みも並行して求められよう。

規制監督当局としての機能に加え、金融セクターの保護及び促進の機能も有するOJKでは人材不足の課題も想定される。OJK全体で2013年末時点の職員数を2017年までに約1.5倍の3,500人に増員する計画があるようだ。銀行監督員のみを見た場合、当面BI傘下の銀行監督局局員がBI及びOJK両機関に所属し監督業務を遂行するが、2016年以降OJK所属またはBI帰属の両選択肢が与えられる。インドネシア中央銀行は公的機関や金融機関の中で給与水準が最も高いことで知られ、国内の優秀な人材が揃う機関でもあることから、OJKにおける処遇次第ではBI帰還者が想定以上に増える可能性がある。現在OJKが進める採用・人材開発活動は、監督部門と比べ保護・促進サービスなど新設部門が優先されており、監督員の養成は課題となろう。

以上のように、幾つか課題を抱えた状態で始動した新生OJKではあるが、今後はインドネシアにおける金融セクターを司る重要な機関として、引き続きその動静に注目していきたい。

(※1)大多数の国では中央銀行が銀行監督権限を有する。欧州諸国を中心に過去に金融監督の一元化を採用した国でも、実効性についての議論は絶えない。英国では銀行監督機能が1997年に金融庁(FSA)に移管されたが、2012年に中央銀行(BoE)へ戻された。
(※2)金融セクター全般の監督機能強化を目的に、金融当局4機関(財務省、インドネシア中央銀行、OJK、預金保険機構)が構成し、有事の際の金融セクター安定化に向け具体的な対応策を協議するフォーラム(英語名:Coordinated Forum for Financial System Stability)。
(※3)インドネシアは汚職や官民癒着構造が未だ根深く、近年改善の傾向にあるものの、国際機関公表の各種ガバナンス指標は世界平均を下回る状況が続いている。

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