中国経済を見る戦略キーワード(7)

都市化

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2009年末の経済工作会議で、中国政府は初めて城鎮化(都市化、一般的に‘城市’が大都市、‘鎮’が地方の中小都市を指す)という用語を使用したが、2012年末の同会議で改めて城鎮化を、新指導体制の重点経済政策のひとつと位置付けた。城鎮化の程度を都市定住人口比率で見ると、今や中国では二人に一人が都市に住んでいることになるが、都市に定住していても、実際には農村戸籍のままで都市戸籍住民と同等の公共サービスの提供を受けられない半城市人と呼ばれる人々が約2.5億人にのぼるとされており、現在は半城鎮化浅城鎮化が進んでいるにすぎないと言われている。実際、出稼ぎ農民工の養老保険、医療保険、障害保険への加入率は、2012年末時点で各々、14.3%、16.9%、24%に留まり、また都市の家賃は、彼らの支払い能力をはるかに超えているため、都市での定住をあきらめる農民工も多い(2013年6月28日コラム「農民工報告に見る中国経済の縮図」)。他方で、都市面積は10年間で60%以上の伸びで拡大し、地的城鎮化だけが進み重物軽人(物を重視し人を軽視する)の傾向が顕著だ。最近に至り、専門家はもとより政府も、以人為本、まず住民の利益や福祉の向上に着目した人的城鎮化、農民工が都市戸籍住民と同じ公共サービスを受けられるようにする市民化を通じて、長年続いてきた都市化の制約要因である城郷二元化(都市と農村の二極構造)を一体化する新型城鎮化が重要だと言い始めているのも、こうした状況を意識してのことだ。以前の人々は、(振り子式、都市に出稼ぎに来ても定住できない農民工は式移民と呼ばれてきた)、候烏式(渡り鳥的な、例えば候烏式養老、引退後、季節に合わせてあちこち移動し生活を楽しむという形で使われ、かならずしも悪いニュアンスではない)的な就業に耐えたが、現在、農民工の多くは8090(1980年代、90年代生まれ)の若者で、都市での定住を希望している者が多い。人的城鎮化は重頭(伝統劇などで使われる。動作が多く、困難かつ重要な作業)で、その核心となるのが1950年代末に導入され、50年以上の歴史を有する都市と農村を分離した戸籍制度の改革だ(2013年10月1日リサーチ「中国都市化の課題 」)。


大餅(‘丸いケーキを摊、引き伸ばして大きくする’から、元来は、ひとつの中心から放射線上に拡大させていく都市発展方式を意味するが、専門家の間では、よく考えず無秩序に都市化を進める発展方式という批判的な意味で使用される)の具体的な弊害も指摘され始めている。第一に、人為造城有城無業(人為的に都市を造る結果、都市はできても、そこに産業がない)だ。改革開放初期の1980年代から90年代にかけ、何もない農村から世界の工場になった東莞奇迹(奇跡、東莞は広東省の都市でいち早く外資の工場が林立したことで有名)を中心に、改革開放による経済成長を賞賛する流行語だった村村(家家)点火、戸戸(処於)冒煙が、最近、城鎮化との関係で再びよく引用されている。村村点火、戸戸冒煙は、現在では、当時の粗放的で無計画な開発が環境破壊や生産性の低迷、さらには製品の高付加価値化の失敗をもたらしたとの評価から、今では、行うべきでない旧式の開発形態というマイナスの意味が込められている。産業振興や生活インフラ、生態環境の整備などを伴わない村村点火、戸戸冒煙的な冒進城鎮化(よく考えずに都市化を進める)は、結局、空城睡城鬼城黒城、さらには死城と呼ばれる、人々がそこで眠るだけ、あるいは全く住む人がいない都市を造ることになるだけとの問題意識である。


第二に、第二次世界大戦後の欧米先進国の教訓があるにもかかわらず、中国でも、都市化推進の過程で、大拆大建(大規模な破壊と建設)が進められ、多くの歴史的建造物が失われた後に、一様に高層ビル群が建設される結果、どこの都市も同じで個性がないという千城一面と呼ばれる現象が生じている。


第三に、冒進城鎮化による人口移動が、空巣老人留守老人(高齢化が進む中で若者が出稼ぎに行く結果、急速に増える一人暮らしの老人、60歳以上人口1.67億人のうち約半数は空巣老人)、留守儿童(留守児童、両親が都市に出稼ぎに行く結果、農村で取り残された子供、5,800万人以上にのぼる)、留守婦女といった三留守と呼ばれる深刻な社会問題が生じている。


第四に、これまでのところ城鎮化は中央主導で進められているが、本来は各地域の状況や地域住民のニーズをより詳細に把握しているはずの地方政府が主体となった、自下(下から上へ、ボトムアップ)的な城鎮化になる必要性が強まっているとの問題意識が出てきている。もっともな指摘だが、他方で、その主体となるべき地方政府を見ると、土地財政と呼ばれる土地に依存した地方財政(2013年8月1日アジアンインサイト「中国経済を見る戦略キーワード(6)」)、および役人の政績考核機制(成績評価システム)の問題を抱えている。地方政府幹部にとって、都市は地方の役人がその政績を示す最適の舞台である。役人に能力があるかどうかの評価は、もっぱら亮化、地域の外観をどれだけ現代的に変えたかという、わかりやすい視覚的な要因で決まってしまうため、必要なくても文明城市建設(百度百科によれば、‘文明’は‘野蛮’と対立する概念で、ひとつの社会進歩の状態を意味する)の名の下に無計画に城鎮化が進められる結果、いたるところ供大(供給が需要を上回る)の状況になる傾向がある。多くの地方政府が城鎮化を新たな大規模投資を行う絶好の機会と捉えているという構造的問題があり、都市化とはすなわち投資の大躍進(大規模インフラ投資、‘大躍進政策’は元来、かつて毛沢東が実施し失敗に終わった農業・工業の大増産政策)、不動産開発のことだという地方政府の意識改革にまで踏み込んでいけるかどうかが、ほんとうの質の高い城鎮化を実現する鍵になる。

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